上 下
37 / 48

第37話 ドナー再び

しおりを挟む
 「どうしてお前がここに居るブヒ」


 シュバインは驚きのあまりに尻もちをついた。


 「ローゼ嬢に助けてもらったのだ」


 マルスの瞳はキラキラと輝いていた。それはシュバインに対して恨みなど抱いていないからである。


 「ど……どうしてブヒ。お前は傀儡の香を吸引して俺のおもちゃになったブヒ」
 「そうだな。でも、またローゼ嬢に救ってもらったようだ」


 マルスは涼しげな顔で嬉しそうに話す。


 「ブヒ!ブヒ!ブヒ!また偽聖女が俺様の邪魔をしたブヒ」


 シュバインは細い目を大きく開いてローゼを睨みつける。


 「シュバイン……お前も可哀そうな男だな。俺はローゼ嬢と出会えたことで失った時間を取り戻す機会を貰えた気がする。俺は【鑑定の儀】の結果で全てを失ったと思い込み、お前の誘いに乗って様々な悪事に手を染めてしまった。だが、俺はお前を恨んでなどいない。方法は間違っていたが、絶望のどん底に突き落とされた俺の心を救ってくれたと感謝している。だからこそ、俺は最後にお前への感謝の思いと今まで犯した悪事のけじめとしてお前の策略に抵抗することなく受け入れたのだ」
 「お前は……おもちゃにされることを知っていたブヒ」

 「もちろんだ」
 「ブヒブヒ、ブヒブヒ、お前はバカブヒ。本当に感謝しているのならば、この場でそこの偽聖女を殺すブヒ」


 マルスの思いはシュバインには届かない。むしろ火に油を注ぐようなものであった。


 「シュバイン……残念ながらそれはできない」


 マルスはシュバインを憐れむような悲しい瞳で見る。

 
 「お前は役立たずブヒィ~~~」


 シュバインは醜い顔をさらに歪ませて大声で叫ぶ。


 「役に立てなくて申し訳ない」


 マルスはシュバインとの最後のケジメを付けるため左膝を付いて頭を下げた。


 「頭を下げても許さないブヒィ~。役立たずのお前なんて2度と生徒会室の敷居を跨がせないブヒ。お前はクビだブヒ」


 怒りが収まらないシュバインはマルスを生徒会から除名した。しかし、これはマルスにとっては朗報でしかない。


 「ありがとう、シュバイン」


 マルスは簡単に生徒会から抜け出ることができて、喜びを隠せずに満面の笑みで感謝を述べた。


 「シュバイン、次は俺の番だ。さぁ、活動報告書を受け取れ」


 まだ地面にしりもちをついて座っているシュバインに対して兄は活動報告書を顔面に近づける。


 「嫌だブヒ。俺様に楯突いたお前達の部活など廃部にするブヒィ~~~」


 シュバインは目を閉じて活動報告書を見えないフリをする。


 『ガチャ』


 生徒会室の扉が開く。


 「シュバイン様、高度な治癒魔法を使える魔法士を連れて来ました」
 「シュバイン、ケガをしたようだな。俺が治癒してやろう」


 ナルキッソスと一緒に生徒会室へ入って来たのはドナーであった。


 「ブヒィィィ~~~~~。どうしてドナーがいるブヒ」


 ドナーの姿を見たシュバインは尻もちをついたまま背中から倒れて頭を床に強打する。


 「ブヒィィィィ~~~~」


 シュバインは自滅して悲鳴をあげながら意識を失った。


 「シュバインは意識を失って生徒会の業務ができなくなったようだ。こういう時は規則にのっとり副生徒会長のナルキッソス、お前が代わりに活動報告書を受け取らなければならないはずだ」


 ドナーはナルキッソスを睨みつけて業務の遂行を促す。


 「私はシュバイン様の命令なしでは動けません。そんなことよりもシュバイン様の治療をしてください」


 ナルキッソスはシュバインの容態が気になり顔をくしゃくしゃにしながらドナーに懇願する。


 「約束通りに治療をするかわりに、活動報告書を受け取ってサインをしろ」


 ドナーは再度促す。


 「……わかりました」


 ナルキッソスは一瞬戸惑いを見せるが、シュバインの治療を優先するために活動報告書を受け取りサインをした。


 「お願いします。早くシュバイン様を治療してください」


 ナルキッソスは涙を流しながら懇願する。シュバインは頬にかすり傷を負い、頭を強打して一時的に気を失っているだけである。しばらく安静にしていると目を覚ますことは誰の目から見ても明らかなはずだが、ナルキッソスはこの世の終わりがきたかのような絶望的な顔をして心配している。ゲームではシュバインとナルキッソスの関係は、権力を持つシュバインの腰巾着であったが、今のナルキッソスを見ているとただならぬ深い絆を感じてしまう。


 「安心しろ、約束はきちんと守る」


 ドナーはシュバインに近寄り治癒魔法を施すと、シュバインの頬のかすり傷は消えて意識を取り戻した。


 「ブヒィ~~~~」


 シュバインは気持ち悪い声をあげて目を覚ます。


 「シュバイン様、大丈夫ですか?ドナーに命じて治癒魔法を施しました」


 シュバインが意識を取り戻した姿を見たナルキッソスは極上の笑みを浮かべて歓喜する、


 「ブヒィ~~~。俺様に手を出したヤツ誰ブヒ!即刻死刑にするブヒ」
 「お前らぁ~。シュバイン様になんてことをしてくれたんだ!」


 シュバインが元気を取り戻した途端にナルキッソスはいつもの腰巾着ぷりを発揮する。


 「シュバイン、ナルキッソスが活動報告書を受理したぞ。これ以上料理研究部に関わるな」
 「……なぜ、ドナーがいるブヒ」


 シュバインは意識を失った時に直前の記憶を失っていた。ドナーを見たシュバインは、先ほどと同様に驚いて倒れそうになるが、機転をきかせたナルキッソスがシュバインを受け止めて倒れるのを防いだ。


 「今後一切料理研究部に関わるな」
 「……ブヒ」


 弱みを握られているシュバインは聞こえないほどの小さい声で返事した。


 「ドナー、ありがとう」


 兄はドナーにお礼を言う。


 「今後またシュバインが絡んでくるようなら俺に相談してくれ」
 「わかった。頼らせてもらうぜ」


 兄はドナーに一礼して感謝の意を見せた。また私たちはドナーによってシュバインの横暴から救われた。私たちもドナーにお礼をして生徒会室を去った。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

【完結】召喚されて聖力がないと追い出された私のスキルは家具職人でした。

ファンタジー
結城依子は、この度異世界のとある国に召喚されました。 呼ばれた先で鑑定を受けると、聖女として呼ばれたのに聖力がありませんでした。 そうと知ったその国の王子は、依子を城から追い出します。 異世界で街に放り出された依子は、優しい人たちと出会い、そこで生活することになります。 パン屋で働き、家具職人スキルを使って恩返し計画! 異世界でも頑張って前向きに過ごす依子だったが、ひょんなことから実は聖力があるのではないかということになり……。 ※他サイトにも掲載中。 ※基本は異世界ファンタジーです。 ※恋愛要素もガッツリ入ります。 ※シリアスとは無縁です。 ※第二章構想中!

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後

有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。 乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。 だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。 それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。 王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!? けれど、そこには……。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました

toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。 一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。 主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。 完結済。ハッピーエンドです。 8/2からは閑話を書けたときに追加します。 ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ 応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。 12/9の9時の投稿で一応完結と致します。 更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。 ありがとうございました!

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

処理中です...