上 下
32 / 48

第32話 類似イベント

しおりを挟む
 「風魔法の講義が終わりました。急いで部室に行きましょう」
 「そうね」


 今日1日の全ての講義が終了したので部室へ向かった。


 『ガチャ』
 「リーリエ、リーリエ!活動報告書は作成できたのか」


 部室の扉を開くと不安げな顔をした兄が大声をあげる。


 「大丈夫です、お兄様。きちんと活動実績がわかるようにまとめあげたので問題はありません」


 前世の社会人としての経験が、こんな形で役に立つとは思いもしなかった。


 「騎士として冷静なフラムさんも、リーリエさんのことになると落ち着かないのですね」


 柔らかい笑みを浮かべて兄に声をかけたのはイーリスである。なんとイーリスは第1魔法研究部と兼部で料理研究部に入部したのである。


 「念の為に確認をしただけだ。決してリーリエを信じていないわけではないぞ」


 兄は顔を赤くして少しばつが悪そうに言い訳をする。


 「リーリエさん、少し目を通してよろしいでしょうか」
 「どうぞ、イーリスさん」


 私はイーリスに活動報告書を手渡す。イーリスは手渡された活動報告書を真剣な眼差しで丁寧にじっくりと読む。


 「完璧な報告書ですね。しかし、レシピが事細かく記載されているけど大丈夫なのでしょうか?」


 イーリスはレシピが盗まれる危険性を考えている。


 「イーリスさん、問題はありません。この報告書に記載されているレシピは、すべてレーヴァンツァーン領にて公開済みです。シュバインがレシピを盗んで権利を主張しても無駄になります」
 「さすがリーリエさん。私が添削する必要はなかったようね」

 「そんなことはありません。添削して頂いてありがとうございます」
 「やっぱり私の感は間違っていませんでした。料理の腕だけでなく資料を作成するのも一級品です」


 ゲームのイーリスは、私のことを女生徒を手玉に取る悪役令嬢として認識して、ローゼに近寄らないように防壁として立ちはだかっていた。そんなイーリスが褒めてくれたことに私はとても嬉しく感じた。


 「リーリエは本当にすごいんだぞ」


 兄はどや顔で自分が褒められたかのように嬉しそうだ。


 「はい、はい。リーリエさんがすごいのは理解しています」


 イーリスはあきれ顔で答える。


 「無事に活動報告書はできあがりました。でも、相手は権力を傘にして横暴を働くシュバインさんです。部長のリーリエさんが1人で生徒会室に行くのは危険過ぎると思います」


 ローゼは不安げな顔で進言する。ゲームでは何度も私やローゼに嫌がらせをするシュバインが、簡単に活動報告書を受け取るとは思えない。


 「そういえばマルスさんの話しでは、何かどでかいことを企んでいると言っていたわ。敢えて私1人で言った方か良いかもしれないわ」


 私のせいで他の部員を危険な目にあわせたくはない。


 「ダメです。リーリエさん。もっと私たちを頼ってください」


 ローゼは熱い眼差しで私を見つめる。


 「そうだ。1人で行動するのは良くないぞ」


 兄は力強い眼で私を見る。


 「みんなあなた1人を危険な目をあわせたくないのよ」


 イーリスは優しい瞳で私を見つめる。


 「危険そうなので私はパスなの~」
 「私もパスにゃ~」


 メロウとミーチェは顔を真っ青にして頭を横に振る。ゲームでも2人の戦闘能力は未知数なので一緒に連れて行くべきはないだろう。メーヴェは第1剣術探求部に出席しているので部室には居ない。


 「私とリーリエさん、ローゼにメッサーさんの4人で生徒会室へ向かいましょう。メロウさんとミーチェさんは部室でお留守番をお願いします」
 「はいなの~」
 「任せるにゃ~」


 イーリスが4人で行くことを提案し2人は難を逃れてホッとして笑みがこぼれた。


 「よし、生徒会室へ向かうぞ!」


 兄は気合を入れて掛け声をあげた。


 「お兄様、ちょっと待ってください」


 私は兄に物申す。


 「どうしたのだリーリエ」


 兄は不思議そうに首をかしげる。


 「私はマルスの警告が非常に気になるのです。最悪の事態に備えて作戦を立ててから生徒会室へ向かいませんか」


 ゲームでは存在しないイベントに関しては、ゲームの知識を利用して対策を立てることはできない。しかし、完全に対策を立てられないわけでもない。例えばゲームでは、マルスとローゼが出会うのは部活発表会だったのだが、リアルでは部室で2人は出会うことになる。日時も内容もゲームとは異なる展開だったのだが、結末はゲームと似たような展開になった。今回の生徒会室へ活動報告書を提出するイベントもゲームで体験したイベントと似たような展開になると想定しても良いだろう。
 シュバインが私を生徒会室に呼び出すイベントは存在しないが似たようなイベントはある。それは、シェーンがシュバインに騙されて怪しげなパーティーに参加させられたイベントであるが、まだシェーンとは出会っていないので、このイベントではないと私は考える。次にローゼがシュバインに呼び出されるイベントを思い出してみると、似たようなイベントを思い出したのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

【完結】召喚されて聖力がないと追い出された私のスキルは家具職人でした。

ファンタジー
結城依子は、この度異世界のとある国に召喚されました。 呼ばれた先で鑑定を受けると、聖女として呼ばれたのに聖力がありませんでした。 そうと知ったその国の王子は、依子を城から追い出します。 異世界で街に放り出された依子は、優しい人たちと出会い、そこで生活することになります。 パン屋で働き、家具職人スキルを使って恩返し計画! 異世界でも頑張って前向きに過ごす依子だったが、ひょんなことから実は聖力があるのではないかということになり……。 ※他サイトにも掲載中。 ※基本は異世界ファンタジーです。 ※恋愛要素もガッツリ入ります。 ※シリアスとは無縁です。 ※第二章構想中!

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後

有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。 乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。 だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。 それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。 王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!? けれど、そこには……。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました

toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。 一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。 主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。 完結済。ハッピーエンドです。 8/2からは閑話を書けたときに追加します。 ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ 応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。 12/9の9時の投稿で一応完結と致します。 更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。 ありがとうございました!

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

処理中です...