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第31話 リューゲからマルスへ

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 ローゼはリューゲがマルスであることに気付いていた。しかし、ゲームとは違い光属性がデバフ・バフ効果を無効にする力によって見抜いたのである。リューゲの変装は、ゲームで例えるならばバフ効果に当たる。ローゼの前ではバフ効果は無効になるので、リューゲの変装はすぐにバレてしまい結果的にはゲームと同じになった。


 「お前は……俺の正体にきづいていたのか」


 マルスは顔から滝のような汗を流して動揺している。


 「なぜ、あなたが素性を隠しているのか私にはわかりませんが、それなりの理由があるのでしょう。今リーリエさんもあらぬ噂を吹聴されて堕落令嬢だと揶揄されています。しかし、実際のリーリエさんは堕落令嬢ではなく心の優しい素晴らしい人物です。あなたも本当は心の優しい誠実な人なのではありませんか?だからこそ、本当の自分を隠すために変装をしているのではありませんか」


 マルスはローゼの問いかけに目を泳がせながら下を向く。


 「お前に……俺の何がわかるというのだ……」


 マルスは今にも消えそうなか細い声で呟く。


 「私はあなたのことなんてわかりたくもありません。本当に自分のことをわかって欲しいと思うのなら、変装をして自分を隠さずに正々堂々と生きてください。リーリエさんは堕落令嬢と呼ばれようが気にもせずに堂々と夢に向かって生きています。そんなリーリエさんの夢を潰すような行為を私は絶対に許しません」


 ローゼは一言一言に迷いなく堂々たる態度でマルスに説教をする。しかし、その姿はマルスに手を差し伸べる女神のように美しい光景に見えた。


 「リューゲ……いえ、マルス。私はローゼが説明するような素晴らしい人間ではないわ。でも、これだけは言えるわ。今あなたは変わらなければ一生リューゲとして生きていくことになるはずよ。本当にそれで良いのかしら?あなたは本当は誠実で心の優しい人物だと思うわ。【鑑定の儀】の結果は一生を左右する大事な儀式と言われているけど、その結果を覆すチャンスがないとは言い切れないわ。実際に私の兄は1属性ですが血の滲むような努力をして特級騎士に合格し、さらに高みを目指して頑張っているのよ。あなただって努力すればなりたい自分になれるはずだわ」
 「お……前も……俺の正体に気付いていたのか……」

 「え!だってローゼが……」


 私はフライングをしてしまったようだ。ローゼはリューゲが変装をしていることを見破ったが、正体については一言も話してはいない。おそらくローゼはリューゲに配慮して正体を特定する言葉を避けていたのであろう。それなのに私はマルスと特定してしまったのである。


 「さすが、リーリエさんです。最初からリューゲさんの正体に気付いていたのですね。だからこそ、何も反論せずにリューゲさんの言われた通りに従っていたのですね。リーリエさん、以前にも言いましたけど、もっと自分を大切にしてください。私たちを守るために自分を犠牲にしないで下さい」


 ローゼは本気で私に怒っている。その感情は怒りではなく悲しみである。


 「どうして、お前は堕落令嬢とバカにされているのにこの学院へ来たのだ。俺のようにお前を心底嫌っている奴がいるのはわかっていたはずだ」


 マルスはさっきとまでは違い真剣な目で私を見る。


 「私には絶対にやり遂げないといけないことがあるの。そのためにはどんな手段でも使い、どんなに罵倒されてもかまわないと思っているわ」


 私の気持ちは終始一貫している。リーゼを聖女にして魔王を倒すことである。


 「ふっ、お前は強いな……」


 マルスは軽く笑みを浮かべた。その瞳はもうリューゲではなく心優しいマルスの瞳であった。

 「お前にチャンスを与えてやる。明日までに部活の活動報告書を生徒会に提出しろ。活動の実績を示せばシュバインも廃部にすることはできないだろう。今のアイツは裏生徒会に目を付けられて、派手なことができなくなっている。だから今回は俺が代わりに来たというわけだ。でも油断はしない方が良い。アイツはそのうちどでかいことをするはずだ」
 「どでかいこと……」


 私のゲームの知識ではこの時期にシュバインは何もしないはず。しかし、ゲームのシナリオは完全に狂っている。ここはマルスの忠告を素直に受け入れるべきである。


 「悪いがその内容については俺は知らない。せいぜい、シュバインには気を付けるのだな」


 マルスはそう告げると部室から去って行った。


 「ローゼ、心配をかけてごめんね」
 「本当です。私は頼りないかもしれませんが、いつでも私を頼ってください」


 前回シュバインに剣を向けた件、今回の退部をすると言った件、ローゼは心が張り裂けるほど辛い気持ちになったのである。


 「わかったわ。今度からはローゼにもきちんと相談するわね」
 「はい」


 ローゼは太陽のような眩しい笑みを浮かべて喜んでくれた。


 
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