上 下
23 / 59

第23話 サインの行方

しおりを挟む
 教室棟別館は3階建てで、本来は実習用の教室と一部の部活の部室として利用されていた。しかし、シュバインが入学し強引に生徒会長に就任して、教室棟別館を全て生徒会の所有物として全面改装した。1階は大きな吹き抜けのステージになっておりパーティーなどが開催される。ゲームでもたびたび登場する場所であり、シュバイン主催の怪しげなパーティーが夜な夜な開催されている。私を主人公に選んだ時は、無理やり怪しげなパーティーに参加させられた仲間を助ける為に、この建物に侵入して仲間を救い出すことがあった。ローゼを主人公に選んだ時は、しつこくパーティーに誘うシュバインとトラブルになり、大きな事件に発展する。私は入学早々、この怪しげな建物に入らなければならない事態に運命のいたずらを感じていた。
 生徒会室はステージ中央にあるらせん階段を登った2階にあり、3階はシュバインの私物部屋になっており金銀財宝を散りばめた装飾品で埋め尽くされているだけでなく、ハーレム部屋と言われる後宮が存在する。後宮には生徒、教師、外部の人間など10名以上存在すると言われているが、ゲームは18禁ではなかったので深堀されることはなく、あくまで噂の域を超えることはなかった。
 正面の扉を開くと煌びやかなシャンデリアが出迎えてくれて、奥には特大のシュバインの肖像画が掛けられている。その姿がシュバインであることに気付くのは、ゲームをプレイしたことがある私だけであろう。それはなぜかというと、肖像画の人物は細身の端正な顔立ちのイケメン男子だからである。シュバインと似ている要素は髪の色くらいであとは全くの別人なので、シュバインだと気付く方が難しい。
 

 「2階が生徒会室になるはずだ。先を急ごう」


 ここは学院の敷地内であり教室棟別館なので、警備員や出迎えてくれる者など誰も居ない。しかし、セキュリティーが甘いというわけでもない。この場所は学院の施設の中でも最高峰の魔法具によって監視システムが構築されており、私たちが入って来た情報はすぐにシュバインの元に届いている。その証拠に私たちが2階にあがると1人の男性が生徒会室の前で立っていた。
 

 「貴様らここへ何しにきた」


 私達を待っていたのは、半裸の副生徒会長ナルキッソスである。


 ※ナルキッソス・イエスマン 17歳 フォルモーント王立学院3年生 身長185㎝ 体重100㎏ スキンヘッドの強面 シュバインとは正反対でボディビルダーのような筋骨隆々の肉体 常に上半身裸のナルシスト。


 「新しい部活の申請に来た。生徒会室へ入らせてもらうおう」
 「シュバイン様は非常にお忙しい方だ。今日の生徒会の仕事は全てキャンセルしたからとっとと帰れ」


 ナルキッソスは、威嚇するように筋肉を見せつけながら兄を睨みつける。


 「今日は新入生もしくは在校生が部活を発足できる特別な日だ。そんな日に生徒会の業務を休むとはあり得ないことだ」

 
 今日は1年に1度だけクラブを発足できる特別な日、そんな日に生徒会の業務を休むことはありえない。これは確実に私に対する嫌がらせと言えるだろう。


 「一番に優先されるべき存在はシュバイン様だ。他のヤツラのことなどどうでも良い。さぁ!帰れ帰れ」


 ナルキッソスは手を振って帰るように促す。ゲームでもナルキッソスはシュバインの命令を受けてこのような嫌がらせをするキャラだったので、ゲーム通りに動くナルキッソスを見て、私は思わず笑いそうになり口を塞ぐ。もしもナルキッソスの性格がゲームと同じならば、私はナルキッソスの対処方法を知っている。


 「やかましい偽筋肉がぁー。たいした筋トレもせずに、筋肉増強剤で作られたハリボテの筋肉など何も怖くないわ。さっさと生徒会室に入れるのよ。このすっとこどっこいがぁー」


 私は思い付くだけのゲームのセリフを並べてナルキッソスを恫喝する。すると、ナルキッソスは大きな体を小さくしてブルブルと震え出す。


 「す……すみません。どうぞ中へお入りください」


 ナルキッソスは強面で体もごついが性格は気弱で臆病なのである。そして、筋肉増強剤で作られたハリボテの筋肉のことを言われると泣き出してしまう脆弱キャラであった。私になじられ、偽筋肉だとばらされたことで委縮して、すぐに生徒会室に通してくれた。


 「……」
 「……」
 「……」


 無事に生徒会室へ入ることができたのだが、私が急変して怒鳴りつけたので兄たちはドン引きしてしまった。


 「シュバイン様、助けてください」


 生徒会室の扉を開けるや否や、ナルキッソスは部屋の中へ飛び込んでシュバインに助けを求める。


 「ナルキッソス、どうしたブヒ」
 「あの女が、僕のことを偽筋肉だとバカにするのですぅ。とても悔しい~ですぅ」


 ナルキッソスはまるで子供のような喋り方になり涙目で助けを求めている。


 「ブヒ――――!俺の可愛いナルキッソスをイジメたブヒ!」


 ゆりかごのような椅子に座っていたシュバインは、椅子をゆらゆらと揺らしながら静かに降りて立ち上がり顔を真っ赤にして激高した。


 「ちょっと待て、俺たちは部活発足許可証にサインをもらいに来ただけだ。それを邪魔したのはナルキッソスの方だろ。リーリエは何も悪くはない」


 兄は私をかばうように声を張り上げて応戦する。


 「言い訳は聞かないブヒ。ナルキッソスをイジメたから絶対にサインは押さないブヒ」


 シュバインは豚のような鼻から大きな鼻息を出しながら、兄の意見を退ける。


 「お前は初めからサインを押すつもりなどなかっただろ。生徒会長たるもの自身の好き嫌いで物事を判断するのは間違っている。頼むからサインをしてくれ」


 兄は右膝を付いて頭を下げてお願いする。


 「ブヒブヒ、ブヒブヒ。第1剣術探求部の部長メッサーが俺に頭を下げるとは気持ちが良いブヒ。お前達の態度次第ではサインをしても良いブヒ」


 弱い者ほど下手に出た相手に対して横暴になるのどこの世界でも同じである。


 「私からもお願いします」


 ローゼも右膝を付いて頭を下げた。そして、私とメーヴェも同じように右膝を付いて頭を下げてお願いする。


 「ブヒブヒ、ブヒブヒ。ブヒブヒ、ブヒブヒ。とても良い光景ブヒ。最初からそういう態度を取っていれば快くサインをしたブヒ」


 シュバインは醜い笑みを浮かべながら満足そうに喜んでいる。


 「シュバイン、サインをしてくれるのだな」


 兄は希望を見出したような明るい目をして喜んだ。


 「ダメブヒ――――!」


 シュバインは両手でバツ印を作って、最高のゲスい笑みを浮かべて否定する。卑しく醜いシュバインの好物は相手が絶望する顔を見ることである。私たちに希望を与えてから、絶望に突き落とすのはゲームと同じ手法であった。

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

なんで誰も使わないの!? 史上最強のアイテム『神の結石』を使って落ちこぼれ冒険者から脱却します!!

るっち
ファンタジー
 土砂降りの雨のなか、万年Fランクの落ちこぼれ冒険者である俺は、冒険者達にコキ使われた挙句、魔物への囮にされて危うく死に掛けた……しかも、そのことを冒険者ギルドの職員に報告しても鼻で笑われただけだった。終いには恋人であるはずの幼馴染にまで捨てられる始末……悔しくて、悔しくて、悲しくて……そんな時、空から宝石のような何かが脳天を直撃! なんの石かは分からないけど綺麗だから御守りに。そしたら何故かなんでもできる気がしてきた! あとはその石のチカラを使い、今まで俺を見下し蔑んできた奴らをギャフンッと言わせて、落ちこぼれ冒険者から脱却してみせる!!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹
恋愛
事故で盲目となってしまったローナだったが、その時の衝撃によって自分の前世を思い出した。 思い出してみてわかったのは、自分が転生してしまったここが乙女ゲームの世界だということ。 さらに転生した人物は、"ラスボス令嬢"と呼ばれた性悪な登場人物、ローナ・リーヴェ。 彼女に待ち受けるのは、嫉妬に狂った末に起こる"断罪劇"。 そんなの絶対に嫌! というかそもそも私は、ローナが性悪になる原因の王太子との婚約破棄なんかどうだっていい! 私が好きなのは、幼馴染の彼なのだから。 ということで、どうやら既にローナの事を悪く思ってない幼馴染と甘酸っぱい青春を始めようと思ったのだけどーー あ、あれ?なんでまだ王子様との婚約が破棄されてないの? ゲームじゃ兄との関係って最悪じゃなかったっけ? この年下男子が出てくるのだいぶ先じゃなかった? なんかやけにこの人、私に構ってくるような……というか。 なんか……幼馴染、ヤンデる…………? 「カクヨム」様にて同名義で投稿しております。

引きこもりが乙女ゲームに転生したら

おもち
ファンタジー
小中学校で信頼していた人々に裏切られ すっかり引きこもりになってしまった 女子高生マナ ある日目が覚めると大好きだった乙女ゲームの世界に転生していて⁉︎ 心機一転「こんどこそ明るい人生を!」と意気込むものの‥ 転生したキャラが思いもよらぬ人物で-- 「前世であったことに比べればなんとかなる!」前世で培った強すぎるメンタルで 男装して乙女ゲームの物語無視して突き進む これは人を信じることを諦めた少女 の突飛な行動でまわりを巻き込み愛されていく物語

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...