上 下
22 / 54

第22話 ストーカー

しおりを挟む
 次の日、目を覚ますとローゼが部屋の掃除をしていた。


 「おはようございます。リーリエさん」


 可愛いローゼの笑顔で朝から癒される。


 「おはようございます。リーリエ様。朝食の準備はできていますので顔を洗ってからお食べください」
 「おはよう!ローゼ、メローネ。すぐに顔を洗って朝食をとるわ」


 まだ少し寝たりない私は足元をふらつかせながら洗面所に行って顔を洗う。


 「リーリエ様、今日のご予定ですが、料理研究部を発足するために生徒会室へ赴き、部活発足許可証にサインをもらってきてください。サインをもらえれば部活として認められて部員勧誘活動をすることが許されます。しかしこれは、あくまで仮決定になりますので、今日の部員勧誘会にて5名の部員を揃えることができなければ部活として認められません。多くのことを学ぶためにこの学院では兼部が認められています。しかし、兼部とは二兎を追う者は一兎をも得ずの諺が示すように簡単なことではありませんので、わざわざ堕落令嬢として汚名が轟いているリーリエ様の部活に入部する物好きは皆無に近いでしょう。現在のところ部員はリーリエ様とローゼ様、そしてメッサー様が兼部されるそうなので合計3名になります。死に物狂いで勧誘活動をしなければ部活として成立させることはむずかしいでしょう。もしも、部活が設立できなければ覚悟を決めなければいけません」


 「残り2名ってことね。それくらいないら余裕よ」


 私は余裕の笑みを浮かべる。なぜならば部員を集める秘策があるからだ。2名どころか20名以上集まるのではないかと目論んでいた。


 「リーリエ様、そのような余裕の笑みを浮かべている場合ではありません。おそらく1番困難なことは部活発足許可証にサインをもらうことです。生徒会長はあの卑しき第3王子です。簡単にサインをするとは思えません」


 メローネの言う通りである。ゲームでのシュバインのキャラから考えると簡単にはサインはしないだろう。どんな嫌がらせをするのか想像もできない。それを危惧しているので兄が同行すると言って聞かなかった。しかし、だからこそサインをもらいに行くのは私1人で行きたかった。兄やローゼをトラブルに巻き込みたくない。相手は第3王子のシュバインだ。関わると最悪破滅ルートに辿る可能性もあるからだ。


 「そうね……」


 私は浮かない顔をして返事をする。2人をトラブルに巻き込むくらいなら、いっそ料理研究部など作らない方が良いのではないかと考えた。しかし、堕落令嬢と名を轟かせた私が入れる部活はないだろう。


 「リーリエさん、不安なのですね」


 私の浮かない顔を見て、ローゼが心配そうに声をかける。


 「シュバインは卑劣な男で有名なのよ。ローゼやお兄様に迷惑をかけたくないの」
 「私も噂は聞いております。でも、そんな卑しき男の為にリーリエさんが夢を諦めるのは違うと思います」


 ローゼの正義を貫く真直ぐな瞳を見ると自然と勇気が湧いてくる。ゲームの知識を使ってシュバインからサインをもらう方法はある。しかし、それは兄とローゼを危険にさらすどころか失敗すれば破滅のルートが待っている綱渡りルートと言えるだろう。私は綱渡りルートを選択すべきなのか最後まで迷っていた。


 「ありがとう、ローゼ。やれるだけのことはやってみるわ」


 私は覚悟を決める。もし、2人に大きな危害が及ぶことになれば、私が全責任を担って私自身が破滅するルートを選択すると……。



 「おはよう、リーリエそれにローゼ嬢」


 待ち合わせ場所の教室棟別館に辿り着くと兄が挨拶をする。しかし、その時私はただならぬ気配を感じた。


 「おはようございます、メッサー様」


 ローゼが笑顔で挨拶をするが、私は気配が気になって周りを見渡していた。


 「リーリエ、どうかしたのか」
 「お兄様……」


 私は周りに聞こえないように兄の耳元に近寄りコソコソ話をする。


 「お兄様、なにかただならぬ気配と視線を感じます。もしかするとフラムが物陰に隠れている可能性があります」


 今の段階で私たちに危害を加える相手はフラムと考えるのが妥当であろう。


 「心配するなリーリエ。俺も最大限の警戒をしているが、悪意のある気配は全く感じない。しかし、お前達が来てから気配の気質が変わったようだ。念のために確認しておくか」


 兄もただならぬ気配に感じていた。兄は上を向いて近くに植えてある大きな木に向かって叫び出す。


 「そこにいるのは誰だ?いったい木の上で何をしているのだ」


 兄が声をあげると木が大きく揺れ出して、スルスルと木の幹から女性が滑り落ちてきた。


 「ちょっとセミの採集をしていました……」


 顔を真っ赤にして木から滑り落ちてきたのはメーヴェである。


 「ほほう……。メーヴェ嬢はセミに興味があるのだな。しかし、残念ながら9月になったのでセミはいないだろう。来年がんばるが良い」


 この世界では9月から新学期が始まる。四季は前世と同じで春夏秋冬なので、セミが鳴く季節は終わってしまった。しかし、そこは問題ではない。そもそも、メーヴェはセミを取るために木へ登っていたのではないだろう。

 
 「はい、そうします。ところでメッサー様、今から生徒会室に向かわれるのですか」


 実は昨日、メーヴェは兄に保健室へ連れて行ってもらった時に生徒会室へ行くことを聞いていた。その為兄の動向が気になったメーヴェはストーカーのように付いてきたのである。


 「そのつもりだ。部活を発足するには生徒会長のサインが必要になる。あのシュバインが簡単にサインをするとは思えないから俺も同行することにした」
 「実は……私も料理研究部には少し興味が湧いてきたのです。良かったら一緒に行ってもよろしいでしょうか」


 メーヴェの瞳は恋をするハート型になっている。少しでも兄と一緒に居たいという気持ちが手に取るように理解できた。


 「君も料理研究部に興味があるのか!それは誠に嬉しいことだ。でも、相手は女好きのシュバインだ、君を危険な目にあわせるわけにはいかない」
 「私のことを心配してくれているのですね」


 メーヴェはにやけた顔を兄に見せないように俯いた。


 「君まで危険を冒すことはないのだ」


 兄は俯いたメーヴェを励ますように軽く背中を叩く。するとメーヴェはあまりの嬉しさに、目を爛爛と輝かせて興奮の絶頂に陥る。


 「ううう……」


 メーヴェは歓喜の悲鳴が少し零れてしまう。


 「大丈夫かメーヴェ嬢、まだ病気が治っていないようだな」


 兄はメーヴェの歓喜の悲鳴を気分が悪い嗚咽だと勘違いして、優しく背中をさする。


 「うひぃうひぃ」


 メーヴェは再び歓喜の悲鳴が漏れ出る。


 「メーヴェさん、体調がそぐわないようでしたら、私が保健室に案内いたしましょう」


 純真なローゼは心配した表情でメーヴェに声をかける。


 「もう、大丈夫です!」



 メーヴェは兄との甘い雰囲気をぶち壊したローゼに対して大声を張りあげて答える。


 「お兄様、メーヴェは元気になったようなので先を急ぎましょ」


 私はくだらないことで時間を潰したくないので兄を催促する。


 「そうだな。すぐに許可をもらって勧誘活動をする必要がある。メーヴェ嬢、すまないが先を急ぐので、体調がそぐわないのならゆっくりと休むと良い」
 「お気遣いいただきありがとうございます。でも、私も料理研究部の仮入部員として付いていきます」


 メーヴェは兄の隣に並んで一緒に行くと言い張る。私はこれ以上無駄な時間をかけたくない。


 「お兄様、メーヴェも一緒に連れて行きましょう」
 「そうだな」


 兄も納得をして4人で生徒会室へ向かうことになった。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

処理中です...