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第21話 フラムの選択
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ゲームでのメーヴェは私に憧れを抱いてフォルモーント王立学院へ入学して、部活発表会で兄を倒した時に1人大きな拍手で私の勝利を祝ってくれた。そして、私が闘技台から降りて観客席に座ると、すぐに私の元へ駆けつけて「見学中申し訳ありません。サインを頂けませんか?」と声をかける。その時私は「え!サイン?私の」と答える。これはまさに先ほどのメーヴェと兄が交わした会話と瓜二つであった。
「君はもしかして、メーヴェ嬢なのか」
第1剣術探求部の部長の兄ならメーヴェの噂は知っていたのであろう。
「私のことをご存じなのでしょうか」
メーヴェは顔を緩めて嬉しそうに答える。
「新入生で特級騎士に合格した天才騎士が2名いると聞いている。1人は風属性の属性進化を成し遂げ爆風属性を手にした天翔ける騎士メーヴェ・ヴァンダーファルケ、もう1人は土属性の属性進化を成し遂げ金剛属性を手にした鉄壁の騎士シェーン・ディアマントだ。あの一瞬の模擬戦で俺のエアステップに気付いたとなるとメーヴェ嬢の方だろうと思ったのだ」
シェーンも私のハーレムパーティーになる女性騎士の1人である。この闘技場に来ているはずだが、私と出会うのはもう少し先になる。
「私のことを知っていたのですね。とても嬉しいです」
メーヴェはニコニコと笑いながらウサギのようにぴょんぴょんと跳ねて喜んでいる。
「君とシェーンには推薦枠で入部してもらうつもりだが問題はないだろうか」
メーヴェとは対照的に兄は業務的な受け答えをする。
「もちろんです。ところでお隣の女生徒は誰なのでしょうか?」
メーヴェは私とローゼを睨みつける。
「背の高い黒髪の女性は私の妹のリーリエだ。そして、小柄で銀髪の女性が妹の友達のローゼ嬢になる。メーヴェ嬢、2人と仲良くしてくれたまえ」
「……」
メーヴェは目をハッとさせて驚いている。
「あの噂のリーリエ……に仮聖女のローゼ……」
兄と話してウキウキだったメーヴェの笑みは消え去り次第に顔色が悪くなっていく。
ゲームではメーヴェとローゼが出会うことはないが、騎士を見下す魔法士の頂点の存在とも言えるローゼは、メーヴェにとっては畏怖の対象であった。そして、私はメーヴェの憧れの存在になるはずだったのだが、堕落令嬢として名を馳せることになっている。畏怖の対象と軽蔑の対象が一度に現れてメーヴェは気が動転してしまったのである。
「メーヴェ嬢、顔色が悪いようだがどうかしたのか」
兄は女性にはうといが、こういう変化にすぐに気が付くタイプである。
「すみません、少し気分が悪くなったみたいです」
「本当に大丈夫なのか」
兄はメーヴェに近寄り手を伸ばしてメーヴェの額に手を当てる。メーヴェは憧れの兄に触れられたことにより体が熱くなり火照ってしまう。
「少し熱があるようだ。リーリエ、すまないがメーヴェ嬢を保健室まで連れて行ってくる」
兄はメーヴェを抱え上げてお姫様抱っこをする。
「メーヴェ嬢、手荒なことをしてすまないが、このまま保健室まで連れて行くぞ」
「お願いします」
メーヴェはどこも体調は悪くないのだが、この状況を壊したくないので保健室へ行くことにした。
「グヒヒヒヒ……これはご褒美ですわ」
メーヴェは思わず心の声が漏れてしまうが兄には届いていない。
「リーリエさん、メーヴェさんは大丈夫なのでしょうか」
「……」
心優しいローゼはメーヴェを気遣う言葉を発するが、私はメーヴェの漏れ出た心の声が聞こえて唖然としてしまう。
私たちが部活発表会を見学していた頃、闘技場を抜け出したフラムは魔法修練場にいた。魔法修練場とは魔法結界が張り巡らされたドーム状の大きな建物であり、魔法を思いっきり放つことができる施設である。おもに魔法の授業で使用されることになるが、放課後は第1魔法研究部だけが使用できるようになっている。フラムは第1魔法研究部を退部させられたので、使用することはできないのだが、まだ、管理人はフラムが退部したことを知らないので使用許可が降りたのである。
「糞ったれが!すべてあの堕落令嬢のせいだ」
フラムは魔法を放ってストレスを発散していた。
「あいつさえいなければ、ローゼは俺になびいたはずだ」
フラムの怒りの矛先は全て私に向けられていた。フラムは兄との模擬戦により兄には勝てないと判断し、部長であるイーリスにも勝てる見込みもないので、弱い私に全ての怒りを向けることになる。
「絶対にアイツだけは許さん」
どれだけ魔法を放ってもフラムの怒りが収まることはない。
「ブヒブヒ、ブヒブヒ、ブヒブヒ、ブヒブヒ」
フラムの背後に大きな影が忍び寄る。
「うるさいぞ!ブタガエル」
フラムは振り返らずとも笑い声でシュバインだと気付く。
「いつからお前は俺にそんな口をきけるようになったブヒ」
シュバインは魔法がほとんど使えない弱者だが、誰もがひれ伏す無双の肩書を持っている。普段のフラムならシュバインのことをシュバイン様と呼んでいる。
「黙れ!最強の魔法士の俺に怖いものなど何もない」
フラムは怒りで自分を制御できなくなっている。
「ブヒブヒ、ブヒブヒ、最強ならどうしてこんなところで油を売っているブヒ」
「……」
フラムは図星を付かれて何も言い返すことができない。
「アイツらに復讐をしたいブヒ」
「当たり前だ。近いうちに必ず復讐する……」
先ほどの威勢の良い言葉とは違い、すこし弱々しい声で答える。
「俺様が力を貸してやるブヒ」
「お前の力など借りなくても俺1人でも出来る……」
フラムの顔は次第に憎悪に満ちた怒りの表情から臆病者の弱気な顔に変化する。
「強がるなブヒ。ここに行けばお前を助けてくれるブヒ」
シュバインはメモ書きを渡す。
「俺にかまうな」
フラムはシュバインが手渡したメモ書きをくしゃくしゃにして地面に放り投げる。
「気が変わったらそこに行くブヒ」
シュバインはそう告げると魔法修練場から姿を消した。
「くそ、くそ、くそ……」
フラムは涙ぐみながら地面に両膝を付く。そして、落ちているメモ書きを拾い目を通す。メモ書きには占い館【フルーフ】と書かれていた。
「君はもしかして、メーヴェ嬢なのか」
第1剣術探求部の部長の兄ならメーヴェの噂は知っていたのであろう。
「私のことをご存じなのでしょうか」
メーヴェは顔を緩めて嬉しそうに答える。
「新入生で特級騎士に合格した天才騎士が2名いると聞いている。1人は風属性の属性進化を成し遂げ爆風属性を手にした天翔ける騎士メーヴェ・ヴァンダーファルケ、もう1人は土属性の属性進化を成し遂げ金剛属性を手にした鉄壁の騎士シェーン・ディアマントだ。あの一瞬の模擬戦で俺のエアステップに気付いたとなるとメーヴェ嬢の方だろうと思ったのだ」
シェーンも私のハーレムパーティーになる女性騎士の1人である。この闘技場に来ているはずだが、私と出会うのはもう少し先になる。
「私のことを知っていたのですね。とても嬉しいです」
メーヴェはニコニコと笑いながらウサギのようにぴょんぴょんと跳ねて喜んでいる。
「君とシェーンには推薦枠で入部してもらうつもりだが問題はないだろうか」
メーヴェとは対照的に兄は業務的な受け答えをする。
「もちろんです。ところでお隣の女生徒は誰なのでしょうか?」
メーヴェは私とローゼを睨みつける。
「背の高い黒髪の女性は私の妹のリーリエだ。そして、小柄で銀髪の女性が妹の友達のローゼ嬢になる。メーヴェ嬢、2人と仲良くしてくれたまえ」
「……」
メーヴェは目をハッとさせて驚いている。
「あの噂のリーリエ……に仮聖女のローゼ……」
兄と話してウキウキだったメーヴェの笑みは消え去り次第に顔色が悪くなっていく。
ゲームではメーヴェとローゼが出会うことはないが、騎士を見下す魔法士の頂点の存在とも言えるローゼは、メーヴェにとっては畏怖の対象であった。そして、私はメーヴェの憧れの存在になるはずだったのだが、堕落令嬢として名を馳せることになっている。畏怖の対象と軽蔑の対象が一度に現れてメーヴェは気が動転してしまったのである。
「メーヴェ嬢、顔色が悪いようだがどうかしたのか」
兄は女性にはうといが、こういう変化にすぐに気が付くタイプである。
「すみません、少し気分が悪くなったみたいです」
「本当に大丈夫なのか」
兄はメーヴェに近寄り手を伸ばしてメーヴェの額に手を当てる。メーヴェは憧れの兄に触れられたことにより体が熱くなり火照ってしまう。
「少し熱があるようだ。リーリエ、すまないがメーヴェ嬢を保健室まで連れて行ってくる」
兄はメーヴェを抱え上げてお姫様抱っこをする。
「メーヴェ嬢、手荒なことをしてすまないが、このまま保健室まで連れて行くぞ」
「お願いします」
メーヴェはどこも体調は悪くないのだが、この状況を壊したくないので保健室へ行くことにした。
「グヒヒヒヒ……これはご褒美ですわ」
メーヴェは思わず心の声が漏れてしまうが兄には届いていない。
「リーリエさん、メーヴェさんは大丈夫なのでしょうか」
「……」
心優しいローゼはメーヴェを気遣う言葉を発するが、私はメーヴェの漏れ出た心の声が聞こえて唖然としてしまう。
私たちが部活発表会を見学していた頃、闘技場を抜け出したフラムは魔法修練場にいた。魔法修練場とは魔法結界が張り巡らされたドーム状の大きな建物であり、魔法を思いっきり放つことができる施設である。おもに魔法の授業で使用されることになるが、放課後は第1魔法研究部だけが使用できるようになっている。フラムは第1魔法研究部を退部させられたので、使用することはできないのだが、まだ、管理人はフラムが退部したことを知らないので使用許可が降りたのである。
「糞ったれが!すべてあの堕落令嬢のせいだ」
フラムは魔法を放ってストレスを発散していた。
「あいつさえいなければ、ローゼは俺になびいたはずだ」
フラムの怒りの矛先は全て私に向けられていた。フラムは兄との模擬戦により兄には勝てないと判断し、部長であるイーリスにも勝てる見込みもないので、弱い私に全ての怒りを向けることになる。
「絶対にアイツだけは許さん」
どれだけ魔法を放ってもフラムの怒りが収まることはない。
「ブヒブヒ、ブヒブヒ、ブヒブヒ、ブヒブヒ」
フラムの背後に大きな影が忍び寄る。
「うるさいぞ!ブタガエル」
フラムは振り返らずとも笑い声でシュバインだと気付く。
「いつからお前は俺にそんな口をきけるようになったブヒ」
シュバインは魔法がほとんど使えない弱者だが、誰もがひれ伏す無双の肩書を持っている。普段のフラムならシュバインのことをシュバイン様と呼んでいる。
「黙れ!最強の魔法士の俺に怖いものなど何もない」
フラムは怒りで自分を制御できなくなっている。
「ブヒブヒ、ブヒブヒ、最強ならどうしてこんなところで油を売っているブヒ」
「……」
フラムは図星を付かれて何も言い返すことができない。
「アイツらに復讐をしたいブヒ」
「当たり前だ。近いうちに必ず復讐する……」
先ほどの威勢の良い言葉とは違い、すこし弱々しい声で答える。
「俺様が力を貸してやるブヒ」
「お前の力など借りなくても俺1人でも出来る……」
フラムの顔は次第に憎悪に満ちた怒りの表情から臆病者の弱気な顔に変化する。
「強がるなブヒ。ここに行けばお前を助けてくれるブヒ」
シュバインはメモ書きを渡す。
「俺にかまうな」
フラムはシュバインが手渡したメモ書きをくしゃくしゃにして地面に放り投げる。
「気が変わったらそこに行くブヒ」
シュバインはそう告げると魔法修練場から姿を消した。
「くそ、くそ、くそ……」
フラムは涙ぐみながら地面に両膝を付く。そして、落ちているメモ書きを拾い目を通す。メモ書きには占い館【フルーフ】と書かれていた。
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