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第14話 私の決意

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 「ローゼ、私のせいで入学式に参加できなくなってごめんなさい」


 私は前世の記憶にある最上級の謝り方である土下座をする。ローゼは見慣れない土下座ポーズを見て目を丸くして驚いている。


 「そ……そんな姿勢をして頭を床につけないで、どうか頭をお上げください。私は全く気にしていません。それよりも、リーリエさんと楽しい時間を過ごせたので嬉しかったです」


 ローゼの優しい声の響きから、気を使って嘘を付いているわけではないようだ。しかし、入学式はローゼにとって大事なイベントになるはずだった。私はどんなに頭を下げても許されることではなかった。


 「本当にごめんなさい」


 私は頭を地面にこすり付けたままもう一度謝る。


 「リーリエさん、そんなに謝らないでください。入学式に出席できなかったのは私にも責任があります。実は話の途中で入学式の開始時間が過ぎていることに気づいていたのです。でも、入学式へ参加することにそれほど乗り気ではありませんでした。それにリーリエさんの話がとても楽しくて夢中になってしまったのです。なので謝らなければいけないのは私の方です。ごめんなさい」


 リーリエは私の土下座ポーズが貴族の公式的な謝り方だと勘違いして、私の姿をマネして土下座をする。


 「お2人共、何をしているのでしょうか?過ぎてしまったことはしかたありませんので、明日の部活発表会は必ずご出席してください」


 メローネは2人の奇妙なポーズをみて、ここは自分がとめなければいけないと使命感が働き、私達をなだめるように声をかけた。


 「ク……クスクスクス」


 私はローゼが深刻な顔をして土下座をしている姿を見て思わず笑ってしまった。一方、ローゼは困惑した表情で目をキョトンとしている。


 「メローネ様、お貴族様が謝る時はこのようなポーズをするのではないのでしょうか?」


 ローゼはメローネに問いかける。


 「ローゼ様、まず私に敬称は必要ありません。そして、その奇妙なポーズの件ですが、貴族が謝罪する時にするポーズでは決してありません。どうしてリーリエ様がそのようなポーズをしたのか私には理解できません」


 メローネは首をかしげながら答える。それを聞いたローゼは急に恥ずかしくなって顔を真っ赤にして手で顔を隠した。


 「恥ずかしいです」
 「ローゼ、これはとある国に伝わる誠心誠意を込めた由緒ある謝り方なのよ。けっして恥ずかしいポーズではないの」


 私は声を張ってローゼを励ます。


 「リーリエ様、どのような文献をお読みになって得た知識かわかりませんが、そのポーズはお辞めになってください。ローゼ様もお困りの様子です」
 「そうね。ローゼ、一旦仕切り直しましょ」
 「わかりました」


 私とローゼは一旦椅子に腰かける。


 「ローゼ、本当にごめんなさい」


 私は申し訳ない気持ちでいっぱいなので再び謝る。


 「リーリエ様、これ以上の謝罪をローゼ様は望んではいません。入学式に出ることが出来なかったことは非常に残念ですが、お互いに良き友人と巡り合えたので良かったのではないのでしょうか」
 「メローネさんの言う通りです。入学前からいじめられないのか不安でいっぱいでしたが、案の定、入学式へ向かう途中、お貴族様に絡まれてしまい土まみれになってしまいました。覚悟はしていましたので、それほど落ち込むことはなく体を洗おうと寮を抜け出そうと考えていた時に見知らぬ男性の方が優しくお声をかけて下さいました。でも、見ず知らずの男性に付いて行くのは怖かったので、迷っていたところを強引に私の手を引いて連れ去ってくれたのがリーリエさんです。強引過ぎて初めはドン引きしてしまいましたけれど、話しているうちにとても気さくで優しい方だとわかりました。私はリーリエさんと出会えたことでこの学院に入学してよかったと思いました。平民の私でよろしければお友達になってください」


 ローゼはひまわりのような元気な笑みを浮かべながら私に手を差し出した。ゲームでは私とは違い圧倒的な可愛さで男子生徒をメロメロにするローゼの笑みは最強だ。ゲームの進行を考えると、私とローゼが全面的に仲良くなるのは避けた方が良い。今回はローゼが陰湿ないじめに合うルートを避けるために仕方なくローゼを助けただけだ。あくまで私は裏方として陰でローゼを聖女として成長するルートに導くのが使命である。しかし、私はローゼの差し出した手を払いのけることなど出来なかった。


 「こちらこそ、お願いするわ」


 私は喜んでローゼの小さな可愛い手を握る。ローゼの暖かい手の温もりを感じると同時に、ローゼが少し震えているのを感じ取ることができた。


 「よかったです」


 ローゼの眩い黄金の瞳から涙が零れ落ちる。
 ローゼが少し震えていたのは、断られるかもしれないと不安を抱いていたからである。私は強くローゼの手を握るとローゼも強く手を握り返してくれた。私はこの時に覚悟を決める。ローゼを陰で支えるのではなく一緒に並び立って支えていくと。ゲームでは交わることはない2人、私のこの選択が吉と出るか凶とでるのかわからない。しかし、ここで差し出された手を払いのけたら、一生後悔するということだけはわかっていた。


 
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