上 下
14 / 54

第14話 私の決意

しおりを挟む
 「ローゼ、私のせいで入学式に参加できなくなってごめんなさい」


 私は前世の記憶にある最上級の謝り方である土下座をする。ローゼは見慣れない土下座ポーズを見て目を丸くして驚いている。


 「そ……そんな姿勢をして頭を床につけないで、どうか頭をお上げください。私は全く気にしていません。それよりも、リーリエさんと楽しい時間を過ごせたので嬉しかったです」


 ローゼの優しい声の響きから、気を使って嘘を付いているわけではないようだ。しかし、入学式はローゼにとって大事なイベントになるはずだった。私はどんなに頭を下げても許されることではなかった。


 「本当にごめんなさい」


 私は頭を地面にこすり付けたままもう一度謝る。


 「リーリエさん、そんなに謝らないでください。入学式に出席できなかったのは私にも責任があります。実は話の途中で入学式の開始時間が過ぎていることに気づいていたのです。でも、入学式へ参加することにそれほど乗り気ではありませんでした。それにリーリエさんの話がとても楽しくて夢中になってしまったのです。なので謝らなければいけないのは私の方です。ごめんなさい」


 リーリエは私の土下座ポーズが貴族の公式的な謝り方だと勘違いして、私の姿をマネして土下座をする。


 「お2人共、何をしているのでしょうか?過ぎてしまったことはしかたありませんので、明日の部活発表会は必ずご出席してください」


 メローネは2人の奇妙なポーズをみて、ここは自分がとめなければいけないと使命感が働き、私達をなだめるように声をかけた。


 「ク……クスクスクス」


 私はローゼが深刻な顔をして土下座をしている姿を見て思わず笑ってしまった。一方、ローゼは困惑した表情で目をキョトンとしている。


 「メローネ様、お貴族様が謝る時はこのようなポーズをするのではないのでしょうか?」


 ローゼはメローネに問いかける。


 「ローゼ様、まず私に敬称は必要ありません。そして、その奇妙なポーズの件ですが、貴族が謝罪する時にするポーズでは決してありません。どうしてリーリエ様がそのようなポーズをしたのか私には理解できません」


 メローネは首をかしげながら答える。それを聞いたローゼは急に恥ずかしくなって顔を真っ赤にして手で顔を隠した。


 「恥ずかしいです」
 「ローゼ、これはとある国に伝わる誠心誠意を込めた由緒ある謝り方なのよ。けっして恥ずかしいポーズではないの」


 私は声を張ってローゼを励ます。


 「リーリエ様、どのような文献をお読みになって得た知識かわかりませんが、そのポーズはお辞めになってください。ローゼ様もお困りの様子です」
 「そうね。ローゼ、一旦仕切り直しましょ」
 「わかりました」


 私とローゼは一旦椅子に腰かける。


 「ローゼ、本当にごめんなさい」


 私は申し訳ない気持ちでいっぱいなので再び謝る。


 「リーリエ様、これ以上の謝罪をローゼ様は望んではいません。入学式に出ることが出来なかったことは非常に残念ですが、お互いに良き友人と巡り合えたので良かったのではないのでしょうか」
 「メローネさんの言う通りです。入学前からいじめられないのか不安でいっぱいでしたが、案の定、入学式へ向かう途中、お貴族様に絡まれてしまい土まみれになってしまいました。覚悟はしていましたので、それほど落ち込むことはなく体を洗おうと寮を抜け出そうと考えていた時に見知らぬ男性の方が優しくお声をかけて下さいました。でも、見ず知らずの男性に付いて行くのは怖かったので、迷っていたところを強引に私の手を引いて連れ去ってくれたのがリーリエさんです。強引過ぎて初めはドン引きしてしまいましたけれど、話しているうちにとても気さくで優しい方だとわかりました。私はリーリエさんと出会えたことでこの学院に入学してよかったと思いました。平民の私でよろしければお友達になってください」


 ローゼはひまわりのような元気な笑みを浮かべながら私に手を差し出した。ゲームでは私とは違い圧倒的な可愛さで男子生徒をメロメロにするローゼの笑みは最強だ。ゲームの進行を考えると、私とローゼが全面的に仲良くなるのは避けた方が良い。今回はローゼが陰湿ないじめに合うルートを避けるために仕方なくローゼを助けただけだ。あくまで私は裏方として陰でローゼを聖女として成長するルートに導くのが使命である。しかし、私はローゼの差し出した手を払いのけることなど出来なかった。


 「こちらこそ、お願いするわ」


 私は喜んでローゼの小さな可愛い手を握る。ローゼの暖かい手の温もりを感じると同時に、ローゼが少し震えているのを感じ取ることができた。


 「よかったです」


 ローゼの眩い黄金の瞳から涙が零れ落ちる。
 ローゼが少し震えていたのは、断られるかもしれないと不安を抱いていたからである。私は強くローゼの手を握るとローゼも強く手を握り返してくれた。私はこの時に覚悟を決める。ローゼを陰で支えるのではなく一緒に並び立って支えていくと。ゲームでは交わることはない2人、私のこの選択が吉と出るか凶とでるのかわからない。しかし、ここで差し出された手を払いのけたら、一生後悔するということだけはわかっていた。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...