上 下
9 / 71

第9話 家族への感謝

しおりを挟む
 兄の堂々たる清々しい笑みを見た父は重いを決断する。


 「リーリエをフォルモーント王立学院に入学させよう」
 「ありがとうございます」

 
 兄は両目に涙を貯めながら嬉しそうに微笑んだ。


 「しかし、1つだけ条件がある」
 「父上、条件とは」


 「リーリエの意志を尊重することだ。リーリエには2つの選択肢を用意しよう。領内の学校もしくはフォルモーント王立学院に通うのかは本人に決めてもらう。フォルモーント王立学院へ入学することは、困難な道のりを選ぶことになるはずだ。俺はその道を強要するつもりはない」


 フォルモーント王立学院へ入学するには3つの方法がある。1つ目は試験を受けて合格する方法。2つ目は国王の推薦で入学する方法、3つ目はコネとお金を使って入学する方法である。1つ目は実技と筆記があるのだが、実技は騎士なら剣聖試験で下級騎士に合格することで、魔法士なら賢者試験で下級魔法士に合格する必要がある。2つ目はゲームの私やローゼのように秀でた才能の持ち主などが国王直々に入学するように勅命が下される。3つ目は5大貴族や大金持ちの商人、もしくは王族関係者などがコネや財力で入学する方法である。父は3つ目の5大貴族の権力と資産で私を入学させることに決めた。しかし、入学試験に来ていない人物が入学するとすぐに3つ目の方法で入学したことはバレてしまうので、学生たちからは冷たい態度がとられることも多い。とくに堕落令嬢として名をはせている私へのあたりがキツくなることは必然であった。


 次の日、兄は学院の寮へ戻り、私は家に帰るための馬車に乗る。そして、馬車の中で父は重い口を開くことになる。


 「リーリエ、大事な話がある」
 「はい、お父様」


 唐突に真剣な表情に変わった父の顔を見て、私は何か粗相をしたのではないかと緊張が走る。思い返すと数件は身に覚えがあるからだ。


 「今後のお前の将来のことだが、メッサーの助言をもとに2つの選択肢を用意した。1つは領内の学校に入学すること、もう1つはフォルモーント王立学院へ入学することだ。どちらの道を選んでも、お前がやりたいことをすれば良いと考えている」


 父は私の目をじっと見て私の意志を問う。私も父の真剣な問いかけに真摯な思いで答えをだす。


 「お父様、私はフォルモーント王立学院に入学したいです」


 自分からフォルモーント王立学院に入学したいとは言えなかったので、父からの提案は天にも昇るほど嬉しい気持ちであった。実は私には1つ気がかりなことがあった。それは聖女ローゼのことである。ゲームのシナリオと同じように私が14歳の時に、ローゼが聖女ではないかとの噂が王国中に広まり、ローゼにフォルモーント王立学院へ入学するように勅命が下された。このままゲームのシナリオ通りに話が進むと、ローゼはフォルモーント王立学院で聖女として成長をして魔王を倒すことになる。しかしゲームでは、ローゼが選択肢を間違えると聖女になれず国が滅んでしまうバットエンドを迎えることになる。これはこのリアルの世界でも同じことが言えるだろう。ローゼが選択肢を間違えずに魔王を倒すとは絶対に言いきれない。だが、私はローゼが聖女となって魔王を倒すルートを知っている。いくら主役の座をローゼに任せたからといって、のほほんと領内の学校に通ってスローライフを満喫するわけにはいかない。
 13歳の時、前世の記憶が蘇った時の私はあまりにも考えが幼かった。この2年、兄の強い志を見て私も成長したのである。しかし、気付いた時には既に遅かった。魔法が使えない私は下級騎士にさえなれずフォルモーント王立学院へ入学する門は閉ざされたのである。全てのことを父に話してフォルモーント王立学院に入学する道は残されていたのかもしれない。でも、私の素っ頓狂な話を信じてもらえるとは思えなかった。


 「わかった。俺に任せろ」


 父は理由など聞かずに力強く答える。私は何も聞いてこない父の優しさがとてもうれしかった。


 「お父様、ありがとうございます」


 私は歓喜余って思わず父の大きな胸元に抱きつきたいと思ったが、甘えているように思ったので思いとどまる。


 「リーリエ、俺達家族はいつでもお前も味方だ」


 父は私の気持ちを察したように微笑んでくれた。


 「お父様」


 私は感情を抑えることができなくなり父の大きな胸元に飛び込んで涙を流す。自分の軽はずみな行動で招いた大きな出来事、家族はほとんど詮索せずに私の意志を尊重してくれた。今回も父は私に2つの選択肢を用意してくれた。家族の優しさに私は感謝の気持ちを抑えきれずに大泣きしてしまった。


 そして、2か月後、私はフォルモーント王立学院の入学式を迎えることとなる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

アイスさんの転生記 ~貴族になってしまった~

うしのまるやき
ファンタジー
郡元康(こおり、もとやす)は、齢45にしてアマデウス神という創造神の一柱に誘われ、アイスという冒険者に転生した。転生後に猫のマーブル、ウサギのジェミニ、スライムのライムを仲間にして冒険者として活躍していたが、1年もしないうちに再びアマデウス神に迎えられ2度目の転生をすることになった。  今回は、一市民ではなく貴族の息子としての転生となるが、転生の条件としてアイスはマーブル達と一緒に過ごすことを条件に出し、神々にその条件を呑ませることに成功する。  さて、今回のアイスの人生はどのようになっていくのか?  地味にフリーダムな主人公、ちょっとしたモフモフありの転生記。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...