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第6話 兄の誓
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おそらく呪いのリングの効果とは、魔法を使えなくするアイテムだと思う。この世界の騎士は魔法で筋力などを強化して人間の身体能力を超えた剣術を操る。例えば鋼より堅い皮膚を持つ魔獣を一振りで真っ二つにしたり、例えば5mをこえる強大な魔獣に遭遇しても、軽くジャンプをして頭から切り裂くことできる。
5年間の基礎特訓をした私は、あらゆる肉体強化の魔法を息をするように自然と発動することができる。魔力が切れないように調整をすれば、厳しい特訓をしてもバテることはないだろう。しかし、魔法が使えない私は一切の肉体強化の魔法を使うことができず、生身の体で特訓を受けなければいけない。魔法を使えない私がすぐに体力が無くなりへばってしまうのは当然だった。
「体の調子が悪くて魔法が使えないみたいなの……」
私は嘘を付く。
「もしかすると、3属性の魔力を上手く操作できていないのかもしれないぞ。リーリエ、焦らずともよい。自分のペースでゆっくりと精進しろ」
「はい、お父様」
父は私を励ますように元気強く声をかけてくれた。しかし、練習場から去っていく父の後ろ姿は元気がなく寂しそうだった。父は兄に配慮して、私が3属性を授かったことを手放しに喜ぶことはしなかった。口では兄と私を比べるような発言はせずに、兄と同じように剣の稽古をつけるが、気合の入り方が違うのは一目瞭然だった。それは、声の張りや生き生きとした姿から感じ取ることができる。父はレーヴァンツァーン家から聖騎士を誕生させることを誉に思い、絶対に成し遂げたい夢でもあった。私はそんな父の気持ちを配慮せず聖騎士になるルートから逃げたことを申し訳なく思っていた。
私の特訓は3か月を経過した。呪いのアイテムの効果により一向に成長する気配はない。そんな私に父は見限ることなく特訓内容をいろいろと模索して、私の体力に見合った特訓メニューを作ってくれた。私は今の体でできる限界まで頑張ってメニューを消化して、体が動けなくなるまで特訓に励む。今日もくたくたになるまでがんばり、シャワーも浴びずにそのままベットへ倒れ込む。すると、扉をノックする音が聞こえた。
「リーリエ様、メッサー様がお話をしたいそうです」
「え!お兄様が?すぐに中へ入ってもらって」
兄が私の部屋に入り、気を利かしたメローネが部屋を出る。
「お兄様、もうしわけありません。特訓でクタクタなので寝転んだ状態でよろしいでしょうか?」
「構わん。楽にしてくれ」
兄は緊張した面持ちですこしそわそわしているようだった。
「お兄様、どうしたのかしら?」
兄は明日からフォルモーント王立学院に入学する。もしかしたら、別れの挨拶をしにきたのかもしれない。
「リーリエ、申し訳ない。俺は最低な兄だ」
兄は思いつめた表情をしながら左膝を付いて頭を下げた。剣聖試験で兄が下級騎士に合格した後、特に兄とはトラブルはなく、個別に父もしくは雇われたベテラン騎士から特訓を受けていて、さらに剣の技術が向上していた。だから、急に兄が謝り出したのでびっくりした。
※ この世界では右膝を付いて頭を下げるのが忠誠もしくは尊敬の証。逆の左膝を付いて頭を下げるのが最大級の謝罪の証である。
「え!」
私は驚いて目が点になる。
「俺はお前が3属性持ちだと聞いた時、当主の座を奪われるのではないかとひどく動揺し、どれだけ頑張ってもお前には勝てるはずがないと悲観した。父は俺に当主の座を託すと言ったが、その言葉も信用できなかった。下級騎士にはなれたけれど、すぐにお前に追い抜かれてしまうのかと、いつも不安な日々を過ごしていた。でも、お前はこの3か月、全く成長の兆しがみられず、さらに以前よりも体力技術共に落ちているように感じた。俺はそんなお前の姿を見て内心ホッとして喜んでしまったのだ……」
兄は涙を流しながら自分の気持ちを語り出した。
「そんな情けない俺にお前はいつも笑顔で俺を応援してくれた。初めはその応援すら皮肉だと捉えてしまい素直に受け取ることはできなかった、でも、お前は自分が成長しない悔しさを隠しながらも絶えず俺を応援してくれた。やっと俺は気付くことができたのだ。お前は心の底から俺が強くなることを応援してくれてたことに……本当にすまない」
床は兄が流した涙でにじんでいた。
「お兄様、何も気にしなくても良いのです。私が上達しないのは私の責任です」
自分が蒔いた種である。
「私はお兄様が強くなる姿を見られることがうれしいのです。きっとお兄様は在学中に上級騎士にも合格するはずです」
ゲームでは兄は剣聖試験で下級騎士に合格したが、私が本格的な特訓を初めて、たった1カ月後に完膚なきまでに敗北して完全に心が折れてしまう。その後、憎しみと嫉妬に狂った兄はフォルモーント王立学院に入学して剣の腕を磨くが中級騎士までしか合格することはなかった。しかし、今の兄の努力を見ていると中級騎士で終わるとは絶対に思いたくはない。
「……ありがとう。こんな情けない兄にそれほどまでの期待をしてくれているのは本当に嬉しい。お前だってこのまま父の特訓を受け続ければ、俺を上回る結果を残す騎士になれるはずだ。でも……」
兄は少し言葉につまる。そして、思いのたけを吐き出すように話し始める。
「もし、お前がこのまま剣の腕が上達しなくても何も恥じることはない。お前が一生懸命頑張っていることは俺だけでなく父上もわかっている。それに、俺はお前の想像を超える立派な騎士になる。そして、お前の剣の腕前をバカにするヤツがいれば俺が黙ってはいない。俺はお前を守るために父と同じ近衛騎士になると宣言する」
兄は私のことを心配しているのである。3属性持ちの騎士ならば入学する前に、上級騎士に合格してもおかしくない。実際にゲームでは、上級騎士を上回る王国騎士に合格する。それなのに、今の私は見習い騎士にも合格できない実力だ。このままでは王国中の笑いものになるのは必然だ。そんな私の不遇の未来を心配して兄は優しい声をかけてくれたのである。
「ありがとうございます。お兄様」
私は兄の気持ちを聞いてとても嬉しかった。ゲームでは私の才能に嫉妬して決して仲良くなることはないのだが今は違う。ゲームの調整力かもしれないが、一時は私のことを憎む対象者として受け入れ、私を憎もうとしたのかもしれない。しかし、兄はゲームの調整力に勝ったのだ。私を憎むことを辞めて私を受け入れることを選んだのである。
私は歓喜のあまり大好きな兄に飛びついて抱きしめた。そして、兄も強く抱きしめてくれる。
「リーリエ、俺に任せろ」
「はい、お兄様」
メローネから連絡を受けていた父は、メッサーのことが気になり、私の部屋の扉の前に立ち盗み聞きをしていた。部屋から微かに聞こえる兄妹の話しを聞いた父は目頭が熱くなり、声を押し殺して黙ってその場を立ち去った。
そして2年後、私はギリギリで見習い騎士の試験に合格した。一方兄はフォルモーント王立学院2年生の終わりに、特級騎士に合格したのであった。
5年間の基礎特訓をした私は、あらゆる肉体強化の魔法を息をするように自然と発動することができる。魔力が切れないように調整をすれば、厳しい特訓をしてもバテることはないだろう。しかし、魔法が使えない私は一切の肉体強化の魔法を使うことができず、生身の体で特訓を受けなければいけない。魔法を使えない私がすぐに体力が無くなりへばってしまうのは当然だった。
「体の調子が悪くて魔法が使えないみたいなの……」
私は嘘を付く。
「もしかすると、3属性の魔力を上手く操作できていないのかもしれないぞ。リーリエ、焦らずともよい。自分のペースでゆっくりと精進しろ」
「はい、お父様」
父は私を励ますように元気強く声をかけてくれた。しかし、練習場から去っていく父の後ろ姿は元気がなく寂しそうだった。父は兄に配慮して、私が3属性を授かったことを手放しに喜ぶことはしなかった。口では兄と私を比べるような発言はせずに、兄と同じように剣の稽古をつけるが、気合の入り方が違うのは一目瞭然だった。それは、声の張りや生き生きとした姿から感じ取ることができる。父はレーヴァンツァーン家から聖騎士を誕生させることを誉に思い、絶対に成し遂げたい夢でもあった。私はそんな父の気持ちを配慮せず聖騎士になるルートから逃げたことを申し訳なく思っていた。
私の特訓は3か月を経過した。呪いのアイテムの効果により一向に成長する気配はない。そんな私に父は見限ることなく特訓内容をいろいろと模索して、私の体力に見合った特訓メニューを作ってくれた。私は今の体でできる限界まで頑張ってメニューを消化して、体が動けなくなるまで特訓に励む。今日もくたくたになるまでがんばり、シャワーも浴びずにそのままベットへ倒れ込む。すると、扉をノックする音が聞こえた。
「リーリエ様、メッサー様がお話をしたいそうです」
「え!お兄様が?すぐに中へ入ってもらって」
兄が私の部屋に入り、気を利かしたメローネが部屋を出る。
「お兄様、もうしわけありません。特訓でクタクタなので寝転んだ状態でよろしいでしょうか?」
「構わん。楽にしてくれ」
兄は緊張した面持ちですこしそわそわしているようだった。
「お兄様、どうしたのかしら?」
兄は明日からフォルモーント王立学院に入学する。もしかしたら、別れの挨拶をしにきたのかもしれない。
「リーリエ、申し訳ない。俺は最低な兄だ」
兄は思いつめた表情をしながら左膝を付いて頭を下げた。剣聖試験で兄が下級騎士に合格した後、特に兄とはトラブルはなく、個別に父もしくは雇われたベテラン騎士から特訓を受けていて、さらに剣の技術が向上していた。だから、急に兄が謝り出したのでびっくりした。
※ この世界では右膝を付いて頭を下げるのが忠誠もしくは尊敬の証。逆の左膝を付いて頭を下げるのが最大級の謝罪の証である。
「え!」
私は驚いて目が点になる。
「俺はお前が3属性持ちだと聞いた時、当主の座を奪われるのではないかとひどく動揺し、どれだけ頑張ってもお前には勝てるはずがないと悲観した。父は俺に当主の座を託すと言ったが、その言葉も信用できなかった。下級騎士にはなれたけれど、すぐにお前に追い抜かれてしまうのかと、いつも不安な日々を過ごしていた。でも、お前はこの3か月、全く成長の兆しがみられず、さらに以前よりも体力技術共に落ちているように感じた。俺はそんなお前の姿を見て内心ホッとして喜んでしまったのだ……」
兄は涙を流しながら自分の気持ちを語り出した。
「そんな情けない俺にお前はいつも笑顔で俺を応援してくれた。初めはその応援すら皮肉だと捉えてしまい素直に受け取ることはできなかった、でも、お前は自分が成長しない悔しさを隠しながらも絶えず俺を応援してくれた。やっと俺は気付くことができたのだ。お前は心の底から俺が強くなることを応援してくれてたことに……本当にすまない」
床は兄が流した涙でにじんでいた。
「お兄様、何も気にしなくても良いのです。私が上達しないのは私の責任です」
自分が蒔いた種である。
「私はお兄様が強くなる姿を見られることがうれしいのです。きっとお兄様は在学中に上級騎士にも合格するはずです」
ゲームでは兄は剣聖試験で下級騎士に合格したが、私が本格的な特訓を初めて、たった1カ月後に完膚なきまでに敗北して完全に心が折れてしまう。その後、憎しみと嫉妬に狂った兄はフォルモーント王立学院に入学して剣の腕を磨くが中級騎士までしか合格することはなかった。しかし、今の兄の努力を見ていると中級騎士で終わるとは絶対に思いたくはない。
「……ありがとう。こんな情けない兄にそれほどまでの期待をしてくれているのは本当に嬉しい。お前だってこのまま父の特訓を受け続ければ、俺を上回る結果を残す騎士になれるはずだ。でも……」
兄は少し言葉につまる。そして、思いのたけを吐き出すように話し始める。
「もし、お前がこのまま剣の腕が上達しなくても何も恥じることはない。お前が一生懸命頑張っていることは俺だけでなく父上もわかっている。それに、俺はお前の想像を超える立派な騎士になる。そして、お前の剣の腕前をバカにするヤツがいれば俺が黙ってはいない。俺はお前を守るために父と同じ近衛騎士になると宣言する」
兄は私のことを心配しているのである。3属性持ちの騎士ならば入学する前に、上級騎士に合格してもおかしくない。実際にゲームでは、上級騎士を上回る王国騎士に合格する。それなのに、今の私は見習い騎士にも合格できない実力だ。このままでは王国中の笑いものになるのは必然だ。そんな私の不遇の未来を心配して兄は優しい声をかけてくれたのである。
「ありがとうございます。お兄様」
私は兄の気持ちを聞いてとても嬉しかった。ゲームでは私の才能に嫉妬して決して仲良くなることはないのだが今は違う。ゲームの調整力かもしれないが、一時は私のことを憎む対象者として受け入れ、私を憎もうとしたのかもしれない。しかし、兄はゲームの調整力に勝ったのだ。私を憎むことを辞めて私を受け入れることを選んだのである。
私は歓喜のあまり大好きな兄に飛びついて抱きしめた。そして、兄も強く抱きしめてくれる。
「リーリエ、俺に任せろ」
「はい、お兄様」
メローネから連絡を受けていた父は、メッサーのことが気になり、私の部屋の扉の前に立ち盗み聞きをしていた。部屋から微かに聞こえる兄妹の話しを聞いた父は目頭が熱くなり、声を押し殺して黙ってその場を立ち去った。
そして2年後、私はギリギリで見習い騎士の試験に合格した。一方兄はフォルモーント王立学院2年生の終わりに、特級騎士に合格したのであった。
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