上 下
10 / 47

美しいフォーム

しおりを挟む

 レアは明るく元気な女の子。魔法も勉強も優秀なうえ誰にでも優しくて学校のマドンナ的な存在だったので、私が一番苦手とするタイプである。レアの両親は成り上がり貴族である。レアの父は冒険者でランクはブラーブ。ブラーブになると国からバロネット(準男爵)女性の場合はバロネテス(女準男爵)の爵位が授与される。成り上がり貴族は本人のみが貴族としての特権を得る事はできるが家族は対象外なので、レアは平民である。レアの母は魔道具技師であり、その功績を認められて国からバロネテスの爵位を授与されているので、両親共々貴族なのである。

 ※平民から爵位を授かって貴族になった者を成り上がり貴族と呼ばれている。

 優秀な両親の血を引き継いだレアは、魔銃の腕も技師としての技術もかなり高いと評判である。魔道具技師として生きる方が安全だが、自分で素材を手に入れて自分で魔銃をカスタムするという二足の草鞋という困難な道を選んだようだ。

 レアは射撃位置に立つと、フラムを右手で握りしめオレリアンのように左右に移動しながらクレーが飛び出して来るのを待っている。クレーが飛び出した瞬間レアはジャンプして、右手でグリップを握りながら左手でフォアグリップ(先台)を持ち魔銃の安定を保ち、アイアンサイトでクレーの軌道を予測しエイム(照準)を合わせてトリガーを引く。レアの全く無駄のない美しいフォームに、その場に居た全員が酔いしれた。

 レアも全てのクレーを破壊して満点合格である。レアが破壊したクレーは粉々に砕けていたが、クレーの破片はすべて均等の大きさであった。これは、レアが放った魔弾がクレーの中心に当たっていることを示すものである。ルージュは一発の魔弾が数発に散弾するのでクレーに当たりやすい。オレリアンもポールもクレーを全て破壊したが、クレーの破片をみると、砕け方に偏りがあり散弾した全ての魔弾がクレーに当たっていないことを示していた。

 一番難易度の高い射撃術で一番正確にクレーを破壊したのはレアであることはその場に居た全ての者はすぐに理解した。


 「パチ・パチ パチ・パチ パチ・パチ パチ・パチ」
 「おめでとうレア!」


 拍手をしてレアに祝福したのはサミュエルである。


 「ありがとう」


 レアは笑顔で答える。


 「おめでとう」


 素直に喜べないオレリアンも祝福の言葉を述べる。


 「ありがとう」

 「おめでとう」


 小声でポールも祝福する。


 「ありがとう」


 レアはみんなに分け隔てなく笑顔で答える。


 「次はサミュエルの番ね!」

 「そうだね。俺だけ不合格にならないようにがんばるよ」

 「謙遜しちゃって、サミュエルが試験に落ちるわけないでしょ」

 「緊張して本来の実力を出せずに不合格になる者もいる。俺も気を付けないと」

 「サミュエルが緊張?そんなことありえないわ。あなたはいつだって冷静で落ちついているわ」

 「そのように心がけているのさ。レアの見事な射撃を見れば誰だって緊張するものだよ」

 「そうかしら?でもサミュエルの緊張する姿も見たいものだわ」


 レアは嬉しそうに笑った。


 「サミュエルさん所定の場所に移動をお願いします」

 「わかりました」


 サミュエルはブロン(マシンガン)で試験を受ける。ブロンの試験は100m先の人型の的の頭にワンマガジンである30発中20発命中させることを1セットとして、6セット行われる。6セット全て成功すれば合格である。

 サミュエルはエスパスからアヴァランチを取り出す。ブロンを扱う者は魔獣から離れた場所で、前衛が魔獣を引き付けているのを狙い撃ちするのが役割である。なので、ルージュのように動き回る必要はなく、姿勢を正し両手でしっかりと魔銃を構えて安定したフォームで確実に魔獣を狙う必要がある。

 ブロンの一発の威力はリュージュには劣るがワンマガジンで最低30発連続で発射することができるので、全ての魔弾を魔獣の弱点である魔核に命中させれば、弱い魔獣ならワンマガジンで倒すことができる。

 サミュエルが扱うアヴァランチは弾速が早くてリコイル(反動)が大きいので扱いにくい。

 サミュエルは肩幅程度に足を開き少し中腰になり重心を低くする。これはリコイルを制御するためである。そして、右手でグリップを持ち指をトリガーにかけ、左手でハンドガードを優しく支える。あまり力を加えると肩に力が入り過ぎて美しい姿勢が保てない。ストック(銃底)を右側の頬の付け根に当てて安定性と精度を向上させる。

 ブロンにはスコープが必須であるが、試験ではスコープの使用は認められていない。100m先の的には遮蔽物もなく移動もしないので、スコープを使うと簡単過ぎるので禁止されている。

 サミュエルは呼吸を落ち着かせて、アイアンサイトでエイムを合わせてトリガーを引いた。激しい銃声が鳴り響く中、サミュエルはリコイルを完璧に制御して全弾を的の頭部に命中させた。

 的を確認すると的の頭部には直径5㎝の穴が開いていた。的の頭部の大きさは30㎝程で魔弾の大きさは1,2㎝である。針の穴に糸を通すとまでいかないが、それに近い芸当を成し遂げたと言っても過言ではない。

 その後もサミュエルは一発も魔弾を外すことなく全弾を的の頭部に命中させ、4人全員満点合格を成し遂げた。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...