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ギフト【無】
しおりを挟む『誰かしら?私が必死に気配を消して誰にも見つからないように隠れているのに、怪しげな声が聞こえるわ』
「私は怪しい者ではありません。私はひたむきに努力をする者にギフトを与える神です」
「あわぁ・・・あわわぁぁ」
私はコミュ力0であり、人と会話をするのが苦手である。なので、私の心の声に返答があったのでパニックを起こしてしまった。
「ソリテさん、落ち着いてください。私は直接あなたの頭の中に声を届けているのです。焦らずに私の話を聞いてください」
『無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理』
私は心の中で念仏のように唱える。
「受け答えをしなくても良いので聞いてください。私はあなたのひたむきな努力に感銘を受けて【無】というギフトを与えました。【無】とは完全に姿を消し去ることができるギフトです。なので、もう人目に付かない場所に隠れ気配を消す必要はありません。どこに居ようが誰もあなたを認識することはできないのです」
「あああわぁぁ・・・」
私は神と名乗る人物の声を遮るように耳を塞ぎ、屋根裏のすみっこに逃げ込む。だが、神の声を遮ることができなかった。
「ご理解いただけたでしょうか?」
「うぅぅぅうううぅうう」
私は口を鯉のようにパクパクと動かして、神の問いかけに返事をしようと試みたが失敗に終わる。
「ご理解いただけてないようなので、もう一度説明をします」
神様は先ほどと同様の内容を説明する。
「ご理解いただけたでしょうか?」
「うぉぉぅううぉぉ」
神様の問いかけに対して、全神経を集中させて喉の奥から声を押し上げるが言語が成立しない。
「もう天界へ帰る時間になりました。ソリテさん、【無】の力を悪用せずに世界の平和のために利用してください。ソリテさんの活躍を期待しています」
神様の声が聞こえなくなった瞬間、私は目を覚まし物置小屋の天井が視界に入ってきた。
『ギフト・・・たしか神に選ばれし者が手にするスキルだと本で読んだことがあるわ』
ギフトとは、神が授ける特殊なスキルのことである。ギフトを授けられる者は、厳しい修行や鍛錬などにより神から認められた者であるが、稀に生まれつきギフトを授かる者もいる。
私は【無】というギフトを授かったみたいである。【無】は、相手に認識されない透明人間のようなスキルであり、人間だけでなく全ての生物に認識されない。このギフトのおかげで、私は気配を消して人目に付かない所に隠れる必要が無くなった。
『素晴らしいスキルだわ。もう、私は人目を気にしなくてもいいのね』
私は堂々と町を歩けることに歓喜した。
『このスキルを駆使して、私は立派な王国騎士団の従騎士になるのよ』
私は責務を全うする覚悟はできている。親が魔獣に殺された後、私がここまで成長することが出来たのは、国の援助金、町の支援によって運営されている孤児院のおかげである。もし、孤児院がなければ、私は飢えで死んでいたに違いない。私は神様に授かったギフトで、国の為に誠心誠意働く事を誓い、再び眠りについたのである。
今日は孤児院にて盛大な送り出しパーティが開かれる。15歳になった孤児たちを王国騎士団が迎えに来るので、町からの支援金で孤児院の職員が、豪華な食事を用意して門出を祝う。
孤児たちは、前もって送られていた王国騎士団の従騎士服を着て、職員に感謝の意を述べて、立派な王国騎士団の従騎士になることを宣言する。
「アンリ、お前は他の誰よりも魔法の技術が高い。お前なら絶対に優秀な従騎士なれるはずだ。そして、いずれはカシャロット・コンステレ(大隊長)様のようになるんだぞ」
「はい!院長先生。カシャロット・コンステレ様のように孤児院の為にお国の為にがんばります」
孤児が王国騎士団に入隊し活躍をすると、その孤児を輩出した孤児院や町には特別報酬などが送られる。カシャロット・コンステレはここの孤児院の出身者であり従騎士から騎士に特別昇進し、その後もサンク・エトワル【五つの星】のコンステレ(大隊長)にまで上り詰めた人物である。
※ サンク・エトワルとは王国騎士団の五つの階級を表す。上からプルミエール(元帥)、コメット(軍団長)、コンステレ(大隊長)、リュンヌ(中隊長)、シエル(小隊長)。
孤児たちは最後の晩餐を楽しみように、用意された豪華な食事の味をかみしめながらゆっくりと食する。共に孤児院で育った仲間たちと未来への希望を語り合い、貴重な時間を過ごし終えた後、孤児院の入り口にて一糸乱れぬ隊列を組んで王国騎士団の到着を待つ。
私も豪華な食事を食べたかったのだが、私の座る席はなく、みんなが美味しそうに食べる姿をテーブルの横で眺める事しかできなかった。それでも、私はめげることなく隊列の最後尾に並んだ。
王国騎士団は到着時間より2時間ほど遅れて孤児院にやってきた。もちろん、その間も隊列を崩すことなく、微動だにせず立っていた。
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