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 翌朝、俺の姿は家にはなかった。

 「黒にゃん、今回のゲームはすぐに終わったようね」
 「強奪者がすぐに駆け付けたのが失敗にゃん。昴にゃんからはたくさんの嫌悪ポイントを得たかったにゃん」

 この世界の神であるクレアーレとそのペットである黒にゃんが、下界を見下ろしながら話をしている。

 「また、強奪者の邪魔が入ったのね」
 「そうにゃん。この世界の発展には嫌悪ポイントが必要にゃん。そのために、クレアーレ様が、別世界の人間の魂を奪ってきているにゃん。昴にゃんはボーナス異世界人だったので、普通の異世界人よりも多くの嫌悪ポイントを入手できるはずだったニャン。でも、1ポンイントも入手できないまま、強奪されてしまったにゃん」

 黒猫は初めから俺を騙していたのである。初めは美味しい話で俺を有頂天にさせた後、使徒を使って俺から嫌悪ポイントを回収する予定だった。しかし、嫌悪ポイントが欲しいのなら初めから使徒に異世界人の居場所を教えれば良いと思われる。

 「強奪者の正体はわかったのかしら?」
 「わからないにゃん。吾輩には制約があり、異世界人としか接触できないにゃん。昴にゃんを利用して、強奪者の正体を探し出そうとしたのがバレたから、昴にゃんはすぐに標的になったのかもしれないにゃん」

 黒にゃんの目的は、俺を利用して嫌悪ポイントを稼ぐ事と強奪者と呼ばれる人物を探し出す事であった。黒にゃんには制約があり、異世界人としか接触する事が出来ない。なので、直接使徒に異世界人の居場所を教える事は出来ない。そして、もう一つ制約がある。それは、嫌悪ポイントを異世界人から奪う事ができない。なので、使徒を使って嫌悪ポイントを貯めさせてから回収するのである。神はその仕事の対価として嫌悪ポイントの量によって使徒に恩恵を与えている。
 このマッチポンプのようなやり方は当初は上手く回転していた。神は嫌悪ポイント得る事で神力を得る。使徒は望みの願いが叶えられる。異世界人は束の間の鮮やかな景色を見る事が出来る。WIN WIN WINとまではいかないが三者三様の利点があったに違いない。しかし、この三者三様の法則が崩れる事になる。それが4番目の人物である強奪者の存在だ。
 強奪者の出現により神は嫌悪ポイントの収穫が減り、使徒は願いが叶えなくなり、異世界人は早死にするようになった。

 「私は使徒に力や恩恵を与える事しか出来ません。それ以上下界に介入すると私の違法行為が他の神の知る事になるでしょう。おそらく、強奪者の正体は異端の使徒か覚醒した異世界人だと思われます」
 「異世界人は吾輩が全てチェックしているにゃん。残るは異端の使徒である可能性が高いにゃん」

 異端の使徒とは、神に力を授かったが神の言葉に背いて嫌悪ポイントを貯めずに異世界人に味方する者を指す。

 「嫌悪ポイントの提出は個人の裁量に任せています。しかし、言霊の力を与えてあげたのに一度も嫌悪ポイントを提出していない使徒も多数いる事もわかっています。使徒には異世界人はこの世界を滅ぼす元凶だと説明をして、躊躇なく異世界人にヘイトをぶつける事が出来る環境作りをしていますが、中には疑問を抱く者もいるのでしょう。そういう偽善者が異端の使徒になったのだと思います。私では異端の使徒を見つける術はありません。黒にゃん、何とかなりませんか?」
 「今回は回りくどい事をしてしまったにゃん。次の異世界人には直接異端の使徒を見つける様に仕向けるにゃん」

 「何か良い作戦でもあるのでしょうか?」
 「あるにゃん。吾輩に任せるにゃん」

 その頃下界では、俺のニュースが流されていた。

 「・・・松井山手駅近くのマンションの屋上から男子高校生が飛び降り自殺をしました。今のところ身元は確認できていませんが・・・」

 俺は第2の人生を謳歌するためにこの世界にやってきた。しかし、待っていたのは、神が嫌悪ポイントを稼ぐためのおもちゃでしかなかった。人生をやり直せるなんてそんな夢のような話などなかった。好感度ポイントを貯めて自分を変える事ができる便利な能力は、束の間の夢に過ぎなかった。すべては、神が一瞬の夢を与えてるだけの演出であり、俺は利用されてただけであった。
 世の中には甘い話はない。甘い話には必ず裏がある。俺はそんな単純なことも理解できずに黒猫のいいなりになって調子に乗っていたのだろう。俺が死を選んだのも当然の報いだったのか・・・



 「昴君・・・こうするしか救う方法はなかったのよ」

 マンションの屋上には、静かな笑みを浮かべる笑さんがいた。


 俺がマンションの屋上から飛び降りたことは、その日のうちに学校に連絡され、全生徒が知る事になる。しかし、ほとんどの生徒は気に留める事もなく話題にすらならなかった。それは、俺という存在が初めから居なかったような様子だった。ある1人の生徒を除いては・・・



 「六道君、あなたも異世界人だったのね。もし、私が気づいてあげれば・・・」

 学校帰りの電車の中でクマのぬいぐるみを抱いた茜雲さんが静かに呟いた。

 実は茜雲さんも異世界人であり、ベア子と名乗りモデル活動をしていた。茜雲さんがクマのぬいぐるみをいつも持ち歩いているには理由があった。それは、言霊の天啓によるヘイトの攻撃をクマが代わりに請け負ってくれていたのである。そのために茜雲さんは嫌悪ポイントが発生する事がなく、異世界人の失敗作として放置されていた。しかし、茜雲さんこそが覚醒した異世界人であった。黒猫はこの事に気付いていない。失敗作だと見捨てられた茜雲さんは黒猫の管理から逃れることに成功し、使徒の動向を探る為にモデルをしていたのであった。

 「銀さん、昴君を守ってくれたのね。これで私も安心して仕事に集中できるわね」

 三日月さんは、心地よい太陽の日差しを見上げながら職場である美容院に向かった。

 昴編 完

 ※ ここで一旦完結にします。最後まで読んで下さってありがとうございます。モチベーションが上がれば続編を書きたいと思います。



 
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