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黒猫が姿を消すと景色に色が宿り時が動き出す。
「俺はモデルを辞めません。アンチに負けたくありません」
「昴君、ありがとう。私達が出来る限りのサポートをするわ」
「残念」
鼓さんは安堵の笑みを浮かべるが、笑さんは落胆の表情を浮かべる。
「鼓さん、もう一度アンチのコメントを見ても良いですか」
「大丈夫?昴君、無理はしないでね」
俺は、なぜだかもう一度ヘイトコメントを見たくなった。俺はパソコンでYチューブスタジオの画面を開きコメントを全て読み返す。YチューブスタジオとはYチューブを管理するソフトである。
コメントを読み返すと吐き気が催してきた。俺に対する応援コメントはほとんどなく、「死ね」「殺す」「辞めろ」「消えろ」など俺の存在を否定する単語ばかりが並べられている。気にしないで受け流そうと思っていても、完全に気にしないのは無理である。怒り、苦しみ、不安などの感情が無意識に湧いてきて心を蝕んでいく。
「昴君、顔色が悪いわよ。もう、その辺にしておいた方が良いわ」
俺の顔が真っ青になり、心配して鼓さんが優しく声をかける。
「大丈夫です。次はオーディションの配信時のコメントを見たいです。なんとかなりませんか?」
オーデションを配信した時に寄せらたコメントは動画には残っていない。しかし、オーデションを管理していた鳳凰事務所の関係者なら、コメントの履歴を保存しているはずだ。
「鳳凰事務所に問い合わせることは出来るけど、どうして、配信時のコメントを見たいの」
「気になる事があるのです」
「気になる事。具体的に教えてくれないかしら?」
「もう一度、俺にどんなコメントをしてきたか確認したいのです。きちんとコメントの意図を理解して、次は完璧に論破できるようになりたいのです」
鼓さんに言った事は嘘ではない。しかし、俺の本当の目的は別にある。
「わかったわ。専務にお願いして問い合わせてみるわね」
鼓さんは撮影室を出て専務室に向かう。
「昴君、二人っきりになっちゃったね」
鼓さんの姿がなくなると笑さんが俺を除き込むように目の前に来た。そして、俺の腰に手をまわして体を密着させる。
「笑さん、辞めてください」
女性への免疫がない俺にとっては、この状態は天国であり地獄でもある。
「昴君、無理してモデルを続けなくても良いのよ。私が一生面倒をみてあげるから安心して」
笑さんに強く抱きしめられると全身の力が抜け出たかのように、ほんわかとした気持ちになる。まるで体の悪い生気が抜け出たように体が軽くなり、今まで苦しめられていた心の苦痛もやわらいでいく。何度か笑さんと密着することはあったが、いつも鼓さんが側に居てすぐに助けてくれた。しかし、今は鼓さんが側にいないので、邪魔する者は誰もいない。
「・・・」
俺は余りにも気持ちが良くなっていたので返事はすぐには出来なかった。
「昴君のぬくもりはとても気持ちがいいわ。このままここで一つになろう」
笑さんの魅惑的な銀の瞳が眩しく輝いた。俺はその美しい輝きに吸い込まれるように意識が薄れていく。そして、このまま笑さんのなされるがままになるのも良いだろうと思った。
「笑!私の居ない間に何をしているの」
「あ!もう帰って来た・・・」
「昴君、昴君」
鼓さんが俺の名前を何度も呼ぶが、俺は気を失っているので何も聞こえない。
「昴君が気を失っているうちにやっちゃえ」
「笑、いい加減にしなさい」
鼓さんはいつものようにキュウリを笑さんの口に突っ込んだ。
『ボリボリ』
「うま~」
笑さんは至福の笑みを浮かべておとなしくなる。
「これでしばらくは大丈夫ね。いつもならキュウリを一本加えさせると一日はおとなしくなるのに、今日は何本キュウリを使ったかしら・・・。昴君の魅力は恐ろしいわ」
鼓さんは気を失っている俺に優しく頬を叩いて目を覚まさせてくれる。
「昴君、昴君、起きて!」
10回ほどビンタされたくらいで俺は目を覚ました。
「昴君、大丈夫だった」
「あ・・・はい」
大丈夫というニュアンスは少し間違っていると俺は感じた。俺は童貞のまま50歳で一度死んだ。そんな俺が笑さんから性行為を求められる事は悪い事ではない。だから、大丈夫と答えるのが正解だとは思えなかった。むしろ、あのまま笑さんと1つになっていた方が快適だったのかもしれない。
「昴君と笑を二人っきりにするのは危険だわ。これからは私がずっと側に居て昴君を守ってあげないとね」
愛くるしい笑顔で俺に微笑みかけてくれた鼓さんはとても可愛くて俺の顔は真っ赤に染まる。笑さんは透明感のある美しい女性だが、鼓さんは笑顔が似合う可愛らしい女性だ。どちらかと言うと俺のタイプは鼓さんなのかもしれない。
「ぶぅぅぅぅぅ」
俺が真っ赤になった姿を見た笑さんが頬を膨らませてすねる様にブーイングをする。笑さんは嫉妬をしているようだ。
「そうだ昴君。動画のコメントの件だけど、専務が鳳凰事務所に問い合わせたところ断られてしまったわ。残念だけど力になれなくてごめんね」
鼓さんは頭を下げて俺に謝る。
「気にしないでください。無理なら仕方がないです」
俺はどうしても配信時のコメントを確認したかった。しかし、その願いは叶う事はないようだ。
「私に任せろ!」
俺と鼓さんが諦めていた時、笑がドヤ顔で俺達にいきりだす。
「俺はモデルを辞めません。アンチに負けたくありません」
「昴君、ありがとう。私達が出来る限りのサポートをするわ」
「残念」
鼓さんは安堵の笑みを浮かべるが、笑さんは落胆の表情を浮かべる。
「鼓さん、もう一度アンチのコメントを見ても良いですか」
「大丈夫?昴君、無理はしないでね」
俺は、なぜだかもう一度ヘイトコメントを見たくなった。俺はパソコンでYチューブスタジオの画面を開きコメントを全て読み返す。YチューブスタジオとはYチューブを管理するソフトである。
コメントを読み返すと吐き気が催してきた。俺に対する応援コメントはほとんどなく、「死ね」「殺す」「辞めろ」「消えろ」など俺の存在を否定する単語ばかりが並べられている。気にしないで受け流そうと思っていても、完全に気にしないのは無理である。怒り、苦しみ、不安などの感情が無意識に湧いてきて心を蝕んでいく。
「昴君、顔色が悪いわよ。もう、その辺にしておいた方が良いわ」
俺の顔が真っ青になり、心配して鼓さんが優しく声をかける。
「大丈夫です。次はオーディションの配信時のコメントを見たいです。なんとかなりませんか?」
オーデションを配信した時に寄せらたコメントは動画には残っていない。しかし、オーデションを管理していた鳳凰事務所の関係者なら、コメントの履歴を保存しているはずだ。
「鳳凰事務所に問い合わせることは出来るけど、どうして、配信時のコメントを見たいの」
「気になる事があるのです」
「気になる事。具体的に教えてくれないかしら?」
「もう一度、俺にどんなコメントをしてきたか確認したいのです。きちんとコメントの意図を理解して、次は完璧に論破できるようになりたいのです」
鼓さんに言った事は嘘ではない。しかし、俺の本当の目的は別にある。
「わかったわ。専務にお願いして問い合わせてみるわね」
鼓さんは撮影室を出て専務室に向かう。
「昴君、二人っきりになっちゃったね」
鼓さんの姿がなくなると笑さんが俺を除き込むように目の前に来た。そして、俺の腰に手をまわして体を密着させる。
「笑さん、辞めてください」
女性への免疫がない俺にとっては、この状態は天国であり地獄でもある。
「昴君、無理してモデルを続けなくても良いのよ。私が一生面倒をみてあげるから安心して」
笑さんに強く抱きしめられると全身の力が抜け出たかのように、ほんわかとした気持ちになる。まるで体の悪い生気が抜け出たように体が軽くなり、今まで苦しめられていた心の苦痛もやわらいでいく。何度か笑さんと密着することはあったが、いつも鼓さんが側に居てすぐに助けてくれた。しかし、今は鼓さんが側にいないので、邪魔する者は誰もいない。
「・・・」
俺は余りにも気持ちが良くなっていたので返事はすぐには出来なかった。
「昴君のぬくもりはとても気持ちがいいわ。このままここで一つになろう」
笑さんの魅惑的な銀の瞳が眩しく輝いた。俺はその美しい輝きに吸い込まれるように意識が薄れていく。そして、このまま笑さんのなされるがままになるのも良いだろうと思った。
「笑!私の居ない間に何をしているの」
「あ!もう帰って来た・・・」
「昴君、昴君」
鼓さんが俺の名前を何度も呼ぶが、俺は気を失っているので何も聞こえない。
「昴君が気を失っているうちにやっちゃえ」
「笑、いい加減にしなさい」
鼓さんはいつものようにキュウリを笑さんの口に突っ込んだ。
『ボリボリ』
「うま~」
笑さんは至福の笑みを浮かべておとなしくなる。
「これでしばらくは大丈夫ね。いつもならキュウリを一本加えさせると一日はおとなしくなるのに、今日は何本キュウリを使ったかしら・・・。昴君の魅力は恐ろしいわ」
鼓さんは気を失っている俺に優しく頬を叩いて目を覚まさせてくれる。
「昴君、昴君、起きて!」
10回ほどビンタされたくらいで俺は目を覚ました。
「昴君、大丈夫だった」
「あ・・・はい」
大丈夫というニュアンスは少し間違っていると俺は感じた。俺は童貞のまま50歳で一度死んだ。そんな俺が笑さんから性行為を求められる事は悪い事ではない。だから、大丈夫と答えるのが正解だとは思えなかった。むしろ、あのまま笑さんと1つになっていた方が快適だったのかもしれない。
「昴君と笑を二人っきりにするのは危険だわ。これからは私がずっと側に居て昴君を守ってあげないとね」
愛くるしい笑顔で俺に微笑みかけてくれた鼓さんはとても可愛くて俺の顔は真っ赤に染まる。笑さんは透明感のある美しい女性だが、鼓さんは笑顔が似合う可愛らしい女性だ。どちらかと言うと俺のタイプは鼓さんなのかもしれない。
「ぶぅぅぅぅぅ」
俺が真っ赤になった姿を見た笑さんが頬を膨らませてすねる様にブーイングをする。笑さんは嫉妬をしているようだ。
「そうだ昴君。動画のコメントの件だけど、専務が鳳凰事務所に問い合わせたところ断られてしまったわ。残念だけど力になれなくてごめんね」
鼓さんは頭を下げて俺に謝る。
「気にしないでください。無理なら仕方がないです」
俺はどうしても配信時のコメントを確認したかった。しかし、その願いは叶う事はないようだ。
「私に任せろ!」
俺と鼓さんが諦めていた時、笑がドヤ顔で俺達にいきりだす。
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