上 下
48 / 100

正義の味方

しおりを挟む

 「山本さん、こんな人は無視して戻るわよ」

 丸川さんは山本さんの手を引いて戻ろうとするが、恐怖に怯えた山本さんは動く事が出来ない。

 「丸川、久しぶりに会ったんだから一緒に遊びましょ」
 「嫌よ!」

 「丸川、磯川高校には私の友人の木原君がいるわ。私の誘いを断るなら木原君にお願いして、そこの豚を徹底的にいじめてもらうようにお願いするわ」

 笠原さんと木原は不良仲間であった。

 「うううぅぅ・・・」

 山本さんは木原と同じ中学の出身なので木原の恐ろしさを知っている。自分がいじめられると思った山本さんは怖くて泣きだした。

 「そんなことはさせないわ」
 「それなら私と一緒に遊びましょ。あっちにくろんど池があるからそこで泳いでみせてよ」

 煌煌の笑みで笠原さんは丸川さんを見る。

 「笠原さん、何その面白いイベント!とても興味があるわ」

 笠原のツレである広瀬さんがうれしそうに同調する。

 人物紹介 広瀬 奏 (ひろせ かなで)  縄手学院1年生 158㎝ セミロングの茶髪の女性。笠原さんの友達。

 「わかったわ」

 丸川さんは山本さんを守るためにくろんど池に向かった。山本さんは恐怖に支配されて涙を流して震えることしか出来なかった。

 丸川さんが笠原さんと一緒にくろんど池に向かった数分後に俺は山本さんと遭遇する。

 「山本さん?どうしたの」

 泣いている山本さんを見かけた俺はすぐに声をかける。

 「ろ・・・六道君」

 山本さんは無理やり押し出すように声を出す。

 「何があったの?一緒にいた丸川さんは何処に居るの?」
 「た・・・たすけて・・・」

 か細い声で山本さんは訴える。

 「わかった。でも、俺は何をすればいい」

 山本さんの助けを求める必死の声に俺は緊急事態だと気付く。

 「く・・ろんど池に・・丸川さんが・・・丸川さんが・・・」

 恐怖に支配されている山本さんは冷静に告げる事が出来ないが、くろんど池に丸川さんがいると直ぐに理解する。

 「くろんど池に丸川さんがいるんだね。そこに行けばいいんだね」
 「うん」

 小さく山本さんは頷いた。俺は全速力でくろんど池に向かった。



 「さぁ、ここから飛び込むのよ」

 くろんど池の中心にかかる橋に3人はいた。そこで丸川さんは笠原さんに飛び込むように促される。この辺りの水深は160㎝ほど、丸川さんの身長は155㎝なので溺れて死ぬ可能性はある。くろんど池の近くには学生や一般客もいるので異常事態が起きればすぐに気が付くだろう。しかし、そんな状況下を笠原さんは楽しんでいるようだ。

 「無理よ」

 くろんど池の水は透き通るような綺麗な水とはいえない。池の底は薄っすらと見えるがプールに飛び込むのとは全然違う。

 「約束が違うじゃない。あなたが飛び込まないとさっきのデブは高校を辞める事になるわ。木原君は女でも容赦なく殴る男女平等の紳士なの。あなたは木原君の事を知らないかもしれないけど、アイツは人間の皮を被った悪魔。暴力に愛され暴力で支配する私の大事な仲間。私のいう事なら何でも聞いてくれるのよ」

 笠原さんの狂気に満ちた笑顔は木原と似た感覚がある。おそらく二人の考えや思考が似ているのだろう。

 「飛び込んだ方がいいと思うわよ」

 嬉しそうに広瀬さんが促す。

 「その辺でやめておけ」

 丸川さんの最大の危機に助けに入ったのは俺ではなかった。

 「羅生天(らしょうてん)・・・。私の邪魔をするの!」

 人物紹介 羅生天 龍神(らしょうてん りゅうじん) 縄手学院1年生 身長181㎝ 体重60㎏ 肩まで伸びた銀髪に金色のメッシュの入った男性。かなりイケメンだが、目つきが悪く見る者は恐怖する冷酷無比な顔。

 「くだらない」

 羅生天の銀色の瞳は冷酷さを倍増させる。羅生天に睨まれた者は恐怖の沼に沈む思いになる。しかし、普通の感情を持たない笠原さんにはそれほど効果がない。一方、広瀬さんは完全にビビッてしまい逃げ出した。

 「相変わらず恐ろしい目をするのね。でも、修羅場をくぐってきた私には通用しないわ」

 悪に染まれば染まるほど人は冷酷になる。笠原さんはどのような修羅場をくぐって来たのだろうか?

 「殴りあえばお前に勝ち目はない」

 不動の佇まいの笠原さんに対して羅生天は力での制圧に乗り出す。

 「私を殴ればあなたは退学よ。それでも私を殴れるのかしら?」

 笠原さんははったりでなく本当に殴られる覚悟を決めている。それはプライドではなく恐怖を知らぬ歪んだ意思のように思えた。しかし、羅生天はすぐに行動に移す。羅生天が動いたかと思うと、笠原さんはその場に倒れ込んでいた。

 「君、大丈夫」

 羅生天は、ロボットのような感情のこもらない冷酷な口調で声をかける。

 「あ・・・ありがとうございます」
 「気にするな」

 羅生天は何事もなかったかのように立ち去ろうとした。

 「丸川さ~ん」

 俺は橋の上にいる丸川さんを見つけてすぐに助けに向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

 女を肉便器にするのに飽きた男、若返って生意気な女達を落とす悦びを求める【R18】

m t
ファンタジー
どんなに良い女でも肉便器にするとオナホと変わらない。 その真実に気付いた俺は若返って、生意気な女達を食い散らす事にする

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

男女比1対999の異世界は、思った以上に過酷で天国

てりやき
ファンタジー
『魔法が存在して、男女比が1対999という世界に転生しませんか? 男性が少ないから、モテモテですよ。もし即決なら特典として、転生者に大人気の回復スキルと収納スキルも付けちゃいますけど』  女性経験が無いまま迎えた三十歳の誕生日に、不慮の事故で死んでしまった主人公が、突然目の前に現れた女神様の提案で転生した異世界で、頑張って生きてくお話。

処理中です...