上 下
7 / 100

初日

しおりを挟む
 「昴、今日からボランティアをしてくれるのね」
 「うん。学校が始まるまで毎日するよ」 

 俺はステータスのレベルを上げるために好感度ポイントを貯めないといけない。俺が善い事をして、それに好感を感じた人がいればポイント付与がされるようだ。ようだと言ったのは、昨日は駅の周辺で少しだけゴミを拾ったが好感度ポイントが手に入らなかったからである。ゴミ拾いをしたのは善い行いだと思うが、俺がゴミを拾っている姿に誰も好感を持たなかったから好感度ポイントが入らなかったのだと思う。逆に不審者扱いされて酷い目にあってしまった。

 「本当に!無理はしないでね。でも、手伝ってくれるのは嬉しいわ」

 母親の職場は自転車で20分くらいのところにある。俺は母と一緒に介護型老人ホーム『ほがらか』に向かった。

 「六道さん、本当にお願い出来るのかしら?」
 「施設長には昨日連絡して了承をもらっているので問題ないわ」

 『ほがらか』に到着するとすぐに俺は職員室に連れて行かれた。職員室には課長である本田さんという40代の女性がいた。

 「息子さんは何歳になるのかしら?」
 「今年で16歳になるわ。高校が始まるまでの3週間という短い期間だけど、社会勉強の一環としてボランティアをしたいみたいなので誘ったのよ」
 「えらいわね。私の娘もみならって欲しいわ」
 
 本田課長は優しく俺に微笑んだ。

 「昴、自己紹介は朝礼の時に私がしてあげるわ。あなたは一言だけ言ってくれたらいいわ」
 「うん」

 俺は空いているイスに案内されて、職員が揃うまで待つことにした。

 「おはようございます」
 「おはようございます」

 俺がイスに座っていると続々と職員が出社してくる。

 「誰あれ?」
 「知らないわ」
 「あの子は私の息子なのよ。後で説明するわね」
 「え!どういうこと?なんで息子さんが職場に来ているの?」

 職員室に見慣れない少年「俺」が居るので、職員たちは気になってしょうがない。母親が簡単に説明すると納得はするが、詳しい説明を聞かされていないので興味津々に俺を見ている。俺は、知らない人にジロジロを見られているのに恥ずかしくなり顔を真っ赤にしてうつむいた。

 「みなさん!六道さんの息子さんについて後で説明しますので、ジロジロと見ないであげてね」   

 俺が恥ずかしそうにうつむいている姿を見た本田課長がみんなに注意をしてくれた。本田課長の注意のおかげで誰も俺の事を見なくなったので気持ちが少し落ち着いた。
 そして就業時間の8時30分になった。職員室には夜勤の職員も戻って来て合計で20名ほど集まり朝礼が始まる。本田課長が今日の業務などの報告をした後に俺の紹介をした。

 「今日から3週間、午前中だけ六道さんの息子さんの昴さんが、社会学習の一環としてボランティアに来てくださいました。ベットメイキング、施設内の掃除、食事の配膳などをしてもらう予定です。みなさん優しく教えてあげてください。六道さんから何か言っておきたいことはありますか?」
 「はい。私の息子は4月で高校生になります。高校生活が始まるまで家でのんびり過ごすことよりも、自身を成長させるために、何かしら人の役に立ちたい事をしたいと言ったので、施設のボランティアをする事を進めてみました。本人もやる気があるみたいなので、優しく教えてあげてください。息子は不器用で口下手なのでご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いします」

 『パチパチ パチパチ パチパチ パチパチ』

 職員のみなさんは拍手で俺を歓迎してくれた。

 「昴!あなたも簡単でいいから挨拶をするのよ」
 「きょ・・・今日からお世話になります六道昴といいます。一生懸命がんばりますのでよろしくおねがいします」

 昨日は母親から朝礼で一言あいさつをするように言われていた。俺にとって大勢の前で挨拶をするのは苦痛である。何度も何度も練習をしたが、出だしで噛んでしまったが、きちんと言えてホッとしていた。

 『パチパチ パチパチ パチパチ パチパチ』

 その後、夜勤者から引き継ぎ内容の報告があり朝礼は無事に終了した。

 「昴さん、こちらへ来てもらえるかしら」
 「は・・・はい」

 挨拶を終えて一安心した俺だが、本田課長の声にビクついて噛んでしまう。俺は初めての職場ではいつもこうである。緊張してビクビクオドオドしてしまう。ニート歴も長かったためか、体は少年、心はおっさんでも余裕など微塵もない。

 「最初に昴さんには入居者様のベットメイキングをしてもらいます。ベットメイキングは簡単に言うとベットのシーツを交換する事です。この施設には75名の入居者さんが居てます。シーツの交換は週に1回となっていますが、75名分を1日で全て交換するのは時間がかかり過ぎてしまいます。なので、1日に15名分のシーツを交換することになります。シーツ交換は入居者様が朝食をしている1時間で全て終わらせないといけません。2人1組で2組でベットメイキングをしますので、1部屋を7分程度で終わらせれば問題ありません。今日は初日なのでベットメイキングの見学をしてください」
 「はい」

 週に1回のシーツの交換は入居者に連絡をしているので、入居者には朝食を食べた後、食堂か共同のリビングスペースで時間を潰してもらっている。

 「紹介するわ。ベットメイキングなど主に施設の雑務を担当している仮屋園(かりやぞの)主任です」
 「昴さん、私があなたの担当になる仮屋園です。わからない事があれば遠慮せずに何でも言ってください」
 「よ・・・よろしくお願いします」

 仮屋園さんは細身の体系の眼鏡をかけた少し目つきが悪そうな40代の男性だった。でも、やさしく言葉をかけてくれたので、俺の緊張も少しはほぐれそうである。

 「仮屋園さん、後はお願いするわね」
 「わかりました」

 本田課長は自分の業務に戻って行った。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました

平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。 しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。 だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。 まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。 勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。 ――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。 ――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。 これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。 ######## この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。

処理中です...