上 下
175 / 191
ループ

174.枢機卿に口で勝利する助祭

しおりを挟む
 侍女頭ターニャと執事ケビンの2人は内務大臣の前に立たされただけで簡単に口を開いた。

「おっ、俺は旦那様と奥様とリリアーナ様の指示に従っただけなんです!」

「地下牢に閉じ込めたのは旦那様の指示でしたし、その後も全部言われた通りにしただけで、あたしは手を出してませ⋯⋯いえ、あの。言われた通りにしただけです。貴族様の指示に使用人が逆らうなんてできないってお分かりいただけますよね。
嫌だったんですよ、あんな酷いこと。でも、言えないじゃないですか。ローザリア様はお分かりになりますよね。
エリサだって、あたしの気持ちわかるでしょう!?」


「言い訳は不要じゃ! 貴族のルールなんぞワシら教会の者には関係がないでな」

 オーガスト枢機卿の一言で青褪めて黙り込んだターニャとケビンは牢へ連行されて行った。

 その後直ぐにローザリアの離籍の書類が整えられた。ローザリアとエリサの所属は教会になり後見人は得意満面のオーガスト枢機卿が立候補した。

「オーガスト枢機卿、問題が解決するまでの暫定措置だと覚えておいて下さいね。いついかなる状況であってもローザリア様の意志が最優先されます」

 硬直している内務大臣の前で助祭が枢機卿に釘を刺した。

「何を言うか!? ワシはこの先も後見人としてローザリア様の成長を見守り、手となり足となって生涯を捧げると誓っておるのじゃぞ」

 オーガスト枢機卿は熱弁しながらローザリアの手を掴もうとして逃げられた。


「重い⋯⋯そんなだと逃げられますよ。それは困るんじゃないですか?」

「ぐぬぬ! しかし、ワシはローザリア様のお側を離れる気はな⋯⋯」

(枢機卿を口で言い負かす助祭⋯⋯やっぱりナスタリア助祭は危険だ。間違いなく危険人物だ)


「それはまぁ、いずれゆっくり話しゃいいだろ。次の問題が待ってるぜ」



 ナザエル神父の言葉に内務大臣だけでなく全員に緊張が走った。背筋を伸ばし目に力が入り剣に手をかけた者さえいた。

(やはり、ここからが本題か。その為にローザリア様の離籍が必要だったという事は公爵家の闇の魔石に関することに違いあるまい)


「ギャンター内務大臣に今日の午後にでも緊急会議を開いていただきたいんです。参加者は国王・王妃・王太子・王弟・王弟妃・各大臣・トーマック公爵家の3人でいいと思います。
そこに私達を証人として呼んでいただきたいのですが、内務大臣は中立の立場を表明してくださって構いません。証人として呼びはするけれど私達を信用した訳ではないと仰ってください」


「先ずは詳しい話をお聞かせ願えますか? それが分からなければ何ともお返事できません」


「失礼を承知で申し上げますと、内務大臣が私達を信用できないように私達も内務大臣を信用しきれているわけではありません。
だから、全てをお話しすることは出来ないのですが⋯⋯その場で闇の魔石の出どころと使用目的をはっきりさせる予定です」

「今それをお伺いする事は出来ないのですか?」

「ギャンター内務大臣が握り潰さないという確証がありませんから。代わりに一つ私の秘密をお見せします」


 ローザリアは内務大臣の前で空のカップに水を出し、テーブルの上の書類を風で舞上げた。

「つっ、つまり⋯⋯ローザリア様はふたっ、2つの加護をお持ちだと?」

「他にもできます」

 公爵家の騒動から不眠不休の内務大臣に回復の魔法をかけると口をぽかんと開けた間抜け顔を晒した。


「おうっ、王宮精霊師には複数の加護を持つ者はおりません。教会にはおられるという事でしょうか」

「ほっほっほ、複数の加護持ちなぞ他にはおらんわい。ワシがローザリア様の後見人となる理由をお分かりいただけたかのう」

 ローザリアの離籍が完了するまで彼等が話をはじめなかった理由が漸く理解できた。離籍前に公になっていればローザリアの親権を持つトーマック公爵の思い通りにされてしまっただろう。

「錚々たるメンバーがローザリア様の護衛をしておられる訳も漸く理解できました。見習いシスターと仰っておられましたから請願も立てておられるのでしょう?」

「勿論じゃとも。王家にも公爵家にも手は出させぬ。精霊を使などとほざく輩には教会の威信をかけて争う所存じゃて」


「しかし、複数の加護持ちである事と今回の公爵家の魔石の件が繋がらないのですが?」

しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。 そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。 悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。 「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」 こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。 新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!? ⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎

妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜

雪島 由
恋愛
聖女として国を守ってきたマリア。 だが、突然妹ミアとともに現れた婚約者である第一王子に婚約を破棄され、ミアに聖女の座まで譲れと言われてしまう。 国を頑張って守ってきたことが馬鹿馬鹿しくなったマリアは潔くミアに聖女の座を譲って国を離れることを決意した。 「あ、そういえばミアの魔力量じゃ国を守護するの難しそうだけど……まぁなんとかするよね、きっと」 *この作品はなろうでも連載しています。

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」 私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。  聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?  私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。  だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。  こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。  私は誰にも愛されていないのだから。 なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。  灰色の魔女の死という、極上の舞台をー

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?

蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」 ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。 リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。 「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」 結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。 愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。 これからは自分の幸せのために生きると決意した。 そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。 「迎えに来たよ、リディス」 交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。 裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。 ※完結まで書いた短編集消化のための投稿。 小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。

【完結】公爵家のメイドたる者、炊事、洗濯、剣に魔法に結界術も完璧でなくてどうします?〜聖女様、あなたに追放されたおかげで私は幸せになれました

冬月光輝
恋愛
ボルメルン王国の聖女、クラリス・マーティラスは王家の血を引く大貴族の令嬢であり、才能と美貌を兼ね備えた完璧な聖女だと国民から絶大な支持を受けていた。 代々聖女の家系であるマーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれたエミリアは、大聖女お付きのメイドに相応しい人間になるために英才教育を施されており、クラリスの側近になる。 クラリスは能力はあるが、傍若無人の上にサボり癖のあり、すぐに癇癪を起こす手の付けられない性格だった。 それでも、エミリアは家を守るために懸命に彼女に尽くし努力する。クラリスがサボった時のフォローとして聖女しか使えないはずの結界術を独学でマスターするほどに。 そんな扱いを受けていたエミリアは偶然、落馬して大怪我を負っていたこの国の第四王子であるニックを助けたことがきっかけで、彼と婚約することとなる。 幸せを掴んだ彼女だが、理不尽の化身であるクラリスは身勝手な理由でエミリアをクビにした。 さらに彼女はクラリスによって第四王子を助けたのは自作自演だとあらぬ罪をでっち上げられ、家を潰されるかそれを飲み込むかの二択を迫られ、冤罪を被り国家追放に処される。 絶望して隣国に流れた彼女はまだ気付いていなかった、いつの間にかクラリスを遥かに超えるほどハイスペックになっていた自分に。 そして、彼女こそ国を守る要になっていたことに……。 エミリアが隣国で力を認められ巫女になった頃、ボルメルン王国はわがまま放題しているクラリスに反発する動きが見られるようになっていた――。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...