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ループ

171.忘れている意味

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「前の時は登山の途中ローザリアのことがすごく心配で何度も振り返ったなぁとか、ローザリアの前に立って剣で切り掛かってくる奴をスピアを肩に担いだまま蹴り飛ばしたり。
珍しい薬草を見つけて喜んでたらすごい音がして必死に走り出した時もローザリアの名前を呼んでた気がする」

 懐かしい思い出がナスタリア助祭の口から語られた。

「ローザリアの杖に嵌め込まれてるエメラルドを見ると毎回『僕の色』だって妙にソワソワするし、ナナカマドの杖を選んだのは僕だって思ったり。
で、もしかして僕はローザリアの事を⋯⋯その、好きだったんじゃないかと思ったりしたんだけど」


「⋯⋯そう言う話はした事なかったです。すごく大変な旅をしていて、国を守るためにはどうすればいいかって話ばかりしてた気がします」

「そっか⋯⋯ローザリアは全部覚えてるんだよね。僕も覚えてたらなー、そうしたらこんなにモヤモヤしなくて済むのに」

「覚えている人と覚えていない人⋯⋯それぞれに意味があるのかも。少なくとも今のナスタリア助祭と過去のナスタリア神父は別の人ですしね。
ループしていても同じ事が起きるとは限らないし、ナスタリア神父は過去の人でナスタリア助祭は今の人ですから。
ニールなんて完全に別人なんですから」

 その後は、無言・無表情で筋肉マッチョだった過去のニールの話で盛り上がった。

「変身するのかしないのか⋯⋯すっごい楽しみだよ!」

「秘密ですからね」

「もちろん!」



(覚えていることにも忘れていることにもきっと理由があるはず。だから、無理に過去を知る必要なんてないと思う。
今のナスタリア助祭はナスタリア神父よりもに近いかな? それはそれで嬉しい気も)



「そう言えば、どうしてエリサに話さないの? お母さんって呼びたいって呼びたいって言ってたのに」

「全部終わってからにしようかなって。エリサの事をお母さんって呼んでそれに応えてもらえたら、緊張の糸が切れちゃいそうだなーって思ったんです」

「そうか。ならローザリアがエリサの事をお母さんって呼べるまで一緒に頑張ろう」

「はい、よろしくお願いします」



 釣りを知らないローザリアにナスタリア助祭が説明をはじめた。

「細い棒の先に糸を括り付けてさ、針⋯⋯」


 そろそろご飯だとエリサが呼びに来るまでローザリアとナスタリア助祭は久しぶりの休暇を楽しんだ。



 夜遅く焚き火を囲んでいたローザリア達の元にナザエル神父とニールが帰って来た。ナザエル神父達はトーマック公爵家がその後どうなったのか、王家や教会はどう動いているのかを調べに行っていた。

「どうだった?」

「クソ野郎はやっぱりクソだったぜ」

「⋯⋯ニール説明宜しく」

 ナザエル神父の意味不明な説明に苦笑いしていたニールの話では、全てエリサとローザリアのせいになっていると言う。

「メイドという職種が気に入らず公爵に取り入ろうとして失敗したエリサが闇の魔石を集めていたと言い張っているんだ」

 カサンドラはエリサとローザリアがいなくなった後二人の部屋から出てきた闇の魔石の始末に困りクローゼットに保管していたと話している。

「あの日届いた荷物もきっとエリサの仕業だったって言ってる。王家も教会も信じちゃいねえが、王弟妃が『わたくしの名前を騙って送ってくるなんて』って騒いでやがるから収拾がつかなくなってるみてえだな」


 教会としては今回の件で亡くなったシスター・タニア⋯⋯力のある光の加護持ちを失ったことへの責任を追求したいが、王家は王弟妃の手前公爵家を守らざるを得ない。

 あの日、闇の魔石をカサンドラ宛に送ったのはナスタリア助祭の作戦の一つ。

 闇の魔石を王弟妃の名前を騙って送りつけ、それとは別にカサンドラが我を忘れるほどの怒りに燃えるよう幸せ一杯のローザリアの手紙を送りつけた。

 ナスタリア助祭の予想通りカサンドラの怒りが爆発し、魔石に閉じ込められていた子供達の恨みや怒りと同調。

「カサンドラが魔力暴走を起こしたのと、魔石の力が解放されて爆発したのはどっちが先か分からないけどね」

 暴発した魔石の力はカサンドラの部屋に元からあった魔石に影響し、屋敷内にいたリリアーナの力とも反応。爆発と火災を引き起こした。

「小耳に挟んだんだが、どうやらリリアーナは⋯⋯」

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