162 / 191
ループ
161.現金なナスタリア助祭
しおりを挟む
「スコル次第だな。それよりも、次はどうする?」
ナスタリア助祭の薬草好きを見事にスルーしたナザエル神父は最後の石碑の攻略法が気になって仕方ないらしいが、あっさりと拒否されたナスタリア助祭は拗ねてお菓子のやけ食いをはじめた。
「公爵邸の地下なんでどうやって忍び込もうか悩んでいます」
理由もなく教会が貴族の家に踏み込むわけにはいかないが、ローザリアが帰れば地下を見に行くどころかただでは済まないだろう。
「地下に行くには厨房の脇にある狭い階段が一つしかありません。階段の辺りは倉庫になっていてワインなどの貯蔵庫があります。その奥に厳重な鉄の扉に阻まれた地下牢があるだけです」
エリサとローザリアが閉じ込められていた地下牢のことだろう。苦々しげなエリサの声からは辛かったその当時の事が聞こえてくるようだった。
「地下牢は半地下になっていて小さな窓がありますが、鉄の扉にはいつも鍵がかけてありました」
「ならそこから侵入するのは難しそうだな」
良い方法が思いつかないまま1時間くらい経っただろうか、ヨロヨロのニールを背に乗せたスコルが帰ってきた。
【人の子は弱すぎる。次に来るまでに鍛えておくが良い】
スコルの背中からドサリと地面に落ちて尻餅をついたニールが『次』と言う言葉に顔を引き攣らせた。
「空飛んだり木から木へ飛び移ったり⋯⋯むりむりむり!」
【風の加護持ちのくせに軟弱な。ことが終わった後、我が鍛えてやろう】
「ニール、楽しみが増えたな。風の加護のスペシャリストになれるぞ」
「風の加護で空が飛べるんだ。すげぇ⋯⋯あっ、それよりも薬草! 薬草を見に行っても良いですか?」
【珍しい種もある。構わんが、ちと時間がかかりすぎるやもしれんな。ジンは既に動きはじめておる故、ここで時間を費やせば手遅れになるやもしれん】
「なら、僕に良い手がある!!」
さっきまで拗ねて話に加わらなかったナスタリア助祭が颯爽と立ち上がった。
「なら、早く言えよ」
不満げなナザエル神父が興奮気味に目を輝かせるナスタリア助祭を横目で睨んだ。
「公爵邸を燃やす!」
「はあ? どうやって? 放火は重罪だぞ。しかも加護を利用したなんてバレたら魔力封じの腕輪とセットで牢屋行きになる。
そうなったら、薬草どころじゃなくなるんだぜ」
ナスタリア助祭の突拍子もない発言にナザエル神父が溜息をついた。ニールは起き上がる元気もないのか横になったままチマチマとお菓子を齧っている。
「カサンドラかリリアーナに燃やさせるんだから問題ないよ」
「この後は精霊王の森に転移だな」
「はい、宜しくお願いします。スコル、今日はありがとう。また会いに来るね」
【おやおや、其方まさか忘れておるのではあるまいな?】
スコルが石碑を振り返るとぽわっと光った中に⋯⋯。
「みゅ」
「フィード!?」
掌サイズのモコモコのフィードが石碑の前に蹲っていた。初めて会った時と同じでまだ目が開いていないらしく、鼻を動かして周りをクンクンと嗅いでいる。
「まだ会えないと思ってた。6年待たなきゃって」
駆け寄って抱き上げるとモゾモゾと動いた後ローザリアの手に顔を擦り寄せて眠ってしまった。
【まだ役には立たぬであろうが、連れて行くが良い】
「はい、フィードが側にいてくれるだけで勇気100倍です!」
森の広場に車座になって座り作戦を確認した。
「ジャスパーに声をかければ良いんだな」
「はい、ノームが属性を揃えて決行するようにって言ってたのでお願いできればと思います」
今回はまだ一度も会ったことがないが前世の記憶の中のジャスパーは信用できる人だったし、今回ノームからのお墨付きももらった。
「ジャスパーなら大丈夫だろう。名前が出たところを見ると前回のメンバーだったんだな?」
「はい、ウスベルの湖も一緒に行きました」
「分かった。あとは⋯⋯シスター・タニアだな。彼女が教会で一番光の加護が強いし人格的にも問題ないだろう」
「シスター・タニア⋯⋯そうですね」
ローザリアの言葉が尻すぼみになっていった。前世でシスター・タニアが敵だったのか味方だったのか⋯⋯最後のあの表情を見てからは分からなくなっている。
(もし仮に前世で敵だったとしても、今世では違うかもしれないし)
ナスタリア助祭の薬草好きを見事にスルーしたナザエル神父は最後の石碑の攻略法が気になって仕方ないらしいが、あっさりと拒否されたナスタリア助祭は拗ねてお菓子のやけ食いをはじめた。
「公爵邸の地下なんでどうやって忍び込もうか悩んでいます」
理由もなく教会が貴族の家に踏み込むわけにはいかないが、ローザリアが帰れば地下を見に行くどころかただでは済まないだろう。
「地下に行くには厨房の脇にある狭い階段が一つしかありません。階段の辺りは倉庫になっていてワインなどの貯蔵庫があります。その奥に厳重な鉄の扉に阻まれた地下牢があるだけです」
エリサとローザリアが閉じ込められていた地下牢のことだろう。苦々しげなエリサの声からは辛かったその当時の事が聞こえてくるようだった。
「地下牢は半地下になっていて小さな窓がありますが、鉄の扉にはいつも鍵がかけてありました」
「ならそこから侵入するのは難しそうだな」
良い方法が思いつかないまま1時間くらい経っただろうか、ヨロヨロのニールを背に乗せたスコルが帰ってきた。
【人の子は弱すぎる。次に来るまでに鍛えておくが良い】
スコルの背中からドサリと地面に落ちて尻餅をついたニールが『次』と言う言葉に顔を引き攣らせた。
「空飛んだり木から木へ飛び移ったり⋯⋯むりむりむり!」
【風の加護持ちのくせに軟弱な。ことが終わった後、我が鍛えてやろう】
「ニール、楽しみが増えたな。風の加護のスペシャリストになれるぞ」
「風の加護で空が飛べるんだ。すげぇ⋯⋯あっ、それよりも薬草! 薬草を見に行っても良いですか?」
【珍しい種もある。構わんが、ちと時間がかかりすぎるやもしれんな。ジンは既に動きはじめておる故、ここで時間を費やせば手遅れになるやもしれん】
「なら、僕に良い手がある!!」
さっきまで拗ねて話に加わらなかったナスタリア助祭が颯爽と立ち上がった。
「なら、早く言えよ」
不満げなナザエル神父が興奮気味に目を輝かせるナスタリア助祭を横目で睨んだ。
「公爵邸を燃やす!」
「はあ? どうやって? 放火は重罪だぞ。しかも加護を利用したなんてバレたら魔力封じの腕輪とセットで牢屋行きになる。
そうなったら、薬草どころじゃなくなるんだぜ」
ナスタリア助祭の突拍子もない発言にナザエル神父が溜息をついた。ニールは起き上がる元気もないのか横になったままチマチマとお菓子を齧っている。
「カサンドラかリリアーナに燃やさせるんだから問題ないよ」
「この後は精霊王の森に転移だな」
「はい、宜しくお願いします。スコル、今日はありがとう。また会いに来るね」
【おやおや、其方まさか忘れておるのではあるまいな?】
スコルが石碑を振り返るとぽわっと光った中に⋯⋯。
「みゅ」
「フィード!?」
掌サイズのモコモコのフィードが石碑の前に蹲っていた。初めて会った時と同じでまだ目が開いていないらしく、鼻を動かして周りをクンクンと嗅いでいる。
「まだ会えないと思ってた。6年待たなきゃって」
駆け寄って抱き上げるとモゾモゾと動いた後ローザリアの手に顔を擦り寄せて眠ってしまった。
【まだ役には立たぬであろうが、連れて行くが良い】
「はい、フィードが側にいてくれるだけで勇気100倍です!」
森の広場に車座になって座り作戦を確認した。
「ジャスパーに声をかければ良いんだな」
「はい、ノームが属性を揃えて決行するようにって言ってたのでお願いできればと思います」
今回はまだ一度も会ったことがないが前世の記憶の中のジャスパーは信用できる人だったし、今回ノームからのお墨付きももらった。
「ジャスパーなら大丈夫だろう。名前が出たところを見ると前回のメンバーだったんだな?」
「はい、ウスベルの湖も一緒に行きました」
「分かった。あとは⋯⋯シスター・タニアだな。彼女が教会で一番光の加護が強いし人格的にも問題ないだろう」
「シスター・タニア⋯⋯そうですね」
ローザリアの言葉が尻すぼみになっていった。前世でシスター・タニアが敵だったのか味方だったのか⋯⋯最後のあの表情を見てからは分からなくなっている。
(もし仮に前世で敵だったとしても、今世では違うかもしれないし)
17
お気に入りに追加
606
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました
As-me.com
恋愛
完結しました。
とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。
なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる