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ループ

161.現金なナスタリア助祭

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「スコル次第だな。それよりも、次はどうする?」

 ナスタリア助祭の薬草好きを見事にスルーしたナザエル神父は最後の石碑の攻略法が気になって仕方ないらしいが、あっさりと拒否されたナスタリア助祭は拗ねてお菓子のやけ食いをはじめた。


「公爵邸の地下なんでどうやって忍び込もうか悩んでいます」

 理由もなく教会が貴族の家に踏み込むわけにはいかないが、ローザリアが帰れば地下を見に行くどころかただでは済まないだろう。


「地下に行くには厨房の脇にある狭い階段が一つしかありません。階段の辺りは倉庫になっていてワインなどの貯蔵庫があります。その奥に厳重な鉄の扉に阻まれた地下牢があるだけです」

 エリサとローザリアが閉じ込められていた地下牢のことだろう。苦々しげなエリサの声からは辛かったその当時の事が聞こえてくるようだった。

「地下牢は半地下になっていて小さな窓がありますが、鉄の扉にはいつも鍵がかけてありました」

「ならそこから侵入するのは難しそうだな」


 良い方法が思いつかないまま1時間くらい経っただろうか、ヨロヨロのニールを背に乗せたスコルが帰ってきた。

【人の子は弱すぎる。次に来るまでに鍛えておくが良い】

 スコルの背中からドサリと地面に落ちて尻餅をついたニールが『次』と言う言葉に顔を引き攣らせた。

「空飛んだり木から木へ飛び移ったり⋯⋯むりむりむり!」

【風の加護持ちのくせに軟弱な。ことが終わった後、我が鍛えてやろう】

「ニール、楽しみが増えたな。風の加護のスペシャリストになれるぞ」

「風の加護で空が飛べるんだ。すげぇ⋯⋯あっ、それよりも薬草! 薬草を見に行っても良いですか?」

【珍しい種もある。構わんが、ちと時間がかかりすぎるやもしれんな。ジンは既に動きはじめておる故、ここで時間を費やせば手遅れになるやもしれん】


「なら、僕に良い手がある!!」

 さっきまで拗ねて話に加わらなかったナスタリア助祭が颯爽と立ち上がった。

「なら、早く言えよ」

 不満げなナザエル神父が興奮気味に目を輝かせるナスタリア助祭を横目で睨んだ。




「公爵邸を燃やす!」

「はあ? どうやって? 放火は重罪だぞ。しかも加護を利用したなんてバレたら魔力封じの腕輪とセットで牢屋行きになる。
そうなったら、薬草どころじゃなくなるんだぜ」

 ナスタリア助祭の突拍子もない発言にナザエル神父が溜息をついた。ニールは起き上がる元気もないのか横になったままチマチマとお菓子を齧っている。

「カサンドラかリリアーナに燃やさせるんだから問題ないよ」




「この後は精霊王の森に転移だな」

「はい、宜しくお願いします。スコル、今日はありがとう。また会いに来るね」

【おやおや、其方まさか忘れておるのではあるまいな?】

 スコルが石碑を振り返るとぽわっと光った中に⋯⋯。

「みゅ」

「フィード!?」

 掌サイズのモコモコのフィードが石碑の前に蹲っていた。初めて会った時と同じでまだ目が開いていないらしく、鼻を動かして周りをクンクンと嗅いでいる。


「まだ会えないと思ってた。6年待たなきゃって」

 駆け寄って抱き上げるとモゾモゾと動いた後ローザリアの手に顔を擦り寄せて眠ってしまった。

【まだ役には立たぬであろうが、連れて行くが良い】

「はい、フィードが側にいてくれるだけで勇気100倍です!」



 森の広場に車座になって座り作戦を確認した。

「ジャスパーに声をかければ良いんだな」

「はい、ノームが属性を揃えて決行するようにって言ってたのでお願いできればと思います」

 今回はまだ一度も会ったことがないが前世の記憶の中のジャスパーは信用できる人だったし、今回ノームからのお墨付きももらった。


「ジャスパーなら大丈夫だろう。名前が出たところを見ると前回のメンバーだったんだな?」

「はい、ウスベルの湖も一緒に行きました」

「分かった。あとは⋯⋯シスター・タニアだな。彼女が教会で一番光の加護が強いし人格的にも問題ないだろう」

「シスター・タニア⋯⋯そうですね」

 ローザリアの言葉が尻すぼみになっていった。前世でシスター・タニアが敵だったのか味方だったのか⋯⋯最後のあの表情を見てからは分からなくなっている。

(もし仮に前世で敵だったとしても、今世では違うかもしれないし)

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