上 下
144 / 191
ループ

143.ローザリアの戦い

しおりを挟む
 慌てたナザエル神父がローザリアを抱き上げて走り出した。振動で目が覚めたローザリアは一言だけ呟いてまた気を失った。

「回復はしないで、絶対に!」



 次にローザリアが目覚めた時、眉間に皺を寄せたナザエル神父の顔が目の前にあった。

「わぁっ!」

「あー、びっくりした。驚かせんなよ」


 ソファに寝かされていたローザリアはモゾモゾと起き出しソファの隅にちょこんと座った。

「なんで回復はダメなんだ?」

「話が先だから」

「⋯⋯なら、話してみろよ」

 向かい側にふんぞりかえって座ったナザエル神父は不満そうな顔をしていた。


「ナスタリア神父⋯⋯助祭もお願いします」

「は? そんな約束はしてねえし」

「なら、もうひと勝負。今度は手を抜きませんよ」

「あんだけ魔法をバンバン打ちゃあ魔力切れだろうが」

 ニヤッと笑ったローザリアが空いている窓から水の球を立て続けに打ち出すと、外から悲鳴が聞こえて来た。

「きゃあー」

「うわあ! つめてえー!」



「ナスタリア助祭様を」

 ドヤ顔で笑ったローザリアをナザエル神父が睨みつけた。

「くそっ!」



 しばらくしてかなりびっくりするほど若いナスタリア助祭がやって来た。

「おじさんが子供に負けて窓から水を大量放出してるって騒ぎになってますよ」

「おじさん言うな! 神父様と呼べ」



「ナスタリア助祭様、一度だけお目にかかったことがありますが覚えておられますか?」

 首を傾げながらローザリアを見たナスタリア助祭は眉間に皺を寄せた。

「いえ」

「ローザリア・トーマックと申します」

「トーマッ⋯⋯あっ! おじ⋯⋯ナザエル神父の代理で行ったあの時の!」

「はい」

「えーっと、神託の儀を受けに来たんなら僕は関係ないですよね」

(『僕』って言ってる。背も低くて髪も随分短いし)


 ジロジロとナスタリア助祭を見ていたローザリアはハッと我に返った。

「どうしてもお二人に聞いてもらわなくてはならないんです」

 真剣な様子のローザリアに戸惑いながらナザエル神父の横にナスタリア助祭が腰を下ろした。




「荒唐無稽な話なんですが⋯⋯私は一度死んでいます。その時に⋯⋯」

「あーハイハイ。そう言う奴多いんだよ、ったく⋯⋯くだらん話は聞きたくない。さっさと帰りやがれ!」

 ムッとしたナザエル神父がローザリアを睨んだ。

「ナザエル神父はツーハンドソードの使い手で乗っているのはデストリエと呼ばれる巨大な黒い馬です。魔力がなくなった時のために聖騎士や精霊師を鍛えた。鍛えてる最中かも」

「アイツがデストリエだとどこで聞いた?」


「ナスタリア助祭様から神託の儀を受ける部屋の精霊王の像の説明を受けました。その時、『ローブの腰にあるのは魔法の宝帯で全てを魅了する力を隠している』と言われてるって」

「そうなんですか?」

 ナスタリア助祭がナザエル神父に聞いた。

「お前はまだ知らんか。だが合ってる」


「森に行きました。池にはチャブという魚がいて、年に何回か魚釣りとかザリガニ釣りをするって」

「⋯⋯」

「その森に結界の張られた中に祠というか小屋がありました。結界の中は教会でも限られた人しか入れない。石碑には古代文字が掘られているけれど教会の人も何が書いてあるか分からない。
そこで精霊王に会いました」

「⋯⋯てめえ⋯⋯その話どこで聞いた? 喋った奴は誰だ!?」


「加護を持つ人が生まれにくくなっていますよね。数年後旱魃でこの国はとても困難な状況になります。その頃には加護を持つ人も力が弱まってしまって⋯⋯教会の外では回復がほとんどできなくなります」

「いい加減にしろ!」

「やめません!! ナスタリア神父は3歳の時美味しそうだなって思った毒薬草を食べて1週間寝込んで、自分の身体で人体実験してて。薬草研究がしたくて火の加護だから教会に入って⋯⋯本当の名前はレオンです」

「おじさん、僕⋯⋯その話は誰にもしたことがない」



 部屋に沈黙が訪れた。

「で、お前は何をしたいんだ?」

「この先の未来を変えたい」

「百歩譲ってお前の話が本当だとしよう。ひとりの人間の勝手で未来を変えていいと思ってんのかよ」

「思ってます。私が今回も18歳で愛し子として覚醒する運命なら変えなくちゃいけないんです」

「愛し子とはこりゃまた大きく出たな」

 ほんの少しナザエル神父が話を信じはじめた気がした。

「神託の儀をやればわかってもらえます。私の加護は精霊王の加護です。現存していない加護も含めて全ての加護の紋章が現れて、それを取り囲むように精霊王の蔦や葉に似た紋章があります。ナザエル神父は精霊王の紋章の色を知らないけど、全部の紋章の色があちこちに使われてる。緑のとこ、赤のとこ、虹色のとこ⋯⋯。
今回それが出なければ愛し子にはならないけど、出たら愛し子になる。

そしてジンがこの国を狙ってる証になります」


「お前が希代の大嘘つきかどうか、やってみりゃわかるってことだな」

しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。 そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。 悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。 「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」 こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。 新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!? ⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」 私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。  聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?  私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。  だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。  こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。  私は誰にも愛されていないのだから。 なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。  灰色の魔女の死という、極上の舞台をー

妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜

雪島 由
恋愛
聖女として国を守ってきたマリア。 だが、突然妹ミアとともに現れた婚約者である第一王子に婚約を破棄され、ミアに聖女の座まで譲れと言われてしまう。 国を頑張って守ってきたことが馬鹿馬鹿しくなったマリアは潔くミアに聖女の座を譲って国を離れることを決意した。 「あ、そういえばミアの魔力量じゃ国を守護するの難しそうだけど……まぁなんとかするよね、きっと」 *この作品はなろうでも連載しています。

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

【完結】公爵家のメイドたる者、炊事、洗濯、剣に魔法に結界術も完璧でなくてどうします?〜聖女様、あなたに追放されたおかげで私は幸せになれました

冬月光輝
恋愛
ボルメルン王国の聖女、クラリス・マーティラスは王家の血を引く大貴族の令嬢であり、才能と美貌を兼ね備えた完璧な聖女だと国民から絶大な支持を受けていた。 代々聖女の家系であるマーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれたエミリアは、大聖女お付きのメイドに相応しい人間になるために英才教育を施されており、クラリスの側近になる。 クラリスは能力はあるが、傍若無人の上にサボり癖のあり、すぐに癇癪を起こす手の付けられない性格だった。 それでも、エミリアは家を守るために懸命に彼女に尽くし努力する。クラリスがサボった時のフォローとして聖女しか使えないはずの結界術を独学でマスターするほどに。 そんな扱いを受けていたエミリアは偶然、落馬して大怪我を負っていたこの国の第四王子であるニックを助けたことがきっかけで、彼と婚約することとなる。 幸せを掴んだ彼女だが、理不尽の化身であるクラリスは身勝手な理由でエミリアをクビにした。 さらに彼女はクラリスによって第四王子を助けたのは自作自演だとあらぬ罪をでっち上げられ、家を潰されるかそれを飲み込むかの二択を迫られ、冤罪を被り国家追放に処される。 絶望して隣国に流れた彼女はまだ気付いていなかった、いつの間にかクラリスを遥かに超えるほどハイスペックになっていた自分に。 そして、彼女こそ国を守る要になっていたことに……。 エミリアが隣国で力を認められ巫女になった頃、ボルメルン王国はわがまま放題しているクラリスに反発する動きが見られるようになっていた――。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

処理中です...