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一回目 (過去)
137.侯爵の領地経営と魔法契約
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「こりゃなんだ?」
「知らないんですか? 手押しポンプって言うんですよ。この街の井戸は全部これがついてて便利なんですよ。ここをこうして⋯⋯ほらね、大した力がなくても水が出せるでしょ」
「ほう、これなら女子供でも水汲みに苦労しねえ」
「この街には他にも領主様の発明がいっぱいで、ほんと助かってますよ」
商店街の奥には職人街があった。カンカンと金属を打つ音が聞こえる先には大きな倉庫らしき建物があった。
「ありゃなんだ?」
荷物を抱えてセカセカと歩いていた男を捕まえて問いただすと中で布を作っているという。この街では蚕の養殖から機織りまで一箇所に纏まって作業している。
「それも領主様の発案のひとつです」
その後も他の街では見られない光景を目にし、領主に感謝する言葉を聞いて領主館に戻ってきた。
「夜が楽しみですね」
部屋に戻るとシスター・タニアがすぐにやって来てローザリアはお風呂に入れられ久しぶりのドレスを着せられた。
メイドに案内された食堂の席は埋まっており皆がローザリアを待っていた。
「遅くなって申し訳ありません」
席に座りながらローザリアが謝るとダフネル侯爵らしき人物が立ち上がり笑顔を浮かべた。
「美しい女性を待つのは至福の時ですから」
噂に聞いていた変人には見えないそつのない態度と優雅な仕草で一礼し挨拶をはじめた。
「ダフネル侯爵家当主のルイスと申します。先程はお出迎えできず大変申し訳ありませんでした」
「枢機卿のナザエルです。隣からローザリア・トーマック公爵令嬢、ナスタリア神父、ニール・オーガスト・シスター・タニア、ジャスパー・サルースト」
見たこともないほど豪華な料理が運ばれてきたが、ナイフやフォークが並んでいるのを見た時からローザリアは顔面蒼白になっていた。
(どうしよう、マナーなんて)
出発前に付け焼き刃でマナー講習をしてもらったが、あれからずいぶん日にちが経っている。
(ナスタリア神父の動きを横目で見ながらなんとか⋯⋯)
「うちの執事がたまにはマナーを思い出せと煩くて⋯⋯もし皆さんからのお許しが頂けるなら無礼講でお願いできませんでしょうか? 私は肩が凝る貴族のルールが苦手でして」
ダフネル侯爵が苦笑いしながら頭に手をやったが、無意識にナイフを睨んでいたローザリアの為の台詞だと誰もが気付いた。
「そうしていただけると助かりますな。野営が長く敬語も好かん」
「おお、それは私も助かった。後どのくらい仮面が外れずにいるかドキドキしていたんだ」
次々に出てくる料理の合間に他愛ない会話が続きコーヒーとデザートが出てきた。
「街をご覧になられたと聞いたんだがどうだった?」
「この街だけが水不足から逃れてるのが非常に不思議だったな」
「それも含めて色々腹を割って話したいんだけど⋯⋯」
チラリとダフネル侯爵が目配せすると執事のジーニアスを残し使用人達が退出した。それを見たシスター・タニアがジャスパーを促し部屋を出たのを確認したナザエル枢機卿が口を開いた。
「腹を割れるかどうかはわからんな」
「魔法契約を使えばいいと思っていたんだけど。それならお互い嘘は言えないし、聞きたいことが聞けて秘密は漏れない」
「嘘の定義により問題が起こる可能性が考えられます。話さないことを嘘と捉えれば契約違反になりますし、腹を割るにはお互いの信頼関係が希薄ではないかと思います」
「つまり?」
「この街がダフネル侯爵の尽力で繁栄している事は承知しました。我々としては支援の必要性がないと判断し次の予定地に移動する事にしたいと考えております」
「確かに水に不自由はしていない。十分と言えるかどうかはわからないけど困ってはいないはず。その理由を知りたいとは思わない?」
「想像はついておりますので」
「だよね。教会随一の知恵者ナスタリア神父だし。それがバレるとわかってても来て欲しかったんだ、ローザリア様に」
「⋯⋯」
「僕が魔獣研究にハマっているのは知ってるだろう? この世界には何故魔獣がいるのかって思ったことがはじまりだったんだ。この国は他国に比べれば少ないけど魔獣はいるし被害も出るだろ。それを調べているうちに魔石の魅力に取り憑かれたんだ。
魔石が持っている様々な属性を有効活用したいと思って調べていたら魔道具に行き着いた」
「この街の発展の原動力だな」
「でもそれを知られたら王家に潰されるし貴族達に利用される。だから金はあっても魔獣研究で臭くて汚くてそばに寄りたくない最低で変人の侯爵になった。
お陰でここ最近は自由にやらせてもらってる」
「噂が下火になるたびに新しい噂が社交界に蔓延していますから」
「ここから先が本題になる。で、僕の事をどうしても信用できないというなら続きは諦めるよ」
「知らないんですか? 手押しポンプって言うんですよ。この街の井戸は全部これがついてて便利なんですよ。ここをこうして⋯⋯ほらね、大した力がなくても水が出せるでしょ」
「ほう、これなら女子供でも水汲みに苦労しねえ」
「この街には他にも領主様の発明がいっぱいで、ほんと助かってますよ」
商店街の奥には職人街があった。カンカンと金属を打つ音が聞こえる先には大きな倉庫らしき建物があった。
「ありゃなんだ?」
荷物を抱えてセカセカと歩いていた男を捕まえて問いただすと中で布を作っているという。この街では蚕の養殖から機織りまで一箇所に纏まって作業している。
「それも領主様の発案のひとつです」
その後も他の街では見られない光景を目にし、領主に感謝する言葉を聞いて領主館に戻ってきた。
「夜が楽しみですね」
部屋に戻るとシスター・タニアがすぐにやって来てローザリアはお風呂に入れられ久しぶりのドレスを着せられた。
メイドに案内された食堂の席は埋まっており皆がローザリアを待っていた。
「遅くなって申し訳ありません」
席に座りながらローザリアが謝るとダフネル侯爵らしき人物が立ち上がり笑顔を浮かべた。
「美しい女性を待つのは至福の時ですから」
噂に聞いていた変人には見えないそつのない態度と優雅な仕草で一礼し挨拶をはじめた。
「ダフネル侯爵家当主のルイスと申します。先程はお出迎えできず大変申し訳ありませんでした」
「枢機卿のナザエルです。隣からローザリア・トーマック公爵令嬢、ナスタリア神父、ニール・オーガスト・シスター・タニア、ジャスパー・サルースト」
見たこともないほど豪華な料理が運ばれてきたが、ナイフやフォークが並んでいるのを見た時からローザリアは顔面蒼白になっていた。
(どうしよう、マナーなんて)
出発前に付け焼き刃でマナー講習をしてもらったが、あれからずいぶん日にちが経っている。
(ナスタリア神父の動きを横目で見ながらなんとか⋯⋯)
「うちの執事がたまにはマナーを思い出せと煩くて⋯⋯もし皆さんからのお許しが頂けるなら無礼講でお願いできませんでしょうか? 私は肩が凝る貴族のルールが苦手でして」
ダフネル侯爵が苦笑いしながら頭に手をやったが、無意識にナイフを睨んでいたローザリアの為の台詞だと誰もが気付いた。
「そうしていただけると助かりますな。野営が長く敬語も好かん」
「おお、それは私も助かった。後どのくらい仮面が外れずにいるかドキドキしていたんだ」
次々に出てくる料理の合間に他愛ない会話が続きコーヒーとデザートが出てきた。
「街をご覧になられたと聞いたんだがどうだった?」
「この街だけが水不足から逃れてるのが非常に不思議だったな」
「それも含めて色々腹を割って話したいんだけど⋯⋯」
チラリとダフネル侯爵が目配せすると執事のジーニアスを残し使用人達が退出した。それを見たシスター・タニアがジャスパーを促し部屋を出たのを確認したナザエル枢機卿が口を開いた。
「腹を割れるかどうかはわからんな」
「魔法契約を使えばいいと思っていたんだけど。それならお互い嘘は言えないし、聞きたいことが聞けて秘密は漏れない」
「嘘の定義により問題が起こる可能性が考えられます。話さないことを嘘と捉えれば契約違反になりますし、腹を割るにはお互いの信頼関係が希薄ではないかと思います」
「つまり?」
「この街がダフネル侯爵の尽力で繁栄している事は承知しました。我々としては支援の必要性がないと判断し次の予定地に移動する事にしたいと考えております」
「確かに水に不自由はしていない。十分と言えるかどうかはわからないけど困ってはいないはず。その理由を知りたいとは思わない?」
「想像はついておりますので」
「だよね。教会随一の知恵者ナスタリア神父だし。それがバレるとわかってても来て欲しかったんだ、ローザリア様に」
「⋯⋯」
「僕が魔獣研究にハマっているのは知ってるだろう? この世界には何故魔獣がいるのかって思ったことがはじまりだったんだ。この国は他国に比べれば少ないけど魔獣はいるし被害も出るだろ。それを調べているうちに魔石の魅力に取り憑かれたんだ。
魔石が持っている様々な属性を有効活用したいと思って調べていたら魔道具に行き着いた」
「この街の発展の原動力だな」
「でもそれを知られたら王家に潰されるし貴族達に利用される。だから金はあっても魔獣研究で臭くて汚くてそばに寄りたくない最低で変人の侯爵になった。
お陰でここ最近は自由にやらせてもらってる」
「噂が下火になるたびに新しい噂が社交界に蔓延していますから」
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