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一回目 (過去)
133.俺様改め筋肉ダルマの末路
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ザッカリーが魔道具を投げつけると巨大な魔法陣が現れた。
「使い捨てかよ。勿体無いねえ」
ウォーッと雄叫びを上げた男達が剣や槍を構えて切り掛かってきた。剣を構えた聖騎士達と町の男達がぶつかりあい精霊師も武器を持って応戦する。
ナザエル枢機卿はローザリアのそばで呑気に観戦している。
「あの、よかったら参加して来てもいいですから」
聖騎士や精霊師達の様子を見て一人でも大丈夫だと思ったローザリアは『私のせいで参加できないなんて申し訳ない』と思いナザエル枢機卿に声をかけた。
「いや、弱すぎてつまらん。そろそろ終わるしな」
男達の後ろで仁王立ちしていた町長を残し男達が全員地面に倒れ伏した。精霊師の数人が怪我をしているものの聖騎士は無傷で立っている。
「おい、この程度の奴らで怪我をした奴は追加訓練だ! 遠征に出てから鈍ってやがる」
「はい」
ガックリと肩を落とした精霊師達にローザリアが小さくエールを送った。
「ドンマイ」
「なっ、なんでだよ。教会の奴等がこんなに強いとか聞いてねえ!」
「町長は戦わないのですか? 無駄な筋肉だるまですね」
ナスタリア神父が槍を肩に担ぎザッカリーを挑発している。
「ヤバい、今日もナスタリア神父がキレッキレだ」
「最近、武闘派に鞍替えしてるからな」
「愛のなせる業ってやつよ」
ザッカリーは『とても武闘派には見えないコイツならヤレる!』と思ったのかファルシオンを構えて飛び出してきた。
「えげつないことを考えやがる」
片刃で幅の広いファルシオンは重さがあり接近戦に適している。ナスタリア神父の槍を躱して懐に入り込んだザッカリーがニヤリと笑いファルシオンをナスタリア神父に叩きつけようとした時、ナスタリア神父がザッカリーの腹を思い切り蹴飛ばした。
「終わりですか?」
「くそぉー、今のはまぐれ当たりだ!!」
何度も飛び込んで切り掛かってはナスタリア神父に翻弄されるザッカリーはまるで剣の練習をはじめたばかりの子供のよう。
「な、えげつないだろ? 致命傷を与えないように加減して痛めつけてやがる。大人がアレをやられると心が折れて当分立ち直れん」
ナスタリア神父の気が済んだのかザッカリーの首に槍を突きつけた。
「少々飽きて来たのですが、まだやりますか?」
完全に心の折れたザッカリーを残してナスタリア神父が帰ってきた。
「⋯⋯教会でお前だけは怒らせるなって言われてるの知ってるか?」
「懸命な判断だと思いますね。ナザエル枢機卿程気が短くないので余程のことがない限り切れませんが」
今日はその『余程の事』だったのだろう。
「さて、俺達は食事の途中なんだが、気が済んだなら帰ってもらおう」
「考え直して頂けませんか? うちにはまだ小さい子がいるんです!」
「配給の水だけじゃやってけねえ」
「聖女様に助けて頂けないと死んじまう!」
「さっきまでのんびり観戦してた奴らにあれこれ言われてもなあ」
町の人の声を聞いてもナザエル枢機卿はいたって呑気にしている。
「でも、あれは⋯⋯」
「俺達は何もしてない。町長達が勝手にやった事で⋯⋯」
「この町は自分さえ良けりゃいいんだろ? 水不足になって新しく堰を作ったろ? それでやりくりして来たんだろ?」
「⋯⋯でっ、でもそれは仕方がなく」
「自分達の水が確保できれば下流の町や村のことはどうでも良かったんですよね」
「男達が⋯⋯町長と男達が勝手にやった事なんです。あたし達は関係ないんです!」
「ではお聞きしますが、洗濯はどこでやっていましたか?」
「え?」
「洗い物はどこでやって、体を洗うのはどこでやっていましたか?」
「⋯⋯」
「俺達は別に世直しの旅をしてるわけじゃねえ。この町が何をしようが俺達が口を出す権利も義務もねえ。
だがなあ、自分勝手やってる奴らを助ける責任もねえよなあ」
「この町が新しく堰を設置した事で幾つの町や村の川が干上がったかご存知の方もおられるでしょう。知らないと言われるのであれば調べてみては如何ですか?」
「謝る⋯⋯堰を壊して、下流の人達に謝ります。だから水を分けて下さい」
「お願いします」
町の人達が頭を下げている。
(ナザエル枢機卿達はこの後どうするの? 水を出してあげたいとも思うけど、今までこの人達のやってきたことを考えたら素直に助けてあげるのもなんだかなあ)
「使い捨てかよ。勿体無いねえ」
ウォーッと雄叫びを上げた男達が剣や槍を構えて切り掛かってきた。剣を構えた聖騎士達と町の男達がぶつかりあい精霊師も武器を持って応戦する。
ナザエル枢機卿はローザリアのそばで呑気に観戦している。
「あの、よかったら参加して来てもいいですから」
聖騎士や精霊師達の様子を見て一人でも大丈夫だと思ったローザリアは『私のせいで参加できないなんて申し訳ない』と思いナザエル枢機卿に声をかけた。
「いや、弱すぎてつまらん。そろそろ終わるしな」
男達の後ろで仁王立ちしていた町長を残し男達が全員地面に倒れ伏した。精霊師の数人が怪我をしているものの聖騎士は無傷で立っている。
「おい、この程度の奴らで怪我をした奴は追加訓練だ! 遠征に出てから鈍ってやがる」
「はい」
ガックリと肩を落とした精霊師達にローザリアが小さくエールを送った。
「ドンマイ」
「なっ、なんでだよ。教会の奴等がこんなに強いとか聞いてねえ!」
「町長は戦わないのですか? 無駄な筋肉だるまですね」
ナスタリア神父が槍を肩に担ぎザッカリーを挑発している。
「ヤバい、今日もナスタリア神父がキレッキレだ」
「最近、武闘派に鞍替えしてるからな」
「愛のなせる業ってやつよ」
ザッカリーは『とても武闘派には見えないコイツならヤレる!』と思ったのかファルシオンを構えて飛び出してきた。
「えげつないことを考えやがる」
片刃で幅の広いファルシオンは重さがあり接近戦に適している。ナスタリア神父の槍を躱して懐に入り込んだザッカリーがニヤリと笑いファルシオンをナスタリア神父に叩きつけようとした時、ナスタリア神父がザッカリーの腹を思い切り蹴飛ばした。
「終わりですか?」
「くそぉー、今のはまぐれ当たりだ!!」
何度も飛び込んで切り掛かってはナスタリア神父に翻弄されるザッカリーはまるで剣の練習をはじめたばかりの子供のよう。
「な、えげつないだろ? 致命傷を与えないように加減して痛めつけてやがる。大人がアレをやられると心が折れて当分立ち直れん」
ナスタリア神父の気が済んだのかザッカリーの首に槍を突きつけた。
「少々飽きて来たのですが、まだやりますか?」
完全に心の折れたザッカリーを残してナスタリア神父が帰ってきた。
「⋯⋯教会でお前だけは怒らせるなって言われてるの知ってるか?」
「懸命な判断だと思いますね。ナザエル枢機卿程気が短くないので余程のことがない限り切れませんが」
今日はその『余程の事』だったのだろう。
「さて、俺達は食事の途中なんだが、気が済んだなら帰ってもらおう」
「考え直して頂けませんか? うちにはまだ小さい子がいるんです!」
「配給の水だけじゃやってけねえ」
「聖女様に助けて頂けないと死んじまう!」
「さっきまでのんびり観戦してた奴らにあれこれ言われてもなあ」
町の人の声を聞いてもナザエル枢機卿はいたって呑気にしている。
「でも、あれは⋯⋯」
「俺達は何もしてない。町長達が勝手にやった事で⋯⋯」
「この町は自分さえ良けりゃいいんだろ? 水不足になって新しく堰を作ったろ? それでやりくりして来たんだろ?」
「⋯⋯でっ、でもそれは仕方がなく」
「自分達の水が確保できれば下流の町や村のことはどうでも良かったんですよね」
「男達が⋯⋯町長と男達が勝手にやった事なんです。あたし達は関係ないんです!」
「ではお聞きしますが、洗濯はどこでやっていましたか?」
「え?」
「洗い物はどこでやって、体を洗うのはどこでやっていましたか?」
「⋯⋯」
「俺達は別に世直しの旅をしてるわけじゃねえ。この町が何をしようが俺達が口を出す権利も義務もねえ。
だがなあ、自分勝手やってる奴らを助ける責任もねえよなあ」
「この町が新しく堰を設置した事で幾つの町や村の川が干上がったかご存知の方もおられるでしょう。知らないと言われるのであれば調べてみては如何ですか?」
「謝る⋯⋯堰を壊して、下流の人達に謝ります。だから水を分けて下さい」
「お願いします」
町の人達が頭を下げている。
(ナザエル枢機卿達はこの後どうするの? 水を出してあげたいとも思うけど、今までこの人達のやってきたことを考えたら素直に助けてあげるのもなんだかなあ)
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