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一回目 (過去)

119.それぞれの行方

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「つまりノールケルト子爵領の全権をワシに任せると言うことか?」

「流石話がはええな」

「ワシに領地経営なんぞできるわけがない」

 首を横に振るグレイソンにナザエル枢機卿がニヤリと笑った。

「名前だけでいい。専門家はこっちで手配する。ただこの領にしばらくの間誰も手を出せねえようにしておきたい」

「長櫃か?」

「ああ、その通りだ。あの湖に理由があるなら奴らはまたやって来るだろう。そん時は町が無事ではいられん可能性がある。
今の領主はボンクラのクソガキでな、小金でもちらつかせりゃ直ぐに尻尾を振るような奴だ。だからなんとかできるまで、のらりくらりと責任者不在で粘れる奴が必要だ」

「ワシにそれをやれってのか?」

「ウスベルの奴等を守る為だぜ? アンタからやりたいって言うと思ったが?」

「くそっ! 詳しく話せ」





「ハリー、起きろ!」

「なんだよ、きょうからニールは来ないんだろ? だったらもうちょっと寝かせてくれよ」

「子供の朝ごはん作らないと」

「はあ? んなのアイツらに任せときゃいいじゃん。護衛の奴らが作って食わしてくれるって、もう俺の責任じゃないし~」

「ハリー、お前それ本気で言ってるのかよ?」

「なにアイツらに感化されちゃってんの? 別にやりたい奴にやらせときゃいいじゃん」

「⋯⋯わかった、俺ここを出てくからあとはお前一人で好きに生きてけよ」

「はいはい、お休み~」


 単なる脅しだと思った。

『だってネイサンはいつだって俺のそばにいてくれる』




「アンタ誰だよ!?」

「聞いてないのか? 子供達の世話係だ」

 彼等はグレイソンの指示でウスベルから来て子供の世話を請け負っている。

「ふーん。俺の飯は?」

「俺らの仕事は子供もの世話だけ。お前子供か? 成人してんなら働いて稼いで飯食えよ。
それから今週末までに引っ越せってよ。この屋敷は孤児院にするから子供と世話人以外は出てけって」


「はあ? 勝手なこと言うなよ! 俺様はな、ここの領主でこの屋敷の持ち主なんだぞ。お前らは俺の使用人、さっさと働けよ!」

「あー、噂のボンクラのクソガキか。聞いてる聞いてる。じゃ、今週末までな。家のもんは持ち出すなよ」


 まさかナザエル枢機卿が本気で自分を追い出すと思っていなかったハリーは取り敢えず食事をしようと街に出た。食堂で注文した料理を見ながらため息をつく。

(あの肉、美味かったよなぁ。ベーコンなんて⋯⋯)



 ぶらぶらと時間を潰して屋敷に帰ると子供達が玄関ホールで走り回っていた。

「煩え、騒ぐな!」

「にいちゃーん、こわいやつがかえってきたー」

 ハリーの癇癪に怯えた様子のない子供が家の奥に向けて叫んだ。

「ほっとけほっとけ、もう少しの辛抱だからなー。歯磨くぞー」

「えー、やだー」


 ドスドスと音を立てて部屋に戻りベッドに飛び込んだ。夜になってもネイサンが帰ってこない。

(くそぉ、なんもかんも気に入らねえ!!)





「くそくそくそ! もう1週間だぞ。ネイサンのバカはどこで油売ってんだよ!」


 ハリーは居心地の悪い領主館を出て街を彷徨いているが知り合いは誰もいない。何気にネイサンの姿を探しながらぶらぶらと歩いていると嫌でも街の様子が目に入った。

『子供達のことが良い例だ。それ以外にも街で喧嘩が起き、ならず者が暴れてる、違法な賭けが行われてる⋯⋯ちょっと考えただけでもいくらでも出て来るぜ』


 ナザエル枢機卿の言葉を思い出したハリーは不機嫌に石を蹴飛ばした。

「ああ? やんのかごらぁ!!」

 運悪く蹴飛ばした石の先にいた男に威嚇されたハリーは慌てて逃げ出しながら必死に言い訳を考えていた。

(こんな街知るかよ! こんなクソな街をやるって言ってきた男が悪いんだ。クソな街をくれるなんて知らなかったんだ。俺は悪くねえ!)



 ハリーが領主館に帰ると屋敷の前に頭陀袋がひとつ放り投げられていた。ハリーがここにきた時に持ってきた袋⋯⋯。

(出てけって事かよ。あのおっさん、本気で俺を追い出すとか⋯⋯最低⋯⋯ネイサン、どこ行っちまったんだろう)


 袋を抱えたハリーはトボトボと歩き出した。



 その頃、ネイサンはウスベルにいた。

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