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一回目 (過去)

112.先ずはお仕事を片付けよう

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 夜が近づくほど危険になるので昼のうちに全ての井戸を回ることにした。

 ハリー達に聞いても街の地図は出てこないだろうと思ったローザリア達は商人ギルドを訪ねた。職業別の手工業ギルドが立ち上がるまでは強い権力と権限を持ち幅を利かせていた商人ギルドだが、今はポツリポツリと人がいるだけで閑散としている。

 カウンターにはメガネをかけた男が腰掛け本を読んでいる。

「精霊教会から来た。商会長に面会したい。無理ならこの街の詳しい地図とそれの説明ができる人を紹介して欲しい」

 カウンターの前に立ちジャスパーが声をかけた。

「商会長とお約束は?」

「いや、していない」

「でしたら面会は厳しいですね。それにの仕事ならうちでは扱っておりません」

 見た目の良いジャスパーを蔑むような目で見た男は話を切り上げ本に目を落とした。

「そっちのじゃなくて私達は精霊教会から来た」


 しばらくの間があって男が目を上げた。

「真面な方の教会?」

「真面に精霊信仰をしている方の教会だ」

 ジャスパーの顔や身なりを確認し入り口近くに立つローザリア達を覗き込むようにして確認し終えた男はようやく納得したらしい。

「商会長は外出しておりますが、地図がご入用とか?」

「そうだ。詳しくわかる者がいれば頼みたい」

「畏まりました。こちらへどうぞ」

 男が立ち上がりカウンター横のドアを開けてローザリア達を応接室へ案内した。


 使い込まれた家具の置かれた応接室は落ち着いた雰囲気で、この街にも真面な場所があるんだと知ってほっとした。ソファにローザリアとナザエル・ナスタリアの3人が座りニール達はドアの近くに立った。

 事務員のガイスと名乗った男がお茶の準備をしながら聞いてきた。

「地図を何にご利用になられるのかお聞きしても宜しいでしょうか?」

「私達は精霊教会からこの街の井戸を復活させる為に参りました」

「は? ではあの、ハズ⋯⋯精霊師様を派遣してくださると言う話は本当だったのですか?」

 ハズレと言いかけて慌てて言い直したガイスがポットを持ったまま目を見開いている。

「永遠に持ち続けるわけではありませんが当面の水不足解消の手伝いになれば良いと思い各地を回っております」

「直ぐに地図をお持ちします!! 井戸ですね。確か⋯⋯はい、大丈夫です」

 お茶を淹れかけのままガイスが部屋を飛び出した。

「今までの中では一番真面な対応ですね」


 ガシャン! ドスン


 ドアが開き斜めになった眼鏡を直しながらガイスが戻ってきた。どうやら慌てすぎて転んだらしい。

「たっ、大変失礼致しました。これが現状で一番新しい地図です。店の種類は色々変わっておりますが井戸の場所と道は変わっておりませんのでこのままお使いになれるかと存じます」

 テーブルの上に地図を広げ覗き込んだ。

「井戸のある場所はこの丸にばつ印のところになります」


「結構ありますね」

「街自体は大きくありませんがこれだけの店や人を養っているのですから当然といえば当然ですが、計画性なく適当に掘った感じがするのが残念です」


「この街は先代と先先代の領主様の時代に少しずつ広がっていきまして、その都度井戸を掘ったようです」

「随分とお詳しいようですね」

「はあ、街の歴史を調べるのが好きと申しますか。この街に来たのも歴史を調べるためだったのです。鉱山で栄え多くの店が立ち並ぶ⋯⋯しかも各地の交易にも関わる立地でして」

 滔々と自分語りをはじめたガイスがハッと我に返った。

「申し訳ありません。もし必要がございましたらご案内も致しますのでお声をお掛け頂ければと思います」


「カウンターはそのままで良いのですか?」

「はい、ご存じのように近年の商業ギルドは不人気でして。しかもこの街は賭け事や闘技場、娼館目当ての方ばかりですから。
裏で遊んでいる事務員を座らせておけば問題ないかと存じます」

 ナスタリア神父がチラリとナザエル枢機卿を見ると小さく頷いた。

「道の入り組んだところがかなりあるようですし、業務に支障がないのであればご協力頂けると助かります」

「はい、直ぐに準備して参ります。入り込むと危険な場所なども熟知しておりますのでご安心下さい」


 喜色満面で走り出したガイスだがドアを閉めた途端大きな音を立てて転んだらしい。


 本当に大丈夫なんだろうか⋯⋯と思ったのは一人だけではなかった。

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