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一回目 (過去)

101.ローザリアが見たもの

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「ローザリア?」

 ぎこちなく顔を動かしたローザリアがナスタリア神父の顔を見て小さく笑った。

「ふふっ、泣いてる⋯⋯」

「お帰り」

「うん、ごめんなさ⋯⋯ただいま」

「山のようなマーガレットが咲いてる、心当たりはあるか?」

「⋯⋯昔、一度だけエリスが持って来てくれた。庭からこっそり一輪だけ。初めて見た花なの」


 精霊王はローザリアの記憶にあるマーガレットを知っていたのだろう。

「帰ったらマーガレットも他の花もいっぱいプレゼントするから覚悟しとけよ。俺を驚かした罰で花だらけだ」

「罰にはならないと思う⋯⋯あの子達が泣いてる。助けてあげなくちゃ」

 身じろぎしたローザリアの意識がなくなるのではないかと全員の顔に緊張が走った。

「ごめんなさい、もう大丈夫。作戦を考えなくちゃ。湖の底に沈んでるから早く助けてあげたいの」



 少し顔色が戻ったローザリアに温かいお茶を飲ませてから話を聞くことになった。

「あの、これじゃ座りにくいんですが」

 ローザリアは胡座をかいたナスタリア神父の膝に乗せられている。

「大丈夫だ、問題ない」


「で、何を見た?」

 ナザエル枢機卿も他の人達もローザリアとナスタリア神父の状況を完全スルーしている。ナスタリア神父を睨みつけると笑顔が返ってくるので、ローザリアは大きく溜息をついて話をはじめた。

(心配かけたから仕方ないか)


「えっと、湖の奥の方に長櫃のような物が沈んでいます。その中に何人もの子供の白骨死体が入っていて⋯⋯。その子たちの思いに引き摺られてしまって、すみませんでした」

 小さく頭を下げたローザリアの頭をナスタリア神父が撫でた後、頭の上に顎を乗せた。

(ちっちゃいけど⋯⋯顎のせは流石に⋯⋯ナスタリア神父が元に戻らない。どうしよう)


「湖の奥か⋯⋯そいつを引き上げるのは厳しいかもしれん」

 舟をここまで引き上げるわけにもいかず潜るにしては場所が悪い。

「犯人はどうやってそんな場所に長櫃を沈めたんでしょうか」

「地の加護で作った舟とか?」

「その前にここまでどうやって持ち上げたんだ? 結構な重さがあっただろうし、嵩張りすぎて滝は登れんよな」

「風の加護でしょう。強い加護であれば持ち上げられるのでは?」

「お前ならできるか?」

 ニールの風の加護もかなり強い。

「一人では厳しいかもしれません。同じ加護を持つ者を集めれば⋯⋯着地地点が問題ですが、それこそさっきのローザリア様の様にロープを結びつけておけばコントロールできるでしょう」

「となると、少なくても2人。地の加護持ちと風の加護持ちが関係しているってことか。気に入らんな」

「2人もしくは数人のある程度力の強い精霊師を準備できるとなると犯人は絞り込めます」

「ああ、残念ながらそう言うこった」



「先ずは長櫃を引き上げましょう。ジャスパー、舟を作って下さい。重さに耐えるよう頑丈でそれなりのサイズのものを」

「ひとりでですよね。頑張ります」


 ジャスパーが立ち上がり少し離れた場所で深呼吸し杖を取り出した。小さな声の詠唱が聞こえ少しずつ舟の形が出来上がっていった。

「ふうっ、こんな感じが限界です。枯れてない木があれば良かったんですが、土なんで水に浮かべるのには強度が心配です」

 近付いて見てみるとかなり固くなってはいるが人が乗って水に浮かべたら沈んでしまうかもしれない。

「水に浮かべて目的地まで行き作業して戻って来る⋯⋯ちょっと厳しいか。ジャスパーの力でもこの程度だとすると相当な力の加護持ちだな」

「利用できる木が残っている頃にやったのかもしれんな。枯れ木で筏を作っても⋯⋯長櫃は乗せれんな」

 全員で頭を悩ませたが良い方法が見つからない。

「あっ! 固めればいいんだわ。ジャスパー、もっと薄ーくできませんか? 薄く軽く」

「⋯⋯それしかなさそうですね。しかし大丈夫ですか?」

「薄くはできますが人や物は乗せられなくなりますよ」

「大丈夫です。指の関節一つくらいの厚みで底だけもう少し厚くして下さい」

 ローザリアの希望通りに舟を変化させたジャスパーの横にローザリアが並んだ。杖を出して舟に向ける。

(水に負けないほど固く、水に浮くほど軽く)

【了解っす】

《 ソリダートル 》

 ローザリアが呪文を唱えた後の舟は鉄で作ったように固くなっていた。



「さあ、行きましょう!」

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