92 / 191
一回目 (過去)
92.まずは水
しおりを挟む
今回同行している精霊師のうち回復魔法を使える者は3人しかいないが、先程ざっとみただけでも30人以上の病人がいたようだった。症状によるが重症なら精霊師ひとりが病人ひとりにかかりきりになる可能性がある。
「水が原因なら元気な者達もいつ発症してもおかしくありません。問題の水を早く見つけなくてはイタチごっこになりそうです。行きましょう」
精霊師3人を呼びケルン神父から聞いた症状を伝えた。
「ナザエル枢機卿の許可が出たので重症患者から対応して下さい。ジャスパーは元気な人達が集まっていると言う倉庫の場所を聞いてきて下さい」
「「はい!」」
病室へ駆けていく精霊師の後ろ姿を見送ったローザリアがナスタリア神父に声をかけた。
「私もお手伝いできます。ローブで顔を隠しておけば誤魔化せませんか?」
「取り敢えずは誤魔化せても直ぐにバレてしまうでしょう。精霊師の数の割に治療が早く終わりすぎだと問題になりかねません。
ローザリア様のお気持ちはよく分かります。出来ることをしないという決断は辛いですね」
「⋯⋯はい、病気の人を前に自分の保身を優先していることが情けないです」
「他国の言葉ですが『損をして利を見よ』と言うのがあります。ルベル伯爵の時もそうでしたが今回も同じ、先を見ればローザリア様の力を使うべき時も決まってきます。決して自己保身ではありません」
「⋯⋯はい」
バタバタと音がしてナザエル枢機卿とジャスパーが一緒に帰ってきた。
「歩きながら話そう。水だが井戸がほとんど干上がって手をつけてなかった川の水を使い出したそうだ。危険だと分かっていたが背に腹はかえられんと思ったそうだ。それに、廃坑になって何年も経ってるから大丈夫かもってな」
「神父は知らなかったんですね」
「ああ、言ってなかったそうだ。看護にあたってた夫人が話してくれた」
「では、桶を運んで倉庫の人達の水を確保しましょう。その後井戸と水源の確認ですね」
倉庫は教会から馬車で20分程度のところにあった。あちこち応急手当てをした倉庫の前に数人の大人がだらしなく座り込んでいた。
「見ない顔だがどこから来た?」
「王都の中央教会から来ました。神父のナスタリアと申します」
「へえ、見捨てた奴らの顔でも見にきたか?」
「教会では3人の精霊師が治療に当たっています。ここには安全な水を届けに来ました」
「⋯⋯マジか? 治療してくれんのか!?」
「水も?」
「まずはみなさんの飲み水を交換したいのですが責任者はどなたですか?」
「呼んでくる! さっきはやな態度をとってすまん、直ぐ連れてくるから」
初めに睨みつけていた男が駆け出した。
「おやじ! おい、水が届いたぞ!! さっさと出てこいやー」
興奮して大声で叫ぶ声が響き渡りワラワラと倉庫から人が出てきた。聖騎士達が並べた大きな桶にローザリアが水を溜めていくのを見て歓声が響き渡る。
「うるせえぞ、たかが水くれえで騒ぐんじゃねえ!」
ナザエル枢機卿に負けないくらい大きな男が人混みをかき分けて出てきた。モジャモジャの頭で髭面の年齢不詳の男はナザエル枢機卿の前に仁王立ちして腕を組んだ。
「たかが桶の水を施していい気になってんじゃねえだろうな」
「随分な挨拶だな。臭い上に礼儀知らずとは、それがこの町の作法かよ」
そう言い放ったナザエル枢機卿が無詠唱で男の顔に水をぶちまけた。口をあんぐりと開けたまま固まった大男が目を瞬かせ大声で笑い出した。
「教会にはちと恨みがあったもんでな。ワシはグレイソン、この町のギルド長をやっとる。みんなワシのことはおやじと呼んどる」
「役立たずの教会で枢機卿をやっているナザエルだ。こっちはナスタリア神父で俺の懐刀だな。桶のとこでせっせと水を溜めてるのはローザリア、このメンバーで一番の水の加護持ちだ」
「あんなちっこいのがか? こりゃ驚いた、俺の半分もなさそうだが」
桶には人が集りローザリアが溜める端から汲み出されていく。
「うめー! こんな美味い水は初めてだ」
「お前ら! えーかげんにせえ。ちっこいのが干からびちまうぞ」
グレイソンの言葉にみんながハッと動きを止めた。
「なんか⋯⋯ごめん」
「水が原因なら元気な者達もいつ発症してもおかしくありません。問題の水を早く見つけなくてはイタチごっこになりそうです。行きましょう」
精霊師3人を呼びケルン神父から聞いた症状を伝えた。
「ナザエル枢機卿の許可が出たので重症患者から対応して下さい。ジャスパーは元気な人達が集まっていると言う倉庫の場所を聞いてきて下さい」
「「はい!」」
病室へ駆けていく精霊師の後ろ姿を見送ったローザリアがナスタリア神父に声をかけた。
「私もお手伝いできます。ローブで顔を隠しておけば誤魔化せませんか?」
「取り敢えずは誤魔化せても直ぐにバレてしまうでしょう。精霊師の数の割に治療が早く終わりすぎだと問題になりかねません。
ローザリア様のお気持ちはよく分かります。出来ることをしないという決断は辛いですね」
「⋯⋯はい、病気の人を前に自分の保身を優先していることが情けないです」
「他国の言葉ですが『損をして利を見よ』と言うのがあります。ルベル伯爵の時もそうでしたが今回も同じ、先を見ればローザリア様の力を使うべき時も決まってきます。決して自己保身ではありません」
「⋯⋯はい」
バタバタと音がしてナザエル枢機卿とジャスパーが一緒に帰ってきた。
「歩きながら話そう。水だが井戸がほとんど干上がって手をつけてなかった川の水を使い出したそうだ。危険だと分かっていたが背に腹はかえられんと思ったそうだ。それに、廃坑になって何年も経ってるから大丈夫かもってな」
「神父は知らなかったんですね」
「ああ、言ってなかったそうだ。看護にあたってた夫人が話してくれた」
「では、桶を運んで倉庫の人達の水を確保しましょう。その後井戸と水源の確認ですね」
倉庫は教会から馬車で20分程度のところにあった。あちこち応急手当てをした倉庫の前に数人の大人がだらしなく座り込んでいた。
「見ない顔だがどこから来た?」
「王都の中央教会から来ました。神父のナスタリアと申します」
「へえ、見捨てた奴らの顔でも見にきたか?」
「教会では3人の精霊師が治療に当たっています。ここには安全な水を届けに来ました」
「⋯⋯マジか? 治療してくれんのか!?」
「水も?」
「まずはみなさんの飲み水を交換したいのですが責任者はどなたですか?」
「呼んでくる! さっきはやな態度をとってすまん、直ぐ連れてくるから」
初めに睨みつけていた男が駆け出した。
「おやじ! おい、水が届いたぞ!! さっさと出てこいやー」
興奮して大声で叫ぶ声が響き渡りワラワラと倉庫から人が出てきた。聖騎士達が並べた大きな桶にローザリアが水を溜めていくのを見て歓声が響き渡る。
「うるせえぞ、たかが水くれえで騒ぐんじゃねえ!」
ナザエル枢機卿に負けないくらい大きな男が人混みをかき分けて出てきた。モジャモジャの頭で髭面の年齢不詳の男はナザエル枢機卿の前に仁王立ちして腕を組んだ。
「たかが桶の水を施していい気になってんじゃねえだろうな」
「随分な挨拶だな。臭い上に礼儀知らずとは、それがこの町の作法かよ」
そう言い放ったナザエル枢機卿が無詠唱で男の顔に水をぶちまけた。口をあんぐりと開けたまま固まった大男が目を瞬かせ大声で笑い出した。
「教会にはちと恨みがあったもんでな。ワシはグレイソン、この町のギルド長をやっとる。みんなワシのことはおやじと呼んどる」
「役立たずの教会で枢機卿をやっているナザエルだ。こっちはナスタリア神父で俺の懐刀だな。桶のとこでせっせと水を溜めてるのはローザリア、このメンバーで一番の水の加護持ちだ」
「あんなちっこいのがか? こりゃ驚いた、俺の半分もなさそうだが」
桶には人が集りローザリアが溜める端から汲み出されていく。
「うめー! こんな美味い水は初めてだ」
「お前ら! えーかげんにせえ。ちっこいのが干からびちまうぞ」
グレイソンの言葉にみんながハッと動きを止めた。
「なんか⋯⋯ごめん」
17
お気に入りに追加
603
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。
そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。
悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。
「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」
こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。
新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!?
⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎
【完結】公爵家のメイドたる者、炊事、洗濯、剣に魔法に結界術も完璧でなくてどうします?〜聖女様、あなたに追放されたおかげで私は幸せになれました
冬月光輝
恋愛
ボルメルン王国の聖女、クラリス・マーティラスは王家の血を引く大貴族の令嬢であり、才能と美貌を兼ね備えた完璧な聖女だと国民から絶大な支持を受けていた。
代々聖女の家系であるマーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれたエミリアは、大聖女お付きのメイドに相応しい人間になるために英才教育を施されており、クラリスの側近になる。
クラリスは能力はあるが、傍若無人の上にサボり癖のあり、すぐに癇癪を起こす手の付けられない性格だった。
それでも、エミリアは家を守るために懸命に彼女に尽くし努力する。クラリスがサボった時のフォローとして聖女しか使えないはずの結界術を独学でマスターするほどに。
そんな扱いを受けていたエミリアは偶然、落馬して大怪我を負っていたこの国の第四王子であるニックを助けたことがきっかけで、彼と婚約することとなる。
幸せを掴んだ彼女だが、理不尽の化身であるクラリスは身勝手な理由でエミリアをクビにした。
さらに彼女はクラリスによって第四王子を助けたのは自作自演だとあらぬ罪をでっち上げられ、家を潰されるかそれを飲み込むかの二択を迫られ、冤罪を被り国家追放に処される。
絶望して隣国に流れた彼女はまだ気付いていなかった、いつの間にかクラリスを遥かに超えるほどハイスペックになっていた自分に。
そして、彼女こそ国を守る要になっていたことに……。
エミリアが隣国で力を認められ巫女になった頃、ボルメルン王国はわがまま放題しているクラリスに反発する動きが見られるようになっていた――。
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜
雪島 由
恋愛
聖女として国を守ってきたマリア。
だが、突然妹ミアとともに現れた婚約者である第一王子に婚約を破棄され、ミアに聖女の座まで譲れと言われてしまう。
国を頑張って守ってきたことが馬鹿馬鹿しくなったマリアは潔くミアに聖女の座を譲って国を離れることを決意した。
「あ、そういえばミアの魔力量じゃ国を守護するの難しそうだけど……まぁなんとかするよね、きっと」
*この作品はなろうでも連載しています。
黄金の魔族姫
風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」
「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」
とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!
──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?
これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。
──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!
※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。
※表紙は自作ではありません。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる