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一回目 (過去)

90.狼狽えてもお願いできない奴

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「しかし、王宮より日程の連絡が来ておる。それはつまり⋯⋯」

「領主権限で断っておきながら、今更泣き言を言われるか?」

「それは⋯⋯」

「それ以外にも、我等教会はローザリア様の護衛として付き従っておる。そのローザリア様を蔑ろにした上に教会の精霊師に助けろと大上段から命令を下されて我等が動くと?
ローザリア様のお力はこの領では必要なしと決めたのがあの書状であったはず。
ならば我等は立ち去るのみ」


「申し訳ございません。私の首をもってお許しいただきたく」

 ルベル伯爵の側近が馬を降り土下座して謝った。

「浅慮なことを致したと心よりお詫び申し上げます。教会のお力なくしてはこの領はもう立ち行きません。
どうか、どうかお許しください」

「⋯⋯」

「我が領では水不足で作物が育たず領民は倒れ病も蔓延して⋯⋯」

「ルベル伯爵は腹に良い肉をお持ちのようだ。見たところ栄養は足りておられる。それに水よりも肉の串に気がいっておられるようだしな」

「煩い煩い煩い!! ハズレ聖女なんぞクソの役にも立たんわい。偉そうな教会の力など我が領には不要じゃ!! 知らんようだから教えてやろう。パルフェスでは雨が降ったと報告があったのだ。次は我が領に雨が降る!! 貴様らの助けなど不要じゃ!! 土下座して頼むならやらせてやろうではないか!!」


「ニール!! 領主の言葉、一字一句違わず教会と王家に送りつけろ!
枢機卿権限によりルベル伯爵領から教会の撤退やむなしとな」

「は!!」

「おっ、お待ち下さい。教会がなくなっては我等は終わりです。どうかそれだけは!!」



 伯爵に付き従っていたもの達が皆頭を下げたり伯爵を説得したりしていたがさっさと隊列を整え出発した。

「謝らないでくださいね。ローザリア様には何の問題もありません」

「でも、私に少しでも信用があれば領地の人を助けられたのに⋯⋯」

「あの状況で伯爵を説得し領地を助け納得させる時間を尽くすよりも、心から助けを求める場所へ向かう方が有意義だと思いませんか?」

「⋯⋯それは」

「ローザリア様のお力は無限ですが時間は有限です。必要ないと言い切る人に無駄な時間を使う余裕はこの国にはないのです」

 ナスタリア神父の言葉は理解できた。領主の反対があるままでは解決に時間がかかるだろう。その時間で次の目的地に移動すればより多くの人を救える可能性がある。

「とは言うものの、私も腹が立ったので今日一日を潰してしまいましたが」

「大量の料理をどうするのかと思って吃驚しました」

「残った料理に困ったらアイテムボックスに入れていただくつもりでしたし、煙と匂いで誘い出すにはあのくらい必要だと思いましたので」

「確かに、お肉に誘われてましたね」

 ナザエル枢機卿が持っている肉に釘付けの伯爵に笑いを堪えていた者は多かった。

「本当になんとかしたいと領地のことを考えていればあんな風にはなりません。
途中でローザリア様が飛び込んでこないかハラハラしました」

 ローザリアは途中で何度も口を出そうと思ったが黙っていたのはナスタリア神父やナザエル枢機卿の迫力に負けたから。自分の評判が悪いから門前払いをくらい揉めているのに何を言えば良いのかさえ思いつかなかった。

「勇気がなかっただけです。情けないです」

「それでいいんです。私たちを信頼して任せてくれたんだと喜んでいます」



 次の目的地はルベル伯爵領の西にある酪農の町、ウスベル。ノールケルト子爵領にあるウスベルはかつて鉄鋼業が盛んだった町。現在は畑の他に羊やヤギを飼い羊毛やチーズを作っている。

「ウスベルからノールケルトの他の町も回ることになります」


 3日後についたウスベルの町はまるで誰も住んでいないかのようにひっそりと静まりかえっていた。壊れた柵に囲まれた放牧地には動物の姿がなく草も生えていない。その向こうは鉱山の跡地なのか山肌がごっそりと削り取られたまま放置されていた。

 町中をゆっくりと歩いてみたが店は閉まりドアに木が打ちつけられている。砂埃がうずたかく積もり家の前の花壇には茶色く枯れ果てた草花が。

「誰もいねえ、どうなってんだ?」

「教会に行ってみましょう。何かわかるかもしれません」

 町の入り口に戻り馬車に乗って教会の尖塔を目印に進んでいった。

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