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一回目 (過去)

85.緊張が解けた後に

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「泣き笑いの顔とは中々珍しいものが見れました」

 緊張が解れ嬉し涙を流すローザリアの背中を撫でながらナスタリア神父が揶揄う。よくやった・頑張ったと褒めるよりもただ疲れを癒してあげたい。

 謝るのは得意だが自己主張の苦手なローザリアが木樵の爺さんに命令を下した。その事だけでもどれほど勇気がいったか。

 もう何百年も、広範囲に雨を降らせる事が出来た精霊師など存在していない。失敗したらこの旅が無意味なものになるかもと思うのはどれほどのプレッシャーだったか⋯⋯。


「から、揶揄うなんてひどっひどいです。この雨、ナスタリア神父の雨って。びしょ濡れです。みんな喜んでるけど、せっかく買っていただいたローブがぐちょぐちょして。嬉しいけどぐちょぐちょで⋯⋯精霊王が、『悔しいけどレオンの望む慈愛の雨を降らす』って。だから、ナスタリア神父のせいで」

 成功したのは自分の力だと今でも思えないのもあるのだろうが、ローザリアの話は支離滅々で意味がわからない。

「えーっと悔しいけど雨⋯⋯しかもレオンですか?」

「レオンの愛の証だからとかよく分かんないです。あっ、杖が濡れました! 濡らしちゃうなら使えなんて言わないで欲しかった。宝物なのに」

 ようやく意味がわかったナスタリア神父の顔が真っ赤になった。ナスタリア神父の腕から逃げ出したローザリアは濡れたハンカチでせっせと杖を拭いていた。

 ケラケラ笑う精霊王の顔が思い浮かぶ。雨の中馬を走らせる聖騎士達の背中がひどく喜んで見えた。



 山の上に広がった雨雲は町からもはっきり見えた。

「おい、あれ雨雲じゃないか?」

「まさか」

 パラパラと降りはじめたお天気雨が服に点々と後を残すと町中に歓声が広がった。

「おー!」

「雨だぞー!!」

 店や家から人が飛び出してきた。雲一つない空からポツポツと落ちる雨を手で受け止めた。

「本当に雨を降らして下さったの?」

「だって見ろよ、あれって雨雲だろ!?」

 山の方を向いた町の人たちがごくりと唾を飲み込んだ。

「なあ。あれ、降ってないか?」

「こっちにきてるぞ。雨だ、本当に雨が降る」



 ローザリア達が町にたどり着くと大勢の町の人が出迎えてくれた。

「ありがとうございます。まさか雨が降るなんて」

「これならもう井戸は大丈夫ですよね」

「聖女様、精霊様。本当にありがとうございます!」


 雨と涙で濡れた顔はみんな満面の笑顔だった。所々にできた小さな水溜まりで子供達が遊んでいる。

「せいじょさまー、みずたまりできたー」

「ありがとー」



 町中の宿の亭主が空いている部屋を開放してくれてローザリア達は全員乾いた服に着替えた。

「考えてみれば昨夜だってテントなんかじゃなくても部屋は空いてたんです。それなのに⋯⋯申し訳ありませんでした」

「どうか気にしないで下さい。テントも楽しかったです。焚き火も初めてでワクワクしましたし」

「焚き火が珍しかったなんて流石貴族のお嬢様ですね」

「いや、お嬢様なのにテントや焚き火を楽しめる方が珍しい」

 聖女様、聖女様とあちこちから声がかかりローザリアの聖女呼びが確定してしまったが、ローザリアはみんなに聖女と呼ばれるのは居心地が悪い。

「あの、できれば名前で呼んでもらえた方が嬉しいです。自分が聖女とは思ってませんし、とても居心地が悪いというか落ち着かなくなるので」

「ローザリア様は奥ゆかしいねえ」

「本当に、こんなにちっこい子がすごい力持ってるなんてねえ」

「あの、私、15歳なのであまり小さくはないと思います」

「「「⋯⋯ええーっ!!」」」

(そんなに驚かなくても⋯⋯これから成長期ってレオン様は言ってくれたし!)

 ふんすと握り拳を作っているとナザエル枢機卿が吹き出した。

「まっ、まあ。なっ。これから大きくなる可能性だってないとは限らんしな。ちょっとくらいはな」

 ナザエル枢機卿の慰めに全員が他所を向いた。



 濡れた荷物を撤収し借りた納屋に広げて風を使う精霊師が乾かした。

「魔法って便利ですね」

 呑気なローザリアの台詞に周りの者達がドン引きした。

「ローザリアが言うと笑えるな」

 ナザエル枢機卿が苦笑いを浮かべ周りをキョロキョロと見回した。

「珍しいな。ナスタリア神父がローザリアの近くにおらん」

【照れてるから】

【隠れてる】

「照れてるそうです」

「なんで?」

「さあ?」

 揃って首を傾げた2人の元に食事ができたと声がかかった。



 食堂に行くとナスタリア神父が眉間に皺を寄せて書類を読んでいた。

「なんかあったか?」

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