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一回目 (過去)

77.最も優秀なのは⋯⋯

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「上手いぞ! そう、もっと魔力を弱めて⋯⋯違う違う、弱めすぎだ。それじゃミミズのしょんべ⋯⋯」

 バコッ!!


 ナスタリア神父と買い物に行った翌日から強化訓練がはじまった。座学はナスタリア神父とニールが担当し実技はナザエル枢機卿が張り切って教えてくれている。

 ナザエル枢機卿の実技は暴走することも多いのでニールが監視役を務め、ナスタリア神父の手が空かない時の座学もニールが担っている。




 公爵家は予想通りというかリリアーナが帰宅した途端抗議の手紙を送ってきたが、その直ぐ後にリリアーナを引き連れたウォレスが怒鳴り込んできた。

「貴族令嬢が身の回りの事などできるわけなかろうが!」

「外部から侍女を連れてくることはできない為、本人の必要となる事は自分で行うと契約書に明記してあります」

「食事だって食べられる物じゃなかったのよ。まるで家畜の餌のようで⋯⋯あれは絶対ローザリアの差金だったに違いないわ。
そのせいで空腹のまま寝なくちゃいけなかったの」

 グスグスと鳴き真似をしてウォレスに抱きついたリリアーナだったがナザエル枢機卿とナスタリア神父は無関心で淡々と事実を説明していった。

「食堂で聖職者達が同じものを食べていたのをご覧になられたはずです。態々特別メニューを作る方が手間がかかります」


「部屋にも何もなかったそうだな」

「以前他国の王女殿下がお泊まりになられた部屋を準備致しました。備品はどれもあの部屋で貴人に使って頂いた由緒ある品ばかりでしたし。
ああ、それから花瓶の請求書はこちらですね。リリアーナ様が投げて壊されましたので⋯⋯」

 はらりとテーブルに置かれた請求書を覗き込んだウォレスが目を剥いた。

「なっ、なんだこの金額は!! たかが花瓶ひとつがこの値段だと!?」

「陶器の種類の中で最も歴史が古いアースンウェアの全盛期の作品ですから値が張るのは致し方ないかと。壊れた食器代も請求させて頂きます。
故意に壊した備品の補償についても契約書にあります。熟読の上サインされたのでは?」

 魔法契約書を前にシスター・タニアの報告書を淡々と読み上げるナスタリア神父。


「国中に教会の横暴を知らしめたらどうなるか分かっておるのか!? 貴族に不敬を働いた教会は役立たずを贔屓して、偉大な精霊師を蔑ろにしたと知れば信者どもは何を考えるかのう?」

「その時は契約書の写しとシスターの報告書を全ての教会に張り出しましょう。どちらが正しいか直ぐにご理解頂けると思います」

 ウォレスは黙り込み捨て台詞を残し帰って行った。

「くそっ! 覚えてろ!」


 その後も公爵家は手を替え品を替え教会に手紙や使者を送ってくるが『教会の規律に従えるならば』受け入れると返事を返している。




 深夜のナザエル枢機卿の執務室でブランデーを片手に密談するふたり⋯⋯。

「しつこすぎると思わんか?」

「恐らくは敵情視察でしょう。教会に入り込みローザリア様の実力を調査したい。あわよくば邪魔をしたいと言ったところでしょう」

「お前を気に入ってるみたいだったが?」

「公爵家は王家との婚姻を望んでいるのが分かっていてあのレベルの色仕掛けに引っかかる者はいないでしょう。教会をローザリア様から引き離すとか、ブラフに使えるとかすればラッキーと言うところでしょうね。
それを狙うならもう少し役者を選ぶべきですが」

「色仕掛けねえ⋯⋯それだけなら良いが。あの2人は愚か者だがカサンドラは要注意だ、背後の王弟妃がヤバいからな。注意しろよ」



 ウォレスとリリアーナは間違いなく外戚と王妃狙いだが、今の所カサンドラは王弟妃の駒のひとりだろう。

 王弟の娘と言う看板を背負っているカサンドラにとって娘が王家に嫁ぐ事にそれほど魅力を感じる理由がない。ローザリアが自分より上の立場になる事は許さないだろうが、リリアーナが王妃になり外戚の立場を得たところでカサンドラにはそれ程大きなメリットはないはず。


 精霊王の話からすると最もジンに近いのは王弟妃。

 彼女はジンの望みのままに動くだけの傀儡なのか、己の欲望も叶えようと狙う野心家なのか⋯⋯。カサンドラの動きで王弟妃の狙いが見えてくるのかもしれない。




「そう言えば公爵家に持ち込んだ荷物は回収せんのか?」

「しませんよ。屋敷の中にローザリア様の為だけに用意された物が置いてあり、壊せば教会に弁償しなくてはならないので手を出せない⋯⋯ものすごくイラつくと思いませんか?」

「その為に運んだのかよ。タチが悪いが⋯⋯最高だな」

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