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一回目 (過去)

75.ナナカマドの杖とサファイアの青

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「これはユニコーンの毛です。女性の精霊師の方は大概ユニコーンの毛を選ばれますから」

「不死鳥の尾羽のはないかな?」

「あります。不死鳥の尾羽を芯に使ったものはあまり人気がないので⋯⋯えっと、どこかな?⋯⋯ああ、これだ。これですね」

 ユニコーンの毛は杖に安定性をもたらし、不死鳥の尾羽は汎用性を強くする。

 一種類の加護しか持たないこの国の精霊師達は安定を求めてユニコーンの毛にするか、強さを求めてドラゴンの心臓の琴線を選ぶ。不死鳥の尾羽を選ぶ精霊師はほぼいない。


 店主に渡された杖をついうっかり受け取ってしまったローザリアはホワッと微笑んだ。

「持ちやすくて⋯⋯こう、なんだろう。杖を持つと集中しやすい? そんな気がします。この穴に魔石を入れるんですか?」

「そうです。属性持ちの魔石をお持ち頂いて加工してはめ込みます」


「ではこれを「買いませんよ! 今日は見るだけの約束ですからね」」

「そうだった、忘れてた」

 ナスタリア神父が店主にチラリと目配せすると、小さく頷いた店主が杖をそっと脇によけた。後ろ手にナスタリア神父がカウンターに置いたのは大粒のサファイアだった。

 宝石を置いたコトリという音が聞こえたローザリアは不審げな顔で片眉を上げてナスタリア神父を見上げた。

「では、次に行こうか。店主、


 ローザリアの背中を押し店を出たナスタリア神父はキョロキョロと辺りを見回した。

「どうしたんですか?」

「いや、誰かに見られていたような⋯⋯気のせいかな。次は古着屋に行こう」



 古着屋でローザリアはガックリと肩を落とした。普段着であれば問題なく着れるが、ナザエル枢機卿達に護衛をして貰い領地巡りをする時に着るのには使えない。

「少しだけ精霊師っぽく見えるのとかないでしょうか? そう、あの。アレです! ローブ? みたいなのを探しています」

「精霊師の方々のローブならこの先の広場の正面に店がありますよ。あそこなら値段もサイズも色々揃ってますから行ってみられてはいかがですか?」

「ありがとうございます。そっちに行ってみますね」


「中等科に入学なさるんですか? おめでとうございます。学園生の方に流行ってるローブもありますから聞いてみるといいですよ」

 純粋な気持ちでお祝いの言葉を口にしてくれた店員さんに違うとは言いづらく、ペコリと頭を下げて店を出た。

「ローザリア様はこれから成長期がくるかも」

 中等科入学の12歳より下に見られたショックで落ち込んでいる事に気付かれたらしい。

「⋯⋯それ、本気で思ってます?」

「あー、ちっこいのもほら。可愛いし。あれです、ナザエル枢機卿なんてサイズだけで凶悪だし」

「ナスタリア神父、もう大丈夫です。なんだか傷が深くなってくような気がします⋯⋯」

「すみません」

(そう言えば杖を見せてもらってる時も子供の見学扱いっぽかったなあ)



 落ち込んだローザリアと慰め損ねたナスタリア神父は、古着屋の店員に教えてもらった店の近くにあったカフェで一休みすることにした。

「わあ、チョコレートのケーキ⋯⋯焦茶色で艶々ですね!」

 美味しそうなケーキを前にすっかり元気になったローザリアは初めてのコーヒーを飲んで口元をひくひくさせた。

「こっ、コーヒーは⋯⋯かなりその、珍しい味ですね」

「ターキッシュ・コーヒーはミルクをたっぷり入れると美味しく飲めるんだ」

 ナスタリア神父が笑いを堪えながら真っ黒だったコーヒーが薄茶色になるほど大量にミルクを入れてくれた。

「あっ、ほんと。美味しいです」

「こっちはセルニクと言うチーズケーキの一種で、白チーズとカスタードクリームを混ぜた生地をパイ生地で挟んで焼き上げてあるんだ」

 ナスタリア神父がナイフを使い綺麗に切り分けたセルニクをチョコレートケーキの横に置いてくれたので、ローザリアもチョコレートケーキを切り分けてセルニクの横に置いた。

「ごめんなさい。綺麗に切れなくて」

 ローザリアが慣れない手つきで切ったチョコレートケーキは潰れていてかなり悲惨な状態になった。

(ゆっくり丁寧に頑張ったんだけど⋯⋯ナイフって難しい)

「大丈夫。うん、美味しいよ」

 優しいナスタリア神父に感謝⋯⋯。



 幸せそうにケーキを食べるローザリアの顔はこの数日でかなり血色が良くなった。

(夜の差し入れはなんにしよう)

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