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一回目 (過去)
71.リリアーナ、抗議する
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引っ張り出したのはシンプルなローブ。シスター・タニアが着ていたものと似ている。
「ドレスもアクセサリーもない⋯⋯靴が一足。こんな地味なの履けるわけないじゃない!」
ドレッサーにはブラシが一本あるだけで化粧品もない。
「ナスタリア神父は男性だから分かってないのね。後で教えてあげなくちゃ」
教会での待遇を抗議しようとドアを開けたリリアーナは護衛に止められた。
「どうされましたか?」
「ナスタリア神父の⋯⋯いえ、ナザエル枢機卿のところへ案内しなさい!」
「出来ません。お部屋にお戻り下さい」
「だったらお茶を持ってきて」
「私は護衛ですので部屋には入れません。ご自分でどうぞ」
「タニアは何をしてるの!? お茶菓子を持ってこさせて」
「教会ではこのような時間に間食は致しません」
何を言っても話にならず諦めてソファに座り込んだが、やることがないリリアーナはシスター・タニアが来るまでイライラと爪を噛んでいた。
「お待たせいたしました。お食事の準備が整いましたのでお持ちしました」
「こんなところで食べろって言うの!? ナザエル枢機卿は? ナスタリア神父は?」
「食堂で皆と一緒に召し上がられるのかもしれません」
「なら、私もそこに行くわ。文句ばかり言ってないでさっさと案内しなさい!」
シスター・タニアに連れてこられた食堂には既に聖職者が数名席についていた。奥のテーブルに案内されナザエル枢機卿達を待つリリアーナは「さっさと呼んできて」とシスター・タニアを追い払った。
膝に手を置き上品な仕草で周りを見回したリリアーナは助祭らしき若者と目が合った。にっこりと可愛らしく微笑むリリアーナを見て助祭達が顔を赤らめた。
「お待たせしましたか?」
「ナスタリア神父、寂しかったですわ」
「食事に致しましょう」
「ナザエル枢機卿は待たなくて良いのですか?」
「枢機卿はいつも部屋で食事されます」
2人分の食事が運ばれてきたがテーブルに並んだ料理を見てリリアーナが顔を顰めた。
「これ、人の食べるものではないわ。揶揄わないでちゃんとした料理を出して下さいな」
静謐を旨とする教会なので小さな音もよく響くと気付いていなかったリリアーナの声が静かな食堂に広がった。
「「⋯⋯」」
「我々のいつもの食事ですが、何か問題でも?」
白いパンとチーズ。ヒヨコ豆と野菜のスープとほうれん草を添えた豚肉のロースト。デザートにアーモンドクリームを詰めたダリオール。
「豆とか野菜なんて平民の食べ物よ。せめてローストなら鴨とか鹿とか⋯⋯豚なんて臭くって食べられるわけないじゃない」
「シスター・タニア。リリアーナ様をお部屋にお連れして下さい。これを食べている我々に対しこれ以上不快な言葉はお聞きしたくありませんのでお部屋にお戻り下さい」
「いいわ! こんなもの食べさせられるなんて真平ごめんだわ。もっと真面な食事を持ってきて!」
ドレスの裾を翻しリリアーナが部屋に戻っていった。
顔を見合わせて眉を顰めている助祭達に、不快な思いをさせたことを詫びてナスタリア神父も席を立った。
夜遅くにシスター・タニアがナスタリア神父の執務室に報告にやってきた。
「お疲れ様でした」
「ええ、あれほどとは思いませんでした。最初くらいは大人しいかと思っていましたがとんでもなかったですね」
部屋に戻ってからリリアーナはシスター・タニアに対し罵詈雑言の嵐だったと言う。
「真面な食事を持ってこいからはじまってお茶を淹れろ、お風呂に湯を張れ身体を洗えと。髪をひとりで梳かすこともしませんし。
したことがないのは承知していましたが、やる気もないのに教会に泊まろうと思うなんて呆れてしまいます。
ナスタリア神父は気が利かないのでドレスや必要なもの一式を直ぐに準備しろと騒いでいました」
「気が利いたと思ったのですが」
ナスタリア神父が準備したのはローザリアが公爵家で持っていた物に比べれば随分と種類が多い。ランプや石鹸、お茶のセットと着替えのローブなど。
「もう少しで花瓶を投げつけられるところでした」
「おや、あの方でも我慢することもあるのですね」
「私も驚きました」
「明日の朝も頼んでも?」
「はい、他の人に頼むのは頼まれた人が可哀想ですから」
「では、いつもの時間に声をかけてあげて下さい。その時朝食も置いておけば癇癪に遭遇する回数が一回減ります」
「はい、そう致します」
夜のうちに公爵家の馬車を呼べと騒いでリリアーナは公爵家に帰ると言うのがナザエル枢機卿の予想。
(さて、リリアーナ様は朝をどこで迎えるか楽しみですね)
「ドレスもアクセサリーもない⋯⋯靴が一足。こんな地味なの履けるわけないじゃない!」
ドレッサーにはブラシが一本あるだけで化粧品もない。
「ナスタリア神父は男性だから分かってないのね。後で教えてあげなくちゃ」
教会での待遇を抗議しようとドアを開けたリリアーナは護衛に止められた。
「どうされましたか?」
「ナスタリア神父の⋯⋯いえ、ナザエル枢機卿のところへ案内しなさい!」
「出来ません。お部屋にお戻り下さい」
「だったらお茶を持ってきて」
「私は護衛ですので部屋には入れません。ご自分でどうぞ」
「タニアは何をしてるの!? お茶菓子を持ってこさせて」
「教会ではこのような時間に間食は致しません」
何を言っても話にならず諦めてソファに座り込んだが、やることがないリリアーナはシスター・タニアが来るまでイライラと爪を噛んでいた。
「お待たせいたしました。お食事の準備が整いましたのでお持ちしました」
「こんなところで食べろって言うの!? ナザエル枢機卿は? ナスタリア神父は?」
「食堂で皆と一緒に召し上がられるのかもしれません」
「なら、私もそこに行くわ。文句ばかり言ってないでさっさと案内しなさい!」
シスター・タニアに連れてこられた食堂には既に聖職者が数名席についていた。奥のテーブルに案内されナザエル枢機卿達を待つリリアーナは「さっさと呼んできて」とシスター・タニアを追い払った。
膝に手を置き上品な仕草で周りを見回したリリアーナは助祭らしき若者と目が合った。にっこりと可愛らしく微笑むリリアーナを見て助祭達が顔を赤らめた。
「お待たせしましたか?」
「ナスタリア神父、寂しかったですわ」
「食事に致しましょう」
「ナザエル枢機卿は待たなくて良いのですか?」
「枢機卿はいつも部屋で食事されます」
2人分の食事が運ばれてきたがテーブルに並んだ料理を見てリリアーナが顔を顰めた。
「これ、人の食べるものではないわ。揶揄わないでちゃんとした料理を出して下さいな」
静謐を旨とする教会なので小さな音もよく響くと気付いていなかったリリアーナの声が静かな食堂に広がった。
「「⋯⋯」」
「我々のいつもの食事ですが、何か問題でも?」
白いパンとチーズ。ヒヨコ豆と野菜のスープとほうれん草を添えた豚肉のロースト。デザートにアーモンドクリームを詰めたダリオール。
「豆とか野菜なんて平民の食べ物よ。せめてローストなら鴨とか鹿とか⋯⋯豚なんて臭くって食べられるわけないじゃない」
「シスター・タニア。リリアーナ様をお部屋にお連れして下さい。これを食べている我々に対しこれ以上不快な言葉はお聞きしたくありませんのでお部屋にお戻り下さい」
「いいわ! こんなもの食べさせられるなんて真平ごめんだわ。もっと真面な食事を持ってきて!」
ドレスの裾を翻しリリアーナが部屋に戻っていった。
顔を見合わせて眉を顰めている助祭達に、不快な思いをさせたことを詫びてナスタリア神父も席を立った。
夜遅くにシスター・タニアがナスタリア神父の執務室に報告にやってきた。
「お疲れ様でした」
「ええ、あれほどとは思いませんでした。最初くらいは大人しいかと思っていましたがとんでもなかったですね」
部屋に戻ってからリリアーナはシスター・タニアに対し罵詈雑言の嵐だったと言う。
「真面な食事を持ってこいからはじまってお茶を淹れろ、お風呂に湯を張れ身体を洗えと。髪をひとりで梳かすこともしませんし。
したことがないのは承知していましたが、やる気もないのに教会に泊まろうと思うなんて呆れてしまいます。
ナスタリア神父は気が利かないのでドレスや必要なもの一式を直ぐに準備しろと騒いでいました」
「気が利いたと思ったのですが」
ナスタリア神父が準備したのはローザリアが公爵家で持っていた物に比べれば随分と種類が多い。ランプや石鹸、お茶のセットと着替えのローブなど。
「もう少しで花瓶を投げつけられるところでした」
「おや、あの方でも我慢することもあるのですね」
「私も驚きました」
「明日の朝も頼んでも?」
「はい、他の人に頼むのは頼まれた人が可哀想ですから」
「では、いつもの時間に声をかけてあげて下さい。その時朝食も置いておけば癇癪に遭遇する回数が一回減ります」
「はい、そう致します」
夜のうちに公爵家の馬車を呼べと騒いでリリアーナは公爵家に帰ると言うのがナザエル枢機卿の予想。
(さて、リリアーナ様は朝をどこで迎えるか楽しみですね)
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