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一回目 (過去)

53.タイラーの告発

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「オーレアンに参加した学園生が証人です! 彼等はその場にいて何があったのか全て見ています。私の弟が本人達から聞いたのですから間違いありません」

 タイラーが弟から初めてローザリアの噂を聞いたのは1週間くらい前のこと。

『オーレアンで精霊の力を見せたのはリリアーナ様の姉だって言われてたんだけど嘘だったって』

『えっ? それは本当なのか?』

『オーレアンに派遣された生徒全員が言ってるから間違いないよ。リリアーナ様の姉なんて学園生でもないし、やっぱりなって感じだよ。おかしいと思ってたんだ。聖職者になったわけでもないのに学園に通えないって事は加護がないか弱すぎるって事だよね?』

 オーレアンに派遣された学園生達は2週間の休みを与えられ登校してきたのだが、クラスで本当の功労者はリリアーナだと口を揃えて言った。
 それからというもの、オーレアンへの遠征まで話題にのぼったことすらなかったリリアーナの姉の話が学園や市井で有名になったと言う。

『昨日エバンス商会に買い物に行った友達から聞いたんだけど、ローザリア様の我儘には今まで散々苦労してたって店員が愚痴をこぼしたって』

 扱っていない商品を取り寄せろと言ったり、入手困難な商品を直ぐに手に入れろと言ったり。明らかに無茶な使い方をしておいて壊れたから返品・交換しろと言う。


『店も服飾ギルドも輸入が禁止されてるレースやビロードを手に入れろとか王家にしか許されていない金銀刺繍や縁飾りをしろとか。無理だって言ったギルド長をクビにしろって言った事もあったって。
トーマック公爵家が横暴なんじゃなくて実は我儘だったんだって』

 数年前、王家は国の財政を守るためと称し幾つかの贅沢な織物や装飾品の輸入を禁止したが、他国から取り寄せた最新ファッションの版画を載せたファッション誌を持ち込みこのドレスを作れできないなら店を潰すと脅してくる。
 華美な刺繍や金銀織物の禁止令が発令されても意にも介さず注文をしてくるので服飾ギルドは頭を抱えていた。

 華やかなプリントの木綿布「アンディエンヌ」が他国で流行ると直ぐに取り寄せろと連絡が来て納期を伝えると遅すぎると騒ぎ立てた。

 アンゴラヤギやヒツジやラクダの毛とシルクを交織したキャムレットやシルクと羊毛を交織した綾織のボンバジン、服の裏地に使う薄いシルクのカルテックなどはこの国では手に入らないと言っても理解しない。

 公爵家から使用人がやって来ると売り子が逃げ出すとまで言われるほどの横暴ぶりは有名だった。

 
『リリアーナ様は以前から王太子殿下と仲が良くてさ。ローザリア様ご自身は学園に通えなくて王太子殿下とお会いする機会がないからオーレアンのそれを利用したらしいよ』

 現在中等科2年のリリアーナは高等科1年の王太子殿下と一緒に昼食をとったり放課後を一緒に仲良く過ごしていたが、オーレアンの後からは泣いているリリアーナを慰める王太子殿下の姿があちこちで見かけられている。

『リリアーナ様が包帯を巻いているのに初めて気付かれた時の王太子殿下は酷く立腹されて、側近候補の方々が止めきれなくて教師達まで出てきてた』


「弟だけでなく弟の友人からも直接話を聞いていますし、市井でも話を聞いてきました。だから間違いありません」

「調べるのはお止めなさい。タイラー君だけでなく他のみんなも、詮索は禁止します。
今言えるのはそれだけですが、私を信じられる人は従ってくれるでしょう。
期待を裏切られないことを願っています」



 不満げなタイラーや聞き耳を立てていた者達を一瞥いちべつしたナスタリア神父は向きを変えローザリアと共に図書室を出た。

「公爵家は予想以上に頑張って悪評を広げているようですね。あれでは落ち着いて本を読む事もできません」

 渡り廊下を逆戻りして階段を登りナスタリア神父は自身の執務室にローザリアを案内した。

「部屋のドアを少し開けておきましょう。不快な思いをさせてしまいました」

「いえ、こちらこそ申し訳ありません。ただ、その⋯⋯」

 タイラーの話が気にかかり口籠もったローザリアにナスタリア神父がお茶の準備をしながら声をかけた。

「気にかかっていることがあるようですね」

「はい」

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