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一回目 (過去)

40.森の池にて

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 木々に囲まれた小道を抜けるとローザリアの予想に反した大きな池が現れた。旱魃に苦しんでいる国の中とは思えない満々と水を湛えた大きな池は湖と言った方が相応しい。
 水面はキラキラと輝き水底まで見えるほど透き通った水に小さな魚が泳いでいるのが見え、少し黒っぽい魚影にナスタリア神父が呟いた。

「チャブかな? アレは小さいうちは簡単に釣れるんですが大きくなると用心深くなってなかなか釣れないんです」


 池の淵に沿って歩くと水草の生えた場所に出た。

「この池は年に数回解放されるのですが大人は魚釣りで子供達はザリガニ釣りをして盛り上がります。さっきの広場で石を組んで火をおこして肉を焼いたり持ち寄った料理を楽しんだりお祭り騒ぎのようです」

「こんなに静かだと想像がつきませんね」

「でしょう? 次は参加してみませんか? 結構楽しいと思います」

「機会があれば」

 釣りとはなんだろうと疑問に思ったがローザリアは口にしなかった。石を組んで肉を焼くのはどうやるのか⋯⋯知らない事がいっぱいで、以前なら寂しい思いをしただろうが今はいつか見てみたいと思えるようになった。それだけでも自分は今幸せだと思う。

 水面にキラキラと光の玉が現れた。大きくてふわふわと飛んでいるものや小さくて水面スレスレを漂うもの、チカチカしてしているものもいる。
 色も様々ではっきりしたものからうっすらとぼやけているもの。

「こんにちは、初めまして?」

【こんにちはだよ】

【見えた? 見えてる?】

「ええ、はっきりと見えてる。お友達がたくさんいるのね」

【いつでもどこにでもいるよ】

【ここは大好き】

【嫌な場所には行かないの】

「嫌な場所って?」

 突然池に向かって話しはじめたローザリアの横でナスタリア神父が目を輝かせた。ローザリアには返事をしてくれた精霊が大きく動いたり急に近づいたりするのが見えている。

【うーん、モヤモヤのあるとこ】

【可哀想なのが埋まってるとこかな】

【精霊をバカにする人のとこも】

「可哀想が埋まってる?」

【そう、可哀想な子】

「それって⋯⋯どこなのかわかる?」

【わかるよ】

【行かないけど】

「あっあの、何故可哀想なのか知ってる?」

【悪い奴に殺されちゃったんだよねー】

「そんな⋯⋯なんでそんなことが」

【加護がなかったの】

【そう、仕方ないのにねぇ】

 嬉しそうに話していたローザリアの顔がどんどん青ざめていった。ナスタリア神父はストップをかけるタイミングを見計らいながらローザリアの言葉を聞いていた。

「酷い」

【だよね。酷い人がいっぱい、あっちにもこっちにも】

【助けてあげて】

「ええ、必ず。また話を聞かせてくれる?」

【いつもそばにいるよ】

【よーく見てみてね】


「ナスタリア神父⋯⋯あの、お話があります」

「顔が真っ青です。一旦広場に戻りましょう」

 ナスタリア神父は池に向かって頭を下げた後ローザリアを抱き上げた。ローザリアは今にも倒れそうで凸凹のある道を歩かせられない。

 早足でサクサクと草を踏み締めて歩くナスタリア神父は眉間に皺を寄せてここに来たことを後悔していた。

(ここに来るのは早すぎた。もっと早く止めるべきだったのに精霊の話を知りたくて欲をかいた⋯⋯くそっ!)


 広場ではナザエル枢機卿達が敷物を広げ石を組んで早めの昼食の準備をしていた。

「おい、何があった!?」

 ナスタリア神父に抱えられているローザリアを見たナザエル枢機卿が走り寄ってきてローザリアの額に手を当てた。

「冷え切ってる。日も照ってるってのに。お前がついてて何やってんだ!! このうすらボケナス!!」

「毛布を」

 護衛の1人が予備の毛布を取りに馬車に向けて走り、別の護衛2人が慌てて敷物の上の物を退けて場所を広げた。ローザリアを寝かせ足を高くして毛布を上からかけた。

「貧血でしょうか? ローザリア様は昨日の夜も今朝も何も召し上がっておられません」

「馬鹿野郎! なんで先に言わねえんだよ!!」

「申し訳ありません」

「くそっ! ジャスパーがマヌケだって忘れてたぜ。ローザリアは我慢するのが普通になってるってのも忘れてた。誰か湯を沸かせ! レオンナスタリア神父、薬は持ってるか!?」

「俺の鞄が馬車の座席の下にある。小さい方のやつ」

「取ってきます!!」

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