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一回目 (過去)

34.安堵する監視人達

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「ジャスパー、後は頼んだぞ」

「は。身命を賭してお守りいたします」

「うむ、では帰るとするか」

 足を揃え右手を左胸に2回トントンと当て騎士の誓いをしたジャスパーを残してナザエル枢機卿達が歩き出し、ジャスパーはローザリアの斜め後ろに立った。

「どういうことですの? 何故その護衛が残っているのかしら?」

「ああ、申し遅れました。その者は教会付きの治療師です。護衛としても優秀ですがローザリア様は今日、少しお疲れになられたのではないかと思いましたのでいざという時のために残して参ります」

「必要ありません。治療師が必要になれば公爵家で手配致します」

「私の確認不足でしょうか? 王宮精霊師団の治療師や教会の治療師がローザリア様の治療を行った記録が見つからないのです。
なのでお加減が悪くなるのか不明でして。念の為⋯⋯ですね。では今度こそ本当に失礼致します」

 ジャスパーは地の加護を持っておりナスタリア神父の言うような治療はできない。疑問に思いはしたものの護衛を任された事に変わりはないと無言を貫いた。


 玄関まで見送りについてきたローザリアの頭を撫でたナザエル枢機卿がニヤリと笑った。

「ローザリア、明日楽しみにしてるからな。新しい菓子をどっさり準備しておいてやる。甘いのと辛いのはどっちが好きだ?」

「ありがとうございます。多分甘い方が好きだと思いますけどお構いなく。もう十分よくして頂きましたから」

「えー、まだまだ甘やかし足りんのだが?」

「私もです。明日の食事は楽しみにしていて下さい。精霊が行った花畑もいずれご案内します」

 にこやかに手を振りながらナザエル枢機卿達が帰って行った。




 二階へ上がる階段の近くまで行くとカサンドラのヒステリックな声が聞こえてきた。

「全く、教会はなんて勝手なのかしら」

「全て教会が責任を持ってくれるなら良いではありませんか。
それよりも明日の陛下への謁見について話をまとめた方が良いかと」

「そうだな、応接室に行くとしよう。美味いブランデーで気分直しでもするか」

 ゾロゾロと応接室に移動していく人達の後から使用人達が料理の乗ったカートを押してついて行く。

(随分と準備がいいけど、料理をカートに乗せて待機していたのかな)



 ローザリアはジャスパーと共に2階奥にある部屋に戻った。ローザリアがドアのノブに手をかけた時ジャスパーがローザリアに声をかけた。

「お待ち下さい。先に部屋の中を確認させて頂けますか? 鍵は? ないって⋯⋯であればますます安全確認させて下さい」

「えーっと、物もあまりありませんし隠れる場所もないというか。間違いなく大丈夫だとは思いますがそれでも必要なら、その⋯⋯お願いします」

 気合の入った顔で大きく頷いたジャスパーがそっとドアを開けて様子を伺い部屋に滑り込んだ。明かりのない部屋は真っ暗なはずだと心配していると予想通りあっという間にジャスパーが出てきた。手元に小さな火を灯している。

「大丈夫でした。あまりに狭すぎて直ぐに確認できました。あっ、いや、その申し訳ありません」

「ありがとう、本当の事だから気にしないで下さい。それよりも⋯⋯多分、間違いなく食事は運ばれてこないと思うんだけど大丈夫ですか?」

「はい、問題ありません。ローザリア様が食堂に行かれる時はお供します」

「あー、それは大丈夫です。もう部屋からは出ないと思いますし。お手洗いはそのドアのとこです⋯⋯何か用事があればいつでも声をかけて下さいね」

「はい!」

 食堂に行かないというのであればローザリアの食事は部屋に運ばれてくるのだろうと思ったが、どこに皿を置くんだろうかと首を傾げたジャスパーだった。

 従者の部屋よりは広く衣装部屋よりも狭い部屋には粗末な藁敷きのベットと小さなテーブルと傾いた椅子。小さな窓にはカーテンさえかかっていなかった。

 護衛に着く前に簡単な説明は受けていたが想像以上に酷い。

(そう言えば部屋にランプや蝋燭もなかったな。ローザリア様は水の加護⋯⋯ライトの魔法は使えないはず)

 魔道具で小さな火を灯していたジャスパーはドアをノックして聞いてみるべきか悩んでいた。

 深夜、ローザリアに夕食は届かないのだと気づいたジャスパーは憤怒の形相で立ち尽くしていた。

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