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一回目 (過去)
24.パンです! 白パンです
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ノックの後、開いたドアから美味しそうな匂いと共にナスタリア神父が入ってきた。神父が押すカートにはいくつもの皿に乗せられた料理の山が⋯⋯。
長時間付き合わせてしまったことを謝らなくてはいけないと思っていたローザリアは目を丸くした。
「ローザリア様、お腹は空いていませんか? と言うよりお腹に優しい料理を準備しましたので少し召し上がっていただけますか?」
「ありがとうございます。お話を聞いてくださるのが嬉しすぎて長い時間ご迷惑をおかけしました。早く帰らなくてはあの人達がイライラしていると思うんです」
魅力的な匂いにお腹が鳴りそうだが早く帰らなくてはお仕置きが酷くなると焦るローザリアの前で、ナスタリア神父はカートをテーブルの近くに寄せた。
「夕食の時間までにはお送りすると言ってあるのでまだ大丈夫ですよ。その時に私も同行させていただいてしっかりと釘を刺すつもりですし」
明らかに悪巧みの計画は立っていると言わんばかりの悪辣な顔で笑いながら、次々と料理を並べていくナスタリア神父はとても嬉しそうに見えた。ローザリアが食べたことのない料理が並んでいく。
(美味しそう⋯⋯あっ、白いパン!)
「さあ、いただきましょう。聖布についての説明も少し必要ですし、今後の事もご相談させて頂きたいと思っています⋯⋯その間に聖布の準備も終わるでしょう」
憧れの白いパンを横目にチラチラと見ながらスープを側に引き寄せた。ローザリアがいつも食べているのは少し酸味のある黒パンで、硬くなっていたりカビが生えたりしたものばかり。白いのはなかったのと言いながら精霊が持ってきてくれたパンも硬くはないが黒パンばかりだった。
ローザリアの様子に気付いたのかナスタリア神父がパンを勧めてくれる。
「このパン、挽き立ての小麦を使っているそうです。香りが良いので是非召し上がって下さいね」
恐る恐る手を伸ばすローザリアの指先が少し震えているのに気付いたナスタリア神父は切なそうな顔で視線を逸らした。
この国は精霊のお陰で他国より恵まれている為、裕福な貴族だけでなく平民でも白パンが食卓に上る家は多い。清貧を尊ぶ教会の暮らしでも白パンなど当たり前に出てくるし黒パンなどほとんど食べたことがない。
トーマック公爵家では家族と上級使用人達は白パンを食べ下級使用人はライ麦で作る黒パンを食べると決められていると言う。ナスタリア神父の手元の調査書にはローザリアは下級使用人の残した古くなった黒パンしか食べさせないと書かれており、残り物がなければ食事そのものもなくなる。
「わあ⋯⋯ふわふわで匂いも⋯⋯凄く美味しいです」
にっこり笑うローザリアにあれもこれも食べさせたいが病み上がりの胃には難しいだろう。せめて帰る時には保存の効くパンや果物などを持たせようと心に決めたナスタリア神父だった。
ローザリアの食事やペースが遅くなった頃合いを見てナスタリア神父が話しはじめた。
「ローザリア様のお話をお聞きするまでは加護が弱まってきているのではないかと言う推測でしかなかったのですが、やはり間違いないようですね。
それ以外にも数百年前から加護を戴ける人の数は確実に減ってきています。
これは公にはされていませんが、一番加護を強く受けているはずの王家に最後の加護持ちの方が生まれたのは数百年前です。しかもその方の紋章はとても小さく、微精霊と呼ばれる力の弱い精霊を呼ぶのが精一杯だったと思われます。
王家なんてその時最も強い加護を持つ者の血を必ず取り込んできたのにです。かつては強い加護を持ってお産まれになられた方ばかりだった事を考えるとこれは異常事態です。
精霊信仰を国教に決められたのは精霊王へのご機嫌取りだったのではないかと言われています」
「そんな前から減っていたなんて」
「国が栄えていれば人は増えていきます。それなら加護持ちの人は益々増えるはずなのにそうならない事を誰も気にしていません。
王太子殿下に限らず王子や王女の婚約者が決まっていないのは王家が望むほどの力を持つ者がいないかったからなのです」
「⋯⋯だから私を王太子の婚約者に」
「ローザリア様の聖布ですが紋章の大きさが違っていたのに気付かれましたか?」
長時間付き合わせてしまったことを謝らなくてはいけないと思っていたローザリアは目を丸くした。
「ローザリア様、お腹は空いていませんか? と言うよりお腹に優しい料理を準備しましたので少し召し上がっていただけますか?」
「ありがとうございます。お話を聞いてくださるのが嬉しすぎて長い時間ご迷惑をおかけしました。早く帰らなくてはあの人達がイライラしていると思うんです」
魅力的な匂いにお腹が鳴りそうだが早く帰らなくてはお仕置きが酷くなると焦るローザリアの前で、ナスタリア神父はカートをテーブルの近くに寄せた。
「夕食の時間までにはお送りすると言ってあるのでまだ大丈夫ですよ。その時に私も同行させていただいてしっかりと釘を刺すつもりですし」
明らかに悪巧みの計画は立っていると言わんばかりの悪辣な顔で笑いながら、次々と料理を並べていくナスタリア神父はとても嬉しそうに見えた。ローザリアが食べたことのない料理が並んでいく。
(美味しそう⋯⋯あっ、白いパン!)
「さあ、いただきましょう。聖布についての説明も少し必要ですし、今後の事もご相談させて頂きたいと思っています⋯⋯その間に聖布の準備も終わるでしょう」
憧れの白いパンを横目にチラチラと見ながらスープを側に引き寄せた。ローザリアがいつも食べているのは少し酸味のある黒パンで、硬くなっていたりカビが生えたりしたものばかり。白いのはなかったのと言いながら精霊が持ってきてくれたパンも硬くはないが黒パンばかりだった。
ローザリアの様子に気付いたのかナスタリア神父がパンを勧めてくれる。
「このパン、挽き立ての小麦を使っているそうです。香りが良いので是非召し上がって下さいね」
恐る恐る手を伸ばすローザリアの指先が少し震えているのに気付いたナスタリア神父は切なそうな顔で視線を逸らした。
この国は精霊のお陰で他国より恵まれている為、裕福な貴族だけでなく平民でも白パンが食卓に上る家は多い。清貧を尊ぶ教会の暮らしでも白パンなど当たり前に出てくるし黒パンなどほとんど食べたことがない。
トーマック公爵家では家族と上級使用人達は白パンを食べ下級使用人はライ麦で作る黒パンを食べると決められていると言う。ナスタリア神父の手元の調査書にはローザリアは下級使用人の残した古くなった黒パンしか食べさせないと書かれており、残り物がなければ食事そのものもなくなる。
「わあ⋯⋯ふわふわで匂いも⋯⋯凄く美味しいです」
にっこり笑うローザリアにあれもこれも食べさせたいが病み上がりの胃には難しいだろう。せめて帰る時には保存の効くパンや果物などを持たせようと心に決めたナスタリア神父だった。
ローザリアの食事やペースが遅くなった頃合いを見てナスタリア神父が話しはじめた。
「ローザリア様のお話をお聞きするまでは加護が弱まってきているのではないかと言う推測でしかなかったのですが、やはり間違いないようですね。
それ以外にも数百年前から加護を戴ける人の数は確実に減ってきています。
これは公にはされていませんが、一番加護を強く受けているはずの王家に最後の加護持ちの方が生まれたのは数百年前です。しかもその方の紋章はとても小さく、微精霊と呼ばれる力の弱い精霊を呼ぶのが精一杯だったと思われます。
王家なんてその時最も強い加護を持つ者の血を必ず取り込んできたのにです。かつては強い加護を持ってお産まれになられた方ばかりだった事を考えるとこれは異常事態です。
精霊信仰を国教に決められたのは精霊王へのご機嫌取りだったのではないかと言われています」
「そんな前から減っていたなんて」
「国が栄えていれば人は増えていきます。それなら加護持ちの人は益々増えるはずなのにそうならない事を誰も気にしていません。
王太子殿下に限らず王子や王女の婚約者が決まっていないのは王家が望むほどの力を持つ者がいないかったからなのです」
「⋯⋯だから私を王太子の婚約者に」
「ローザリア様の聖布ですが紋章の大きさが違っていたのに気付かれましたか?」
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