22 / 191
一回目 (過去)
22.いざ出陣?
しおりを挟む
《我が国は精霊王との盟約により永遠の平和を約束された選ばれし者達である。精霊はその力を万民の為に行使し災害や疫病から我々を護る。
加護を持つ者は国の為万民の為に精霊の力を行使する役目を持つ》
精霊教会はその文言に異議を唱えたが今よりも弱い力しか持たなかった為、軍の力で押さえつけられてしまったと言う。
「誤解を招く表現だと当時の教皇が抗議し続けた記録が残っていますが、徐々に精霊は使役するものだと言う考えが浸透してしまったのです」
単一教会になり王家と同等の力を持った今でも加護を持つ者達を保護し活用している王家には太刀打ちできていない。
「加護さえあれば全て上手くいくなんてあり得ません。それなら私は幸せになっているはずだし、加護を持っていると知られた途端益々状況が悪くなるなんてないはずだもの。
王家と公爵家に利用されそうになって死ねば良かったのにって言われたりしない」
「正にその通りです。精霊の力は私欲で利用するものではありません。もしそれが許されるなら加護を失う者などいないでしょうし加護は全ての人に与えられているはずです。
このままでは精霊がいなくなり加護が消滅してしまいます」
長年精霊の加護に頼ってきた王国から精霊がいなくなれば国はたちまち崩壊するだろう。今回の旱魃が良い例で領主や王家は精霊師に頼る以外に策を持たず、災害に備えて備蓄すると言う考えもない。
「全て精霊任せで運営していますから今回のように精霊の力をお借りできなかっただけで簡単に瓦解してしまうんです。それなのに精霊に感謝する事もなく不満ばかりです。
その意識を変えたいと試行錯誤しているのですが上手くいかなくて、神職と言いつつ何の役にも立てていないのが現状です」
肩を落とし自嘲気味に話すナスタリア神父。悔しそうで、それでいて情けない自分を責めているような。
(こんなに悩んでいる方に我儘を言っていいんだろうか)
「長々と愚痴ばかり聞かせてしまい申し訳ありません。ローザリア様の願いをお聞かせ下さいますか?」
「あの、ナスタリア神父様がご存知のように私は神託の儀を受けていません。でも精霊達が教えてくれたことがあって。
⋯⋯えっと、どんな加護が現れたとしても水の加護だけだと公表して欲しいんです」
「理由をお聞かせ頂けますか?」
オーレアンのことを考えればローザリアは水の加護を戴いていると誰もが考えていた。気になるのはその加護の強さのみ。あれ程の功績を残せるならさぞ強い加護だろうと皆が興味津々になっている。
「加護は1人にひとつだと聞きました」
「⋯⋯は? まさか複数の加護を持つなどそのような方は聞いたことがありません」
「オーレアンで現れた精霊は虹色と金色と緑が見えたと言われました」
バンっと大きな音を立ててテーブルに手をついたナスタリア神父がガタンと勢いよく椅子を倒しながら立ち上がった。飛び上がったカップがガチャンと音を立てローザリアが「ひっ!」と息を飲み込んだ。
「そう、そうでした! 3種類の光の玉だと仰っておられたのに⋯⋯気付きませんでした。つまりローザリア様は虹色の水の精霊と金色の光の精霊と緑の風の精霊を呼び寄せた」
(本当は他の色もあったけど⋯⋯)
前屈みになったナスタリア神父の顔がローザリアの顔に触れそうになる程近くなっていく。
「あっ、あの。座って、座ってお話ししてもらえますか?」
「しっ、失礼しました。あまりの驚きで我を忘れてしまい」
ローザリアに謝りながら椅子を元に戻したナスタリア神父は椅子に腰掛けたが、落ち着かないようでソワソワと足を組みかえながらブツブツとなにか呟いている。
「えっと、他の色の精霊も呼べます」
「はあ?」
ナスタリア神父はこれ以上ないほど大きく目を見開き口もポカンと開けて硬直した。
「なんでも精霊王の加護? とかで、いろんな種類の精霊達が会いにきてくれるんです」
「⋯⋯」
「さっきナスタリア神父様が明かりをつけたのって火の精霊の加護ですよね。やったことはないんですが多分出来る気がします」
「⋯⋯」
「あ、回復と水を出すのはできました。風もちょっぴりですが出せましたし。黄色の精霊は雷の精霊だよって」
「待って! 待ってくれますか? 頭がついていかない⋯⋯精霊王の加護は伝説です。今、雷って言いましたよね。雷の精霊なんて聞いた事も。いや、そうだ! 資料にはありました。でも確か顕現した事はないと」
「4大精霊と光・闇以外にも色々いるそうです」
「信じられん! いや、ローザリア様が嘘をついていると言っているわけではなくて、その。います、いるのはいます。でもそうではなくて⋯⋯資料に、資料が」
「⋯⋯それで何が出るかどんなふうに出るかちょっと自信がなくて。水の加護だけって言ってもらえたら助かります。
加護がないのが一番良いんですけど流石にそれは無理そうなんで」
混乱し黙り込んで額を握り拳で叩き続けていた挙動不審なナスタリア神父が「よし!」と気合を入れて立ち上がった。
「やりましょう! 神託の儀です!!」
加護を持つ者は国の為万民の為に精霊の力を行使する役目を持つ》
精霊教会はその文言に異議を唱えたが今よりも弱い力しか持たなかった為、軍の力で押さえつけられてしまったと言う。
「誤解を招く表現だと当時の教皇が抗議し続けた記録が残っていますが、徐々に精霊は使役するものだと言う考えが浸透してしまったのです」
単一教会になり王家と同等の力を持った今でも加護を持つ者達を保護し活用している王家には太刀打ちできていない。
「加護さえあれば全て上手くいくなんてあり得ません。それなら私は幸せになっているはずだし、加護を持っていると知られた途端益々状況が悪くなるなんてないはずだもの。
王家と公爵家に利用されそうになって死ねば良かったのにって言われたりしない」
「正にその通りです。精霊の力は私欲で利用するものではありません。もしそれが許されるなら加護を失う者などいないでしょうし加護は全ての人に与えられているはずです。
このままでは精霊がいなくなり加護が消滅してしまいます」
長年精霊の加護に頼ってきた王国から精霊がいなくなれば国はたちまち崩壊するだろう。今回の旱魃が良い例で領主や王家は精霊師に頼る以外に策を持たず、災害に備えて備蓄すると言う考えもない。
「全て精霊任せで運営していますから今回のように精霊の力をお借りできなかっただけで簡単に瓦解してしまうんです。それなのに精霊に感謝する事もなく不満ばかりです。
その意識を変えたいと試行錯誤しているのですが上手くいかなくて、神職と言いつつ何の役にも立てていないのが現状です」
肩を落とし自嘲気味に話すナスタリア神父。悔しそうで、それでいて情けない自分を責めているような。
(こんなに悩んでいる方に我儘を言っていいんだろうか)
「長々と愚痴ばかり聞かせてしまい申し訳ありません。ローザリア様の願いをお聞かせ下さいますか?」
「あの、ナスタリア神父様がご存知のように私は神託の儀を受けていません。でも精霊達が教えてくれたことがあって。
⋯⋯えっと、どんな加護が現れたとしても水の加護だけだと公表して欲しいんです」
「理由をお聞かせ頂けますか?」
オーレアンのことを考えればローザリアは水の加護を戴いていると誰もが考えていた。気になるのはその加護の強さのみ。あれ程の功績を残せるならさぞ強い加護だろうと皆が興味津々になっている。
「加護は1人にひとつだと聞きました」
「⋯⋯は? まさか複数の加護を持つなどそのような方は聞いたことがありません」
「オーレアンで現れた精霊は虹色と金色と緑が見えたと言われました」
バンっと大きな音を立ててテーブルに手をついたナスタリア神父がガタンと勢いよく椅子を倒しながら立ち上がった。飛び上がったカップがガチャンと音を立てローザリアが「ひっ!」と息を飲み込んだ。
「そう、そうでした! 3種類の光の玉だと仰っておられたのに⋯⋯気付きませんでした。つまりローザリア様は虹色の水の精霊と金色の光の精霊と緑の風の精霊を呼び寄せた」
(本当は他の色もあったけど⋯⋯)
前屈みになったナスタリア神父の顔がローザリアの顔に触れそうになる程近くなっていく。
「あっ、あの。座って、座ってお話ししてもらえますか?」
「しっ、失礼しました。あまりの驚きで我を忘れてしまい」
ローザリアに謝りながら椅子を元に戻したナスタリア神父は椅子に腰掛けたが、落ち着かないようでソワソワと足を組みかえながらブツブツとなにか呟いている。
「えっと、他の色の精霊も呼べます」
「はあ?」
ナスタリア神父はこれ以上ないほど大きく目を見開き口もポカンと開けて硬直した。
「なんでも精霊王の加護? とかで、いろんな種類の精霊達が会いにきてくれるんです」
「⋯⋯」
「さっきナスタリア神父様が明かりをつけたのって火の精霊の加護ですよね。やったことはないんですが多分出来る気がします」
「⋯⋯」
「あ、回復と水を出すのはできました。風もちょっぴりですが出せましたし。黄色の精霊は雷の精霊だよって」
「待って! 待ってくれますか? 頭がついていかない⋯⋯精霊王の加護は伝説です。今、雷って言いましたよね。雷の精霊なんて聞いた事も。いや、そうだ! 資料にはありました。でも確か顕現した事はないと」
「4大精霊と光・闇以外にも色々いるそうです」
「信じられん! いや、ローザリア様が嘘をついていると言っているわけではなくて、その。います、いるのはいます。でもそうではなくて⋯⋯資料に、資料が」
「⋯⋯それで何が出るかどんなふうに出るかちょっと自信がなくて。水の加護だけって言ってもらえたら助かります。
加護がないのが一番良いんですけど流石にそれは無理そうなんで」
混乱し黙り込んで額を握り拳で叩き続けていた挙動不審なナスタリア神父が「よし!」と気合を入れて立ち上がった。
「やりましょう! 神託の儀です!!」
17
お気に入りに追加
606
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
素顔を知らない
基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。
聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。
ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。
王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。
王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。
国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました
As-me.com
恋愛
完結しました。
とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。
なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる