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一回目 (過去)

14.最悪の王命

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「其方が大量の水の精霊を使役したと報告を受けたが誠の事か?」

「恐れながら申し上げます。私はただ膝を折り祈りを捧げただけでございます。恥ずかしながら何が起きたのかは自分自身よくわかっていないのです」

 ローザリアはここにくる前にカサンドラから指示されていた通りの言葉を述べた。


「其方、水の加護を持っておるのであろう? それなのに何も分からぬと申すか?」

「ローザリアは病弱すぎて教会に行くことが叶わずにこの年になりました故、加護を持っているかどうかわかっておらぬのです。
この度はそのような者でも国の為少しでも役に立てばと思い同行させた次第でございます」

 ローザリアへの問いかけにウォレスが返事を返した。


「ならば直ぐにでも神託を受けるが良い。オーレアンの全ての溜池を一度で満たしたほどの力じゃ。さぞかし強い加護持ちであろう」

「勿論、ローザリア様が強い加護を持つ可能性もあるのではないかと思われますが、この度の事は王宮精霊師や学園生の精霊師見習い達の尽力もあり成し遂げられたものであると愚考いたしております」

 ランブリー団長は精霊師団や学園生の派遣を提案した自分の功績を必死にアピールした。


「うむ、皆の者には其々に褒美を取らせよ。オーレアン以外にも旱魃に苦しむ地は多い。民の暮らしと国の安定を守る為、各地にて力を発揮せよ」

「「「御意」」」

 右手を左胸に当てる騎士の礼をする男達とカーテシーをする女性達。国王がセルゲイ宰相に向けて小さく頷いた。



「トーマック公爵長女ローザリアは教会にて精霊の加護を得た後、リチャード王太子の婚約者とする。これは王命である」

 セルゲイ宰相の朗々とした声が謁見室に響きローザリアは顔面蒼白になった。ウォレスとカサンドラは能面のような顔になりリリアーナはすさまじい形相でローザリアを睨みつけた。


 今日この時、ローザリアの処刑へのカウントダウンがはじまった。





 王都にあるトーマック公爵邸に戻った途端ローザリアは熱を出しベッドから出られなくなったと王家に連絡が入った。



「くそっ! お前などさっさと死んでいればよかったんだ」

「役立たずどころか邪魔者だったわ! 育ててやった恩を仇で返すなんて何様のつもり!?」

「死ねよ! 王太子妃は私なの! それなのに邪魔をするなんて、恥ずかしくないの!? さっさと消えなさいよ!!」

 何時間もの間罵倒されて体罰を加えられたローザリア。

 ドレスに隠れるところは青痣と鞭の跡で埋まり、意識を失ったまま裏庭に投げ出された。助けようとする者のないまま朝日が登り始め、裏庭が明るくなった頃に血だらけのメイド服で気を失っているローザリアが発見された。

「やだぁ、こんなとこで寝てるなんてぇ」

「目を覚まさせなきゃ」

 ローザリアを見つけたメイドは井戸から汲んできたばかりの冷たい水をローザリアにぶちまけた。衝撃でうっすらと目を見開いたローザリアはガタガタと震えながら辺りを見回した。

「ようやくお目覚め? 呑気ねえ」

「さっさと仕事を始めてくれなくては困りますよ。お嬢様」

(こんなの⋯⋯もう嫌だ)

 手をついてふらふらと立ちあがろうとしたローザリアだったがそのまままた気を失い水浸しの地面に倒れ込んだ。

【ローザリア】

【ローザリアー!】




 不憫に思った庭師が渋々ベッドまで運んでくれたが、次にローザリアが気がついた時には丸5日が過ぎていた。

(残念⋯⋯私⋯⋯生きてる)

【ローザリア、お水だよ】

【死んじゃやだ】



 意識のない間、精霊達がローザリアのそばに留まり水や果汁を口に流し入れ傷を癒やしてきた。それがなくては5日も放置されたままで生きていることはできなかっただろう。

【ローザリア、早く元気になって】

【ローザリアの側にいたいの】

(ウンディーネ⋯⋯貴方達の事は大好きだけど⋯⋯)


【精霊王だって助けてくれるよ】

【ローザリアを助けたいの】

【お願い、ローザリア。大好き】




 ローザリアなどそのまま死んでしまえばいいと放置していたウォレス達は『寝込んではいるが問題ない、いつもの事だから』と王宮精霊師や教会の精霊師に診せずにいた。

 いずれ体調が急変したと言って死亡の届出をすれば良い。その後、リリアーナを王太子妃にするのだ⋯⋯。



「大変だわ!! アレを生きたまま連れてこいってお母様から連絡が来たのよ」

「アレを生かしておく? それなら王家に言わねばなるまい」

「そうではなくて、よく似た遺体を用意して王家には死んだと思わせてすり替えろって仰ってるの」


「何と面倒な。ケビン、アレが生きておるかどうか調べてこい!!」

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