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4.王都に戻ります

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 脱いだ制服をベッドの上に置き、館に来た時に来ていた着古したチュニックとマントを羽織った。

 追い剥ぎに取られずに済んだお金は、いつも胴巻に入れてある。


 そっと階段を降りようとすると、下からアンナが駆け上がって来た。

「あんた何考えてんの? 旦那様達が帰って来られて屋敷の中はてんてこ舞いなのに。
ミセス・パーカーに言われてあんたを連れ戻しに来たの。
早く戻んないとヤバいって」

「忙しい時にごめんなさい。でもこれ以上ここにはいられないの」

「何で? あんたが来てくれてすっごく助かったのに。文句言わずに何でもやってくれるからさ、もうちょっと頑張ろうよ」

「仕事教えてくれてありがとう。
理由は言えないけど、もし仕事が必要になったら王都の5丁目の交差点にあるケーキ屋さんでアニーに会いに来たって言って。
必ずまともな仕事を紹介するから」

「どう言うこと?」

「今は言えないの。ミセス・パーカーに叱られないうちに早く行って。
ケーキ屋さんの事は秘密にしてね」


 アンナを急いで仕事に戻らせて、アナベルは屋敷を後にした。



 一週間かけて王都の外れにある自宅に戻ったアナベルは、兄の工房を訪ねた。


「お帰り、疲れたろ? お茶でも淹れようか?」

「そうね、兄さんの顔見たらホッとして気が抜けちゃった」


 アナベルがお湯を沸かしている間に、トマスが棚からクッキーを出してきた。

「甘いものが欲しそうな顔してるぞ」


 アナベルはお茶の準備をしながら、辺境伯領で知った事を全て話した。


「巫山戯た野郎だな。で、これからどうするんだ?」

「弁護士のところに行って離婚を申し立てるわ。白い結婚だもの、離婚できるでしょ?」


「・・多分な。でも相手は高位貴族だからな、裁判所が元平民の訴えをどこまで聞いてくれるか」


「後ろ盾になってくれる高位貴族を見つけようと思うの」

「それは良い案だけど、下手したらその後ずっと利用されかねん。分かってるのか?」

「うん、相手はよくよく選ぶつもり。
辺境伯達はバレてないって思ってるはずだから、今のうちに準備をする。
この人は真面そうって思える貴族がいたら教えてね」


「真面な貴族を見つけるなんて、針の先にロープ通すより難しいぞ」

「そこよねぇ。辺境伯の地位に負けない位の地位を持ってて、磁器に執着してない人ねぁ」

「あり得なくね?」

「うん、あり得ない。でも探すしかないもの。二人ともゴテゴテの派手派手で王宮貴族より凄かったのよ。

あれが私たちの作品のお陰だと思ったら我慢できない」



「なら、こう言うのはどうだ?」

 アナベルとトマスの密談は明け方まで続いた。

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