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5.噂が流れて
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王宮に呼び出されたトマスが王宮貴族に声をかけられた。
「最近アナベルの偽物が、あちこちに現れていると言う噂を聞くんだが本当かね?」
「まさか、アナベルの真似を出来る者などおりませんから。
もしそんなものを見つけたら、是非教えて下さい」
偽物の噂は数ヶ月前から王都中に広まり、大手新聞社に掲載された事もある。
トマスは今、肩幅位の箱を捧げ国王陛下の前で蹲踞の姿勢をとっていた。
広間の両側にはずらりと騎士が並び、王座の横には宰相を含め錚々たるメンバーが並んでいた。
「陶芸家トマス・ラッセル面をあげよ」
二度目の声掛けでトマスは顔を上げ、陛下を正面から見つめた。
陛下の隣に立つ宰相が、
「その箱は、磁器か?」
「左様でございます。ご注文頂きました天使像を柘榴と桃で囲んだ絵柄のリーフプレートでございます」
陛下の合図で騎士の一人がトマスの元へやって来た。
トマスは、騎士に箱を手渡した後蓋を開けて、次の指示を待った。
陛下の元に届けられたリーフプレートを見た人達から響めきが起こった。
「いつもながら見事な出来栄え。
チャイナに勝るとも劣らぬ出来栄えじゃな」
磁器は中国で最初作られはじめ西欧に輸入され広まった。その為通常は【チャイナ】と呼ばれている。
【ボーンチャイナ】と言う名前は、牛の骨を材料に使った【チャイナ】という意味で名付けられた。
「身に余るお言葉恐れ入ります」
「最近、不穏な噂が流れているようだが、ラッセル殿は知っておられるか?」
「何でもアナベルの偽物が現れたとか。噴飯物の噂だと歯牙にも掛けておりません」
陛下が少しばかり身を乗り出し聞いてきた。
「そちは、気にはならんのか?」
「アナベルの技量に追い付けるものは今はまだいないと確信しております。
本物のアナベルの磁器をご存知の方々が間違われるとも思えませんし」
「先日辺境伯が謁見して参った折、アナベル自身は辺境伯領で静かに暮らしていると申しておった」
「左様でございますか」
「次の謁見ではアナベルを伴うよう申しつけた。其方も久しぶりに妹に会いたかろう」
「・・ありがとうございます」
「これで漸くアナベル・ラッセル・ストマック男爵に会えるのう。授爵の時以来であろうか」
「左様でございます。恥ずかしながら、妹は人前が苦手でございまして」
陛下の前を辞した後、トマスはゆっくりと王宮を歩きながら噂の広がり具合を確認していた。
「今日新作が?」
「それって、本物なの?」
「陛下に偽物はあり得ないでしょう?」
「でも本物と凄く似てるらしいわよ」
あちらこちらから、噂が聞こえて来た。
噂を流した張本人のトマスは、必死で喜びを押し隠した。
「最近アナベルの偽物が、あちこちに現れていると言う噂を聞くんだが本当かね?」
「まさか、アナベルの真似を出来る者などおりませんから。
もしそんなものを見つけたら、是非教えて下さい」
偽物の噂は数ヶ月前から王都中に広まり、大手新聞社に掲載された事もある。
トマスは今、肩幅位の箱を捧げ国王陛下の前で蹲踞の姿勢をとっていた。
広間の両側にはずらりと騎士が並び、王座の横には宰相を含め錚々たるメンバーが並んでいた。
「陶芸家トマス・ラッセル面をあげよ」
二度目の声掛けでトマスは顔を上げ、陛下を正面から見つめた。
陛下の隣に立つ宰相が、
「その箱は、磁器か?」
「左様でございます。ご注文頂きました天使像を柘榴と桃で囲んだ絵柄のリーフプレートでございます」
陛下の合図で騎士の一人がトマスの元へやって来た。
トマスは、騎士に箱を手渡した後蓋を開けて、次の指示を待った。
陛下の元に届けられたリーフプレートを見た人達から響めきが起こった。
「いつもながら見事な出来栄え。
チャイナに勝るとも劣らぬ出来栄えじゃな」
磁器は中国で最初作られはじめ西欧に輸入され広まった。その為通常は【チャイナ】と呼ばれている。
【ボーンチャイナ】と言う名前は、牛の骨を材料に使った【チャイナ】という意味で名付けられた。
「身に余るお言葉恐れ入ります」
「最近、不穏な噂が流れているようだが、ラッセル殿は知っておられるか?」
「何でもアナベルの偽物が現れたとか。噴飯物の噂だと歯牙にも掛けておりません」
陛下が少しばかり身を乗り出し聞いてきた。
「そちは、気にはならんのか?」
「アナベルの技量に追い付けるものは今はまだいないと確信しております。
本物のアナベルの磁器をご存知の方々が間違われるとも思えませんし」
「先日辺境伯が謁見して参った折、アナベル自身は辺境伯領で静かに暮らしていると申しておった」
「左様でございますか」
「次の謁見ではアナベルを伴うよう申しつけた。其方も久しぶりに妹に会いたかろう」
「・・ありがとうございます」
「これで漸くアナベル・ラッセル・ストマック男爵に会えるのう。授爵の時以来であろうか」
「左様でございます。恥ずかしながら、妹は人前が苦手でございまして」
陛下の前を辞した後、トマスはゆっくりと王宮を歩きながら噂の広がり具合を確認していた。
「今日新作が?」
「それって、本物なの?」
「陛下に偽物はあり得ないでしょう?」
「でも本物と凄く似てるらしいわよ」
あちらこちらから、噂が聞こえて来た。
噂を流した張本人のトマスは、必死で喜びを押し隠した。
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