5 / 15
5.噂が流れて
しおりを挟む
王宮に呼び出されたトマスが王宮貴族に声をかけられた。
「最近アナベルの偽物が、あちこちに現れていると言う噂を聞くんだが本当かね?」
「まさか、アナベルの真似を出来る者などおりませんから。
もしそんなものを見つけたら、是非教えて下さい」
偽物の噂は数ヶ月前から王都中に広まり、大手新聞社に掲載された事もある。
トマスは今、肩幅位の箱を捧げ国王陛下の前で蹲踞の姿勢をとっていた。
広間の両側にはずらりと騎士が並び、王座の横には宰相を含め錚々たるメンバーが並んでいた。
「陶芸家トマス・ラッセル面をあげよ」
二度目の声掛けでトマスは顔を上げ、陛下を正面から見つめた。
陛下の隣に立つ宰相が、
「その箱は、磁器か?」
「左様でございます。ご注文頂きました天使像を柘榴と桃で囲んだ絵柄のリーフプレートでございます」
陛下の合図で騎士の一人がトマスの元へやって来た。
トマスは、騎士に箱を手渡した後蓋を開けて、次の指示を待った。
陛下の元に届けられたリーフプレートを見た人達から響めきが起こった。
「いつもながら見事な出来栄え。
チャイナに勝るとも劣らぬ出来栄えじゃな」
磁器は中国で最初作られはじめ西欧に輸入され広まった。その為通常は【チャイナ】と呼ばれている。
【ボーンチャイナ】と言う名前は、牛の骨を材料に使った【チャイナ】という意味で名付けられた。
「身に余るお言葉恐れ入ります」
「最近、不穏な噂が流れているようだが、ラッセル殿は知っておられるか?」
「何でもアナベルの偽物が現れたとか。噴飯物の噂だと歯牙にも掛けておりません」
陛下が少しばかり身を乗り出し聞いてきた。
「そちは、気にはならんのか?」
「アナベルの技量に追い付けるものは今はまだいないと確信しております。
本物のアナベルの磁器をご存知の方々が間違われるとも思えませんし」
「先日辺境伯が謁見して参った折、アナベル自身は辺境伯領で静かに暮らしていると申しておった」
「左様でございますか」
「次の謁見ではアナベルを伴うよう申しつけた。其方も久しぶりに妹に会いたかろう」
「・・ありがとうございます」
「これで漸くアナベル・ラッセル・ストマック男爵に会えるのう。授爵の時以来であろうか」
「左様でございます。恥ずかしながら、妹は人前が苦手でございまして」
陛下の前を辞した後、トマスはゆっくりと王宮を歩きながら噂の広がり具合を確認していた。
「今日新作が?」
「それって、本物なの?」
「陛下に偽物はあり得ないでしょう?」
「でも本物と凄く似てるらしいわよ」
あちらこちらから、噂が聞こえて来た。
噂を流した張本人のトマスは、必死で喜びを押し隠した。
「最近アナベルの偽物が、あちこちに現れていると言う噂を聞くんだが本当かね?」
「まさか、アナベルの真似を出来る者などおりませんから。
もしそんなものを見つけたら、是非教えて下さい」
偽物の噂は数ヶ月前から王都中に広まり、大手新聞社に掲載された事もある。
トマスは今、肩幅位の箱を捧げ国王陛下の前で蹲踞の姿勢をとっていた。
広間の両側にはずらりと騎士が並び、王座の横には宰相を含め錚々たるメンバーが並んでいた。
「陶芸家トマス・ラッセル面をあげよ」
二度目の声掛けでトマスは顔を上げ、陛下を正面から見つめた。
陛下の隣に立つ宰相が、
「その箱は、磁器か?」
「左様でございます。ご注文頂きました天使像を柘榴と桃で囲んだ絵柄のリーフプレートでございます」
陛下の合図で騎士の一人がトマスの元へやって来た。
トマスは、騎士に箱を手渡した後蓋を開けて、次の指示を待った。
陛下の元に届けられたリーフプレートを見た人達から響めきが起こった。
「いつもながら見事な出来栄え。
チャイナに勝るとも劣らぬ出来栄えじゃな」
磁器は中国で最初作られはじめ西欧に輸入され広まった。その為通常は【チャイナ】と呼ばれている。
【ボーンチャイナ】と言う名前は、牛の骨を材料に使った【チャイナ】という意味で名付けられた。
「身に余るお言葉恐れ入ります」
「最近、不穏な噂が流れているようだが、ラッセル殿は知っておられるか?」
「何でもアナベルの偽物が現れたとか。噴飯物の噂だと歯牙にも掛けておりません」
陛下が少しばかり身を乗り出し聞いてきた。
「そちは、気にはならんのか?」
「アナベルの技量に追い付けるものは今はまだいないと確信しております。
本物のアナベルの磁器をご存知の方々が間違われるとも思えませんし」
「先日辺境伯が謁見して参った折、アナベル自身は辺境伯領で静かに暮らしていると申しておった」
「左様でございますか」
「次の謁見ではアナベルを伴うよう申しつけた。其方も久しぶりに妹に会いたかろう」
「・・ありがとうございます」
「これで漸くアナベル・ラッセル・ストマック男爵に会えるのう。授爵の時以来であろうか」
「左様でございます。恥ずかしながら、妹は人前が苦手でございまして」
陛下の前を辞した後、トマスはゆっくりと王宮を歩きながら噂の広がり具合を確認していた。
「今日新作が?」
「それって、本物なの?」
「陛下に偽物はあり得ないでしょう?」
「でも本物と凄く似てるらしいわよ」
あちらこちらから、噂が聞こえて来た。
噂を流した張本人のトマスは、必死で喜びを押し隠した。
543
お気に入りに追加
5,358
あなたにおすすめの小説

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。

(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

契約婚なのだから契約を守るべきでしたわ、旦那様。
よもぎ
恋愛
白い結婚を三年間。その他いくつかの決まり事。アンネリーナはその条件を呑み、三年を過ごした。そうして結婚が終わるその日になって三年振りに会った戸籍上の夫に離縁を切り出されたアンネリーナは言う。追加の慰謝料を頂きます――

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~
黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

【完結】私より優先している相手が仮病だと、いい加減に気がついたらどうですか?〜病弱を訴えている婚約者の義妹は超が付くほど健康ですよ〜
よどら文鳥
恋愛
ジュリエル=ディラウは、生まれながらに婚約者が決まっていた。
ハーベスト=ドルチャと正式に結婚する前に、一度彼の実家で同居をすることも決まっている。
同居生活が始まり、最初は順調かとジュリエルは思っていたが、ハーベストの義理の妹、シャロン=ドルチャは病弱だった。
ドルチャ家の人間はシャロンのことを溺愛しているため、折角のデートも病気を理由に断られてしまう。それが例え僅かな微熱でもだ。
あることがキッカケでシャロンの病気は実は仮病だとわかり、ジュリエルは真実を訴えようとする。
だが、シャロンを溺愛しているドルチャ家の人間は聞く耳持たず、更にジュリエルを苦しめるようになってしまった。
ハーベストは、ジュリエルが意図的に苦しめられていることを知らなかった。

婚約破棄イベントが壊れた!
秋月一花
恋愛
学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。
――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!
……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない!
「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」
おかしい、おかしい。絶対におかしい!
国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん!
2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる