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3.怒りでぷるぷる
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使用人が玄関前にずらりと勢揃いし、領主夫妻の到着を待っていた。
到着が遅れているのかと使用人がそわそわしはじめた頃、豪奢な4頭立ての馬車が玄関前で停まり、金箔を施したキャリッジから辺境伯夫妻が降りて来た。
「「お帰りなさいませ」」
一斉に頭を下げる使用人達に辺境伯は鷹揚に頷き、屋敷の中に入って行く。列の最後尾に並んだアナベルは、初めて自分の夫を見て違和感を覚えた。
辺境の地で国境を守り、あれほど強引な結婚を取り結んだ人物にしては、目の前の男性は大人しすぎるように思えたのだ。
どちらかと言えば、文官タイプ? 趣味を持つなら切手集めとか骨董収集といった感じで、誰かと議論するよりは居間でコレクションを眺めている方が似合いそうだ。
隣に立つ夫人は贅を尽くしたドレスに大粒の宝石をいくつも付けて、王宮で貴婦人が持っているような大振りの帽子を手にしていた。
よく見ると辺境伯も最新流行のコートの下に、ゴージャスな刺繍飾りのウエストコートを着ている。
執事の横でナニーがフィンリーを抱っこして立っていたが、二人は見向きもしなかった。
アナベルは握り拳を固め、怒りでプルプルと震えていた。
「さっさと中に入って仕事なさい。グズグズしていると鞭で打ちますよ」
振り返ると、玄関の中からミセス・パーカーがアナベルを睨んでいた。
アナベルは意を決してミセス・パーカーに話しかけた。
「辺境伯様達は、随分と豪華なお召し物を召されているのですね」
「当然でしょう? 奥様は王宮や高位貴族にも覚えめでたい有名な絵付師でいらっしゃるの。
その収益の一部で館の修繕から何から、全てを賄って下さっているのだから」
「全て、絵付けの収益で賄っているのですか?」
「まあ、ほとんど全てというところね。
領地からの税収も勿論あるけれど、旦那様はそういうのはあまりお得意ではないから。
ご結婚なさる前はギリギリだったのだから、お前も奥様に感謝しなくてはなりませんよ」
立ち去ろうとするミセス・パーカーに、アナベルは近づき質問を続けた。
「奥様の作品はここにもあるのですか?」
「馬鹿なことを考えてるんじゃないでしょうね。奥様の作品は出来上がり次第王都に運ばれるので、ここにはありません。
そんなことばかり気にしているなら馘にしますよ」
「はい、着替えてまいります。短い間でしたがお世話になりました」
「なっ、どう言う意味?」
「今日でお暇をいただきます」
ペコリと頭を下げたアナベルは、ミセス・パーカーの怒鳴り声を無視して屋根裏部屋に駆け込んだ。
到着が遅れているのかと使用人がそわそわしはじめた頃、豪奢な4頭立ての馬車が玄関前で停まり、金箔を施したキャリッジから辺境伯夫妻が降りて来た。
「「お帰りなさいませ」」
一斉に頭を下げる使用人達に辺境伯は鷹揚に頷き、屋敷の中に入って行く。列の最後尾に並んだアナベルは、初めて自分の夫を見て違和感を覚えた。
辺境の地で国境を守り、あれほど強引な結婚を取り結んだ人物にしては、目の前の男性は大人しすぎるように思えたのだ。
どちらかと言えば、文官タイプ? 趣味を持つなら切手集めとか骨董収集といった感じで、誰かと議論するよりは居間でコレクションを眺めている方が似合いそうだ。
隣に立つ夫人は贅を尽くしたドレスに大粒の宝石をいくつも付けて、王宮で貴婦人が持っているような大振りの帽子を手にしていた。
よく見ると辺境伯も最新流行のコートの下に、ゴージャスな刺繍飾りのウエストコートを着ている。
執事の横でナニーがフィンリーを抱っこして立っていたが、二人は見向きもしなかった。
アナベルは握り拳を固め、怒りでプルプルと震えていた。
「さっさと中に入って仕事なさい。グズグズしていると鞭で打ちますよ」
振り返ると、玄関の中からミセス・パーカーがアナベルを睨んでいた。
アナベルは意を決してミセス・パーカーに話しかけた。
「辺境伯様達は、随分と豪華なお召し物を召されているのですね」
「当然でしょう? 奥様は王宮や高位貴族にも覚えめでたい有名な絵付師でいらっしゃるの。
その収益の一部で館の修繕から何から、全てを賄って下さっているのだから」
「全て、絵付けの収益で賄っているのですか?」
「まあ、ほとんど全てというところね。
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ご結婚なさる前はギリギリだったのだから、お前も奥様に感謝しなくてはなりませんよ」
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「奥様の作品はここにもあるのですか?」
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そんなことばかり気にしているなら馘にしますよ」
「はい、着替えてまいります。短い間でしたがお世話になりました」
「なっ、どう言う意味?」
「今日でお暇をいただきます」
ペコリと頭を下げたアナベルは、ミセス・パーカーの怒鳴り声を無視して屋根裏部屋に駆け込んだ。
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