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1.使用人が話を聞かない

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 旅の途中追い剥ぎに遭い、荷物を全て取られたアナベルは漸く辺境伯の館に辿り着いた。


 玄関ドアのノッカーを力一杯叩くと、まだ新しいお仕着せを着た従僕がドアを開けた。


 アナベルを頭の先から足元までジロジロみた従僕は、
「面接なら裏に回れ。非常識なやつだな、全く」

 目の前で大きな音と共にドアが閉まった。


(名前位聞いてくれたら良かったのに)


 もう一度ノッカーを鳴らしたが返答がない。いっその事自分でドアを開けようかとノブに手をかけたが、鍵がかかっていた。

 アナベルは諦めて手を下ろし裏口に回った。


 裏口から声を掛けると、濃いブロンドを綺麗なシニヨンに結った女性がやって来て開口一番、

「荷物は?」

「追い剥ぎに遭いまして。私はアナ「追い剥ぎ? ああ、最近多いのよ。私は家政婦長のミセス・パーカー」」

「私はアナベ「仕事はアンナに聞いてちょうだい」

 気の短い人らしくせかせかとした足取りで、ミセス・パーカーが立ち去った。


 呆然と立ち尽くすアナベルにアンナが声を掛けてくれた。

「部屋に案内するからついて来て。屋根裏部屋なんだけど、見晴らしは最高だから」


 さっさと歩き出したアンナに、
「待って、私は仕事をしに来たんじゃないの。辺境伯に会いに来たの」

「あー、旦那様に会うのは無理ね。お忙しい方だし使用人の事なんて気にしちゃいないもん。
あんたもこの館見てビビったんでしょ? あたしもそうだったからすっごく気持ち解る。

でもすぐ慣れるし、2年前からどんどん修理してるからこれでも随分良くなったのよ」


 狭い階段を登りきり、アンナは3階に上がって直ぐのドアを開けた。

「ここがあんたのって、名前はなんて言うの?」

「アナベル・スト・・アナベル・ラッセルと言います」

「やだ、アナベルって奥様と一緒じゃん。じゃあベルって呼ぶね。
ここ、本当は二人部屋なんだ。次が来るまでは一人部屋だから、あんた超ラッキーだよ」


「ねえアンナ、辺境伯と結婚し「2年前にね。すっごいお金持ちの奥様と豪華な結婚式を挙げたの。

あれからすぐに、お子様も生まれて今は幸せいっぱいってとこ」



(はぁ、ここの館の人って皆んな人の話を聞かないのね。
それにしても兄さんが聞いて来た噂が本当だったなんて、とりあえず様子見てから考えるかな)



 アンナに急かされながら、部屋に置いてあったお仕着せに着替えて階下に降りて行く。


「ストマック辺境伯の後継者の名前はフィンリー様。
辺境伯様達の事は旦那様と奥様呼ぶように。
ここまでは良い?

あたし達の仕事はミセス・パーカーが指示をくれるけど、指示がない時はひたすら掃除。掃除道具はそこの部屋にあるから。

まぁ誰かに何か言われたら直ぐ行動した方がいいよ。

ボケっとしてたら鞭が飛んでくるから気をつけて」

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