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97.グレッグ争奪戦がはじまる
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「特別養子縁組となると法的には実子扱いになる。それは流石にまずいんじゃないかな?」
「グレッグと関われば関わるほど彼はステファン・マーベルの子供ではない気がするんです。後見にすると後から『俺が本当の父親だ』と言い出す輩がいて面倒なことになる気がしてならないんです」
「その可能性は大いにあるじゃろう。月足らずで産まれたと言っておったそうじゃが怪しい過ぎるし、フォルスト公爵家からの恩恵狙いでわしゃわしゃと虫が寄ってきそうじゃ」
問題は何ヶ月も前から宙ぶらりんのまま変わっていません。いっそのことわたくしがグレッグを連れて辺境伯領に住み、チェイスのお世話係をすれば済むのかと思ってしまいます。
「では、グレッグは私が特別養子縁組をします。低位貴族であってもグレッグは貴族家の実子扱いできますから辺境伯が養子に迎えたチェイスとの交流もとやかく言われずにすみますし、おかしな輩が湧いてもなんとでもできるでしょう」
「ふむ、ワシが言おうとしておったセリフを先に取られてしもうた。無理矢理聖職者にするつもりはないから住む場所は考えねばならんが、ワシが特別養子縁組して宙ぶらりんで放置しとる爵位やらを持たせてやろうと思おておった。ラングローズ子爵家の後見付きにしておけばワシが死んだ後も安心じゃしな」
トーマス司教様はなんと隣国の公爵位をお持ちだそうです。面倒だからと言って領地を国に強引に買い取って頂いたものの爵位の返還は認められなかったとか。
その時の資産は全て預けっぱなしと言う驚きのカミングアウトでした。
「どのくらいあるか気にもしとらんかったがグレッグが困るようなことにはならんぞ?」
「公爵家の自領の売却分だけでもヤバすぎませんか?」
「そうかのう? まあ、金なぞ要らねば寄付する先はいくらでもあるし、チャールズとアレックスに任せりゃよかろう。
いずれノアが結婚して子ができた後やら、アレックスの子が大きくなった後にグレッグが肩身の狭い思いをするよりは名案だと思うがの?」
「俺はティアと結婚するから問題が起こるはずはな⋯⋯」
「なにやら虫が飛んだのう、ブンブン煩うて何も聞こえんわい。それとももう歳をとって耄碌したのかもしれんし」
ノア様を睨むトーマス司教様の強烈な眼力なら百年でも二百年でも大丈夫そうに見えますわ。
それから数日、大人三人のグレッグ争奪戦が繰り広げられたようですが最終的に勝利したのは予想通りトーマス司教様でした。
最大の勝因はトラブルの元になり得ない爵位をお持ちだということでした。それ以外にも領地がないのでグレッグがどちらの国に住んでも良いことや、高位貴族の中でも最上位の公爵位ならば誰にも蔑まれる心配がないこと。
「辺境伯位なぞ隣国サーマルロウス帝国からみりゃ街の靴磨きとたいして変わらんからの」
「それはまあ、帝国は我が国と比べるなどバカらしいくらいの大国ですから⋯⋯」
「トーマス司教様は面倒ごとを押し付けようとなさっておいでですからご注意下さい」
ブルス助祭からのリークでお父様が青褪めるのは全ての書類が完成し提出した後でした。
「先に教えていただければ助かりましたのに」
「私自身、グレッグはトーマス司教様と特別養子縁組を行い、ラングローズ子爵家の後見を受けるのが一番だと思っておりましたので」
ニヤリと笑ったブルス助祭はトーマス司教様並みの腹黒そうな笑顔だったそうです。
トーマス司教様は聖職者としての立場や教会での規約上グレッグの法律行為や事実行為でサポートを行う事ができないと仰っておられた為ラングローズ子爵家が後見を引き受けたのですが⋯⋯。
「帝国との折衝まで任すなんて⋯⋯あの狸め!」
グレッグが独り立ちするまでお父様の元には大量の手紙が届き続けそうな気配です。
「後継者ができたなら領地を返したい? 謁見だ? 4歳でまだ『さ行』も『ら行』も言えん子供に期待なんかすんじゃねえ!」
この国でも隣国でも女性には法的な権利が少ないため面倒ごとをお父様に丸投げすることになり身の置き所がないほど反省しています。
「わたくしがはじめた事なのに結局全部お任せする事になって、本当に申し訳ありません」
深々と頭を下げるとお父様が笑いながら仰いました。
「では、人を拾う癖は封印か?」
「⋯⋯それは、またやってしまいそうです」
「なら、ごめんではなくありがとうにしなさい。娘に頼られているうちは元気でいられそうだし⋯⋯なにしろ病気になっている暇がないからね」
「グレッグと関われば関わるほど彼はステファン・マーベルの子供ではない気がするんです。後見にすると後から『俺が本当の父親だ』と言い出す輩がいて面倒なことになる気がしてならないんです」
「その可能性は大いにあるじゃろう。月足らずで産まれたと言っておったそうじゃが怪しい過ぎるし、フォルスト公爵家からの恩恵狙いでわしゃわしゃと虫が寄ってきそうじゃ」
問題は何ヶ月も前から宙ぶらりんのまま変わっていません。いっそのことわたくしがグレッグを連れて辺境伯領に住み、チェイスのお世話係をすれば済むのかと思ってしまいます。
「では、グレッグは私が特別養子縁組をします。低位貴族であってもグレッグは貴族家の実子扱いできますから辺境伯が養子に迎えたチェイスとの交流もとやかく言われずにすみますし、おかしな輩が湧いてもなんとでもできるでしょう」
「ふむ、ワシが言おうとしておったセリフを先に取られてしもうた。無理矢理聖職者にするつもりはないから住む場所は考えねばならんが、ワシが特別養子縁組して宙ぶらりんで放置しとる爵位やらを持たせてやろうと思おておった。ラングローズ子爵家の後見付きにしておけばワシが死んだ後も安心じゃしな」
トーマス司教様はなんと隣国の公爵位をお持ちだそうです。面倒だからと言って領地を国に強引に買い取って頂いたものの爵位の返還は認められなかったとか。
その時の資産は全て預けっぱなしと言う驚きのカミングアウトでした。
「どのくらいあるか気にもしとらんかったがグレッグが困るようなことにはならんぞ?」
「公爵家の自領の売却分だけでもヤバすぎませんか?」
「そうかのう? まあ、金なぞ要らねば寄付する先はいくらでもあるし、チャールズとアレックスに任せりゃよかろう。
いずれノアが結婚して子ができた後やら、アレックスの子が大きくなった後にグレッグが肩身の狭い思いをするよりは名案だと思うがの?」
「俺はティアと結婚するから問題が起こるはずはな⋯⋯」
「なにやら虫が飛んだのう、ブンブン煩うて何も聞こえんわい。それとももう歳をとって耄碌したのかもしれんし」
ノア様を睨むトーマス司教様の強烈な眼力なら百年でも二百年でも大丈夫そうに見えますわ。
それから数日、大人三人のグレッグ争奪戦が繰り広げられたようですが最終的に勝利したのは予想通りトーマス司教様でした。
最大の勝因はトラブルの元になり得ない爵位をお持ちだということでした。それ以外にも領地がないのでグレッグがどちらの国に住んでも良いことや、高位貴族の中でも最上位の公爵位ならば誰にも蔑まれる心配がないこと。
「辺境伯位なぞ隣国サーマルロウス帝国からみりゃ街の靴磨きとたいして変わらんからの」
「それはまあ、帝国は我が国と比べるなどバカらしいくらいの大国ですから⋯⋯」
「トーマス司教様は面倒ごとを押し付けようとなさっておいでですからご注意下さい」
ブルス助祭からのリークでお父様が青褪めるのは全ての書類が完成し提出した後でした。
「先に教えていただければ助かりましたのに」
「私自身、グレッグはトーマス司教様と特別養子縁組を行い、ラングローズ子爵家の後見を受けるのが一番だと思っておりましたので」
ニヤリと笑ったブルス助祭はトーマス司教様並みの腹黒そうな笑顔だったそうです。
トーマス司教様は聖職者としての立場や教会での規約上グレッグの法律行為や事実行為でサポートを行う事ができないと仰っておられた為ラングローズ子爵家が後見を引き受けたのですが⋯⋯。
「帝国との折衝まで任すなんて⋯⋯あの狸め!」
グレッグが独り立ちするまでお父様の元には大量の手紙が届き続けそうな気配です。
「後継者ができたなら領地を返したい? 謁見だ? 4歳でまだ『さ行』も『ら行』も言えん子供に期待なんかすんじゃねえ!」
この国でも隣国でも女性には法的な権利が少ないため面倒ごとをお父様に丸投げすることになり身の置き所がないほど反省しています。
「わたくしがはじめた事なのに結局全部お任せする事になって、本当に申し訳ありません」
深々と頭を下げるとお父様が笑いながら仰いました。
「では、人を拾う癖は封印か?」
「⋯⋯それは、またやってしまいそうです」
「なら、ごめんではなくありがとうにしなさい。娘に頼られているうちは元気でいられそうだし⋯⋯なにしろ病気になっている暇がないからね」
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