【完結】子供を抱いて帰って来た夫が満面の笑みを浮かべてます

との

文字の大きさ
上 下
91 / 99

91.あの人は今!

しおりを挟む
「何遍言ったらわかるんじゃ! この薄鈍が!(バチン、バチン)無駄にでかい図体には知恵のカケラもないんか!」

「ひぃっ! もも、申し訳ありまっせん!」


「それでも二児の母親か! 弛みすぎは腹だけで十分じゃあ! 厚化粧で歳を誤魔化す暇があるなら子供の歌でも覚えんか!」

「ううっ! そ、そんなぁ」


「夜までに腕立て伏せと腹筋二千回、その後この本を丸暗記せい! できんなら飯抜きじゃあ!(ガツン、ドスッ)疲れた後でも子育てに待てはないんじゃ!」

「メ、飯抜きはご勘弁を! あわわ、やります、やらせて下さいぃぃ」


「貴様はここにあるシーツを全部洗ってアイロンがけが終わるまでは座ってはならんぞ! 休憩なんぞ百万年早いわ! 母親は体力勝負じゃ、覚えておけ!」

「あ、あぅぅ。洗濯などした事が⋯⋯ああ、ごめんなさいぃ。す、すぐに行って参りますぅ!」

 ご想像通り⋯⋯トーマス司教様のご指導中です。



「貴様らの無神経な行動であのように可愛らしかった子供達はいまだ怯え泣き叫び、リリスは真面な生活もできんようになっとる! 幼子の心理を理解できぬ『大たわけ』が子を引き取るじゃと!?
神を愚弄する行いじゃ! そこへ直れ、ワシが成敗してくれる!」

 司教杖を構えたトーマス司教様でしたが⋯⋯。

  シャキーン!

「ふっ! 貴様なら知っておろう、特製の仕込み杖じゃ。縮こまった其方の逸物程度なら瞬殺じゃな」

「そそ、それって司教杖をき⋯⋯凶器にとかだ⋯⋯ダメじゃ⋯⋯」

「ワシに文句の言える奴などおらんわい! 嘘だと思うなら教皇だろうが国王だろうが連れて来い、ワシがケツを蹴り上げて引導を渡してくれるわい。
唯一、リリスの文句なら受け付けてやるが、貴様らがあの子の側に近寄る気配を見せただけで頭と胴が離れると覚悟せい!」

「わわ、私は辺境伯領のふふ⋯⋯復興があり、ありまして」

「わ、わたくしもその手伝いが⋯⋯」

「貴様らのようなクズなどおらんでも辺境伯領の復興は順調に進んでおるわい。いや、おらん方が順調じゃと報告が来ておる。
頭の弱い脳筋のくだらん采配と無駄な買い物の支払いに悩む時間がなくて大助かりじゃと申しておったわ!」

「「そ、そんな!」」

「たかが子爵家の一令嬢がと申したそうじゃな!? 貴様らなどその令嬢の髪の毛一本分の価値もないとわしが教えてやるから覚悟せい。
腐れ外道育成機の辺境伯ごときがラングローズ子爵家を金目当てだのと言いおったな。しかも、リリスを女狐扱いした挙句、間抜け王太子に触手? は! 言っておくがな、間抜けにリリスは勿体なさすぎじゃ。手を出したらワシが『正しい去勢の仕方』を実演付きで教えてやるわい」

「お、お聞きになら⋯⋯なられたんですか?」

「ふっ! 誰からも聞いてなぞおらんが、ワシはリリスの事ならなんでも知っておるわい。何しろリリスの『追っかけ』じゃからな!」

「「ひぃ!」」

 これがトーマス司教様と辺境伯夫妻の初対面だったそうです。

 なんでも、王宮に乗り込んだトーマス司教様は会議中の陛下を引き摺り出して説教した後で、復興に必要な技師や労働力と資材の手配などを期限付きで約束させたそうですから辺境伯夫妻は安心していられる事間違いなしですね。



 グレッグとチェイスに骨抜きになっているブルス助祭も張り切っておられるそうです。

「期限は決まっていないそうですからじっくりとご指導させていただきます。
子供と言うのは使用人任せで愛でていれば良いというものではございません。心の傷を癒しつつ励まし前に進ませる⋯⋯領地経営の基礎ともなる人材育成にも繋がります。
一秒たりとも無駄にせず励まれますよう」

 ブルス助祭の獲物はよくしなる鞭だとか。トーマス司教様があちこち勝手に出歩かれるので、護衛役を兼ねているうちにすっかり上達したと仰っておられました。




 辺境伯夫妻の教育が進められている間に、ナーシャ様の裁判がはじまりました。

 婚約していた頃からはじまったジャスパー様の不貞の数々。政略により結ばれたこととナーシャ様自身の想いもあり結婚したものの、家に寄りつかず遊び歩くジャスパー様。

 気位の高いナーシャ様とは顔を合わせれば喧嘩ばかりになりジャスパー様の足は益々方々の女達の元へ向かう悪循環だったそうです。

 娘可愛さでナーシャ様の願いを何度も叶えてきたのはドミラス侯爵です。

 いつまで待ってもチェイス拉致の連絡がこないため我慢ができなくなったナーシャ様が修道院を抜け出し、あのパーティーの夜のドミラス侯爵はチェイスを手に入れさえすれば⋯⋯とかなり焦っていたのだとか。

 ナーシャ様とドミラス侯爵は爵位剥奪の上、斬首が決まりました。

 処刑の前日、トーマス司教様はナーシャ様と対面されましたが、予想と違いとても落ち着いた様子だったそうです。

『わたくしは大きな罪を犯しました』

『そうじゃな』

『⋯⋯わたくしはどこから間違ってしまったのでしょうか。ただ純粋にジャスパー様をお慕いしていたはずが、多くの方を苦しめその挙げ句にあのような凶行をしてしまいましたの』

『どこから⋯⋯そりゃ、男選びを間違うたのじゃろうな、ジャスパーはクソ野郎じゃ』

『プッ! 亡くなられた方に鞭を打つ司教様など初めてお会いしましたわ』

『フフン! ワシに常識は通用せんからのう』

『では、向こうでジャスパー様にお会いしたら一発殴ってやりますわ』

『おう、気の済むまで何発でもやってやれ』

『そうですね。司教様、ありがとうございました。疑問が解消してようやく懺悔と謝罪に専心できます』

 トーマス司教様はドミラス侯爵には会われなかったそうです。

(クソ親父の顔など誰が見に行くか!)

しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

処理中です...