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83.初対面の時、今回は第三人称でお届けしております
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「長い間チェイスを預かってくださった事、心から感謝しています」
約束の時間より二時間近く遅れてやってきたキャンベル辺境伯夫妻は応接室に案内された後、ラングローズ子爵に向かい頭をさげた。
「どうかお気になさらずいて下さい。ノア殿からお聞きになられていると思いますが、我が家ではよくある事でもありますし短いながら娘とご縁のあったお子様達ですから、お預かりするのはごく当たり前のように思っておりました」
「しかし⋯⋯いや、ここは素直にありがとうと言わせていただく事にしよう。我が領は戦が終結しようやく復興に向けて動きはじめたばかりでして、亡き弟のしでかした事と言えあちこちにご迷惑をおかけしたままで肩身の狭い思いをしております」
「長い戦いでしたからキャンベル辺境伯におかれましてはご心労も多かった事でしょう。当家でお預かりいたしました子供達はありがたい事に健康に恵まれ日々笑顔を振りまいて下さいます。
お会いになられますか? 詳しいお話はその後の方がよろしいかとぞんじますが」
子爵の穏やかな笑顔に安堵した辺境伯が大きく頷いた。
「是非お願いしたい。チェイスの顔を見てみたいと楽しみにしておりました」
「チェイスにお会いになられますか? それともお子様二人に?」
「チェイスだけで構いません。彼の顔や特徴を確認させていただいてから話を進めたいと思っています」
子爵がターニャにチェイスを連れてくるよう声をかけた。
「今日はティアは在宅ではないのですか?」
応接室に入った時からリリスティアの姿がない事に不審を覚えていたノアが子爵に問いかけた。
「リリスは出かけておりまして」
なんの説明もない簡略化された子爵の返事にノアはリリスティアの考えが理解できた気がした。
(この場にいたくないって事だよな。子供達との別れになるかもしれないんだし)
ノックの音がしてターニャに抱かれたチェイスが入って来た。
不安そうに部屋を見回したチェイスはターニャを見上げて少し首を傾げた。
「リィ、ない」
キャンベル辺境伯が立ち上がって嬉しそうに話しはじめた。
「おお、間違いない! ジャスパーの赤ん坊の頃にそっくりだ。しかも所々に金髪が筋のように⋯⋯こんにちはと言ってもまだわからんな。
なあ、アリサ⋯⋯ジャスパーの庶子として引き取るのもいいが、私達の養子にしたらどうだろうか。その方がチェイスの将⋯⋯」
「リィ、ない?」
「チェイス、お嬢様はもうちょっとしたら帰ってこられるからね」
興奮状態だったキャンベル辺境伯の話の途中で、チェイスが顔を見上げてターニャにしがみつき再び問いかけた。
「⋯⋯リィ⋯⋯にぃ、ない⋯⋯うっ⋯⋯うわぁーん! リィィィ、なぁのぉ⋯⋯いぃやぁぁぁ!」
ターニャの腕の中で泣き叫んだチェイスが背を仰け反らして暴れはじめ、ノアが慌てて立ち上がった時冷静な子爵の声が聞こえてきた。
「ターニャ、チェイスをグレッグのところに連れて行ってやりなさい」
「にぃぃぃ! ひぃぎゃぁぁぁ!」
「はい。チェイス、大丈夫だから行こう。グレッグが待ってるからね」
ターニャの声かけが聞こえた様子のないチェイスは暴れて泣き続け、落ちそうになったチェイスを抱えなおしていると⋯⋯。
ドンドン⋯⋯チェチュゥゥ⋯⋯ガチャガチャ⋯
ドアノブが回り普段は許可がない限り絶対にドアを開けないグレッグが真っ青な顔で飛び込んできた。
「チェチュ! にぃちた、おっでぇ!」
「にぃぃぃ!」
身を捩ってターニャの腕から逃げ出したチェイスがグレッグに飛びついた。
「にぃぃぃ! うわーん」
「チェチュ、ちゅみきちゅる? いーこね」
グレッグがチェイスをしっかりと抱きしめたまま部屋の中を見回し、子爵に目をとめた後ノアを目を見てはっきりと宣言した。
「おのなは、うちょつち、しんちない。あからチェチュあでないかなね」
「グレッグ、そうじゃなくて⋯⋯」
「のあたま、おじたま、うちょつち、なまかない! チェチュ、いーこね、おへやかえろ? リィ、くるなかね」
グレッグはまるで大人のような表情で全員を睨みつけた後、泣きながらしゃっくりをするチェイスを抱き抱えるようにして部屋を出て行った。
ターニャは辺境伯を睨みつけた後グレッグ達の後をついて部屋を出た。
「お、大きな声だったから驚かせてしまったな。昔から子供には泣かれてばかりなんだ。いやぁ、参った。こりゃ暫く時間がかかりそうだな」
ガシガシと頭を掻く辺境伯にノアの拳骨が落ちた。
「いってえ! ノア、なんなんだ!? 子供が俺を見て泣くのなんていつもの事だろ?」
「この馬鹿! チェイスがどんな暮らしをしてたか忘れたのか!?」
「聞いてるとも! だから一日も早く迎えに来ようと頑張って予定を空けたんじゃないか」
「お前が迎えに来さえすれば喜ぶとでも思ってたのか!? この脳筋野郎が!」
「チェイスはまだ赤ん坊だから大した事は覚えてねえだろ? なら一日も早く落ち着いた環境に連れてってやらんと可哀想じゃねえか!
な? アリサもそう思うだろ?」
「子供に落ち着いた環境が必要なのは確かだと思うわ。でも、顔を見た途端熊のような大男が大声で喋りまくったら誰だって驚くでしょう?」
約束の時間より二時間近く遅れてやってきたキャンベル辺境伯夫妻は応接室に案内された後、ラングローズ子爵に向かい頭をさげた。
「どうかお気になさらずいて下さい。ノア殿からお聞きになられていると思いますが、我が家ではよくある事でもありますし短いながら娘とご縁のあったお子様達ですから、お預かりするのはごく当たり前のように思っておりました」
「しかし⋯⋯いや、ここは素直にありがとうと言わせていただく事にしよう。我が領は戦が終結しようやく復興に向けて動きはじめたばかりでして、亡き弟のしでかした事と言えあちこちにご迷惑をおかけしたままで肩身の狭い思いをしております」
「長い戦いでしたからキャンベル辺境伯におかれましてはご心労も多かった事でしょう。当家でお預かりいたしました子供達はありがたい事に健康に恵まれ日々笑顔を振りまいて下さいます。
お会いになられますか? 詳しいお話はその後の方がよろしいかとぞんじますが」
子爵の穏やかな笑顔に安堵した辺境伯が大きく頷いた。
「是非お願いしたい。チェイスの顔を見てみたいと楽しみにしておりました」
「チェイスにお会いになられますか? それともお子様二人に?」
「チェイスだけで構いません。彼の顔や特徴を確認させていただいてから話を進めたいと思っています」
子爵がターニャにチェイスを連れてくるよう声をかけた。
「今日はティアは在宅ではないのですか?」
応接室に入った時からリリスティアの姿がない事に不審を覚えていたノアが子爵に問いかけた。
「リリスは出かけておりまして」
なんの説明もない簡略化された子爵の返事にノアはリリスティアの考えが理解できた気がした。
(この場にいたくないって事だよな。子供達との別れになるかもしれないんだし)
ノックの音がしてターニャに抱かれたチェイスが入って来た。
不安そうに部屋を見回したチェイスはターニャを見上げて少し首を傾げた。
「リィ、ない」
キャンベル辺境伯が立ち上がって嬉しそうに話しはじめた。
「おお、間違いない! ジャスパーの赤ん坊の頃にそっくりだ。しかも所々に金髪が筋のように⋯⋯こんにちはと言ってもまだわからんな。
なあ、アリサ⋯⋯ジャスパーの庶子として引き取るのもいいが、私達の養子にしたらどうだろうか。その方がチェイスの将⋯⋯」
「リィ、ない?」
「チェイス、お嬢様はもうちょっとしたら帰ってこられるからね」
興奮状態だったキャンベル辺境伯の話の途中で、チェイスが顔を見上げてターニャにしがみつき再び問いかけた。
「⋯⋯リィ⋯⋯にぃ、ない⋯⋯うっ⋯⋯うわぁーん! リィィィ、なぁのぉ⋯⋯いぃやぁぁぁ!」
ターニャの腕の中で泣き叫んだチェイスが背を仰け反らして暴れはじめ、ノアが慌てて立ち上がった時冷静な子爵の声が聞こえてきた。
「ターニャ、チェイスをグレッグのところに連れて行ってやりなさい」
「にぃぃぃ! ひぃぎゃぁぁぁ!」
「はい。チェイス、大丈夫だから行こう。グレッグが待ってるからね」
ターニャの声かけが聞こえた様子のないチェイスは暴れて泣き続け、落ちそうになったチェイスを抱えなおしていると⋯⋯。
ドンドン⋯⋯チェチュゥゥ⋯⋯ガチャガチャ⋯
ドアノブが回り普段は許可がない限り絶対にドアを開けないグレッグが真っ青な顔で飛び込んできた。
「チェチュ! にぃちた、おっでぇ!」
「にぃぃぃ!」
身を捩ってターニャの腕から逃げ出したチェイスがグレッグに飛びついた。
「にぃぃぃ! うわーん」
「チェチュ、ちゅみきちゅる? いーこね」
グレッグがチェイスをしっかりと抱きしめたまま部屋の中を見回し、子爵に目をとめた後ノアを目を見てはっきりと宣言した。
「おのなは、うちょつち、しんちない。あからチェチュあでないかなね」
「グレッグ、そうじゃなくて⋯⋯」
「のあたま、おじたま、うちょつち、なまかない! チェチュ、いーこね、おへやかえろ? リィ、くるなかね」
グレッグはまるで大人のような表情で全員を睨みつけた後、泣きながらしゃっくりをするチェイスを抱き抱えるようにして部屋を出て行った。
ターニャは辺境伯を睨みつけた後グレッグ達の後をついて部屋を出た。
「お、大きな声だったから驚かせてしまったな。昔から子供には泣かれてばかりなんだ。いやぁ、参った。こりゃ暫く時間がかかりそうだな」
ガシガシと頭を掻く辺境伯にノアの拳骨が落ちた。
「いってえ! ノア、なんなんだ!? 子供が俺を見て泣くのなんていつもの事だろ?」
「この馬鹿! チェイスがどんな暮らしをしてたか忘れたのか!?」
「聞いてるとも! だから一日も早く迎えに来ようと頑張って予定を空けたんじゃないか」
「お前が迎えに来さえすれば喜ぶとでも思ってたのか!? この脳筋野郎が!」
「チェイスはまだ赤ん坊だから大した事は覚えてねえだろ? なら一日も早く落ち着いた環境に連れてってやらんと可哀想じゃねえか!
な? アリサもそう思うだろ?」
「子供に落ち着いた環境が必要なのは確かだと思うわ。でも、顔を見た途端熊のような大男が大声で喋りまくったら誰だって驚くでしょう?」
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