【完結】子供を抱いて帰って来た夫が満面の笑みを浮かべてます

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81.ちゅちは、おくば〜んね

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「リィ、あっこぉ」

「やーの! チェチュめっなのぉ、リィはこっちなの!」

 わたくしの心の中のモヤモヤに気付いているのか、朝からご機嫌斜めのグレッグと甘えん坊になったチェイスがわたくしの足元で喧嘩しています。

 二人の前では平常心を心掛け昨日まではなんとか頑張れていたのだと思いますが、今日は何をしても手につかず気もそぞろになっているからだと分かってはいるのですが⋯⋯。

「仕方ないですよ~、今日のお嬢様めちゃめちゃ変ですもん。溜息をついていたかと思うと掃除をはじめたり、刺繍をはじめたかと思えば衣替えするって言い出してますからね」

 容赦ないターニャの言葉通りです。私の足元にはクローゼットから引っ張り出したドレスが散乱し、その真ん中でグレッグとチェイスが喧嘩しているのですから。

「本当にその通りね。ねえ、庭にお散歩にいかない? ブランコで遊んでからセルゲイ爺ちゃんにお花をもらいに行きましょう」

「いく~! おたんぽちゅち、リィおたんぽなまかね!」

「ね~」

 二人と手を繋いで庭に向かいました。

「リィ、いとまちうたって!」

「じゃあ、みんなで歌いましょう」


 いとをまきあげ、いとをまきあげ🎵
 ひいてひいて、パンパンパン🎵
 てんじょうさして、ゆかさして🎵
 まどをさして、ゆかさして🎵
 はくしゅをしましょう、1、2、3🎵
 りょうてをひざにおきましょう🎵


 グレッグとチェイスのお気に入りの歌です。グレッグはわたくしと一緒に歌いチェイスは今のところ指差しダンスと『パンパンパン』担当です。



 真っ青に晴れ上がった空の下、チェイスが乗ったブランコをゆっくりとグレッグが押しています。

「にぃ、おっとぉ」

「チェチュはちまいたら、ちょっとだけの」

 お兄ちゃんの貫禄ですね。チェイスが落ちないけれど楽しめる加減をよく知っています。

「ちゅちは、おくばーんね~」

 ブランコをちゃんと止めてチェイスが離れると嬉しそうにグレッグがブランコに座りました。

「リィ! おちてくたたーい」

 後ろからそっと左右のロープを持って揺らすと嬉しそうな声が上がりました。

「リィ、ちゅごい! ブランコちゅちのぉ。おっとおちてぇ~、いーっぱいおちてぇ」

「にぃ、ちぇもぉ」

「まだなのぉ、いまはぁおくばーん、チェチュはぁあーとーで!」

 グレッグは『大人は嘘つき』発言の後からぐんぐんお話上手になってきました。単語の羅列から文章らしくなり、自分の気持ちをはっきりと言えるようにもなりました。

 ここ最近は可愛くおねだりするテクに加えて嫌いな事を回避する方法を模索中です。

『おくはぁ、おぷろはいりゅとぉ、とけちゃうの』

『ぶろっくりは、おくのてきらから~』

『きょうはぁ、おくのおなたが、ケーキちゅきちゅきちたいってぇ』

 全員大爆笑でした。



 チェイスは逃げ足に磨きがかかりハンナやメイサでは追いつかなくなり、ターニャが追いかけ担当になりました。

『チェイス、捕獲完了しましたぁ!』

『タァ、めっ!』

 この一言でターニャが崩れ落ちたのも笑い話の一つです。

 他には様々な魔法の訓練中で、苦手な野菜をグレッグのお皿にこっそりと移動させる転移魔法と、まだ遊びたい時に物陰に隠れる隠蔽魔法の訓練が主流のようです。

 魔法のキャンセルはグレッグの担当です。

『はっ! チェチュの、やたいが、とんでちた! はい、あーんね』

『ムグムグ⋯⋯にぃ、やぁの』

『ピピピ! チェチュはってんちまちたぁ!』

『にぃ、やぁのお!』



 二人を連れてセルゲイ爺ちゃんのところへお花をもらいに来ました。

「じいちゃ、おたなくだたーい! きょおは、おてやにかだるの」

「たーい」

「おお、そうか。お手伝いしてかっこいいのお」

「えへへ、おくかっくいい? あったぁ」

「じぃ、たぁ!」

 グレッグはいまだにセルゲイ爺ちゃんを師匠と仰ぎ日参して教えを仰いでいますが、チェイスにとっては天敵らしくグレッグと一緒の時しかそばに寄りつきません。

 なんでもトレジャーハンター時代に『禁猟区』『発掘禁止エリア』を作られてからだと聞いています。



 グレッグ達のお陰でささくれだった気持ちが落ち着いてきました。今日の来客は彼ら二人の人生に関わる問題で私はただの第三者だというのに恥ずかしい限りです。

 お父様にお任せすれば大丈夫。今まで子供達が引き取られていく時もそのようにしてきて皆幸せになっているのだからと⋯⋯この一週間数えきれないほど自分に言い聞かせた『呪文』を呟きました。

 グレッグとチェイスは絶対に幸せになると決まっているのだからと。

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