【完結】子供を抱いて帰って来た夫が満面の笑みを浮かべてます

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79.子供は侮れませんからね

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「匂いがって何のこと? 長い時間馬車に乗ってたから違う匂いになったのかしら?」

「リィ、のあたまのによい、めよ?」

「⋯⋯まさか! あの、あのね。そうじゃなくて、あれはその」

「二人とも落ち着いて説明しないとグレッグには伝わらないからね」

 笑いを堪えきれなくなったお父様は口を押さえて横を向いてしまわれました。

「ティアは疲れてたから馬車で寝てしまったんだ。それで隣に座って肩を貸しただけなんだ。隣同士に座ってたから匂いが移ってしまったんだと思う」

 ノア様の話を聞きながらジト目を続けていたグレッグはわたくしの顔を見上げて確認してきました。

「のあたま、うちょつちの?」

「嘘じゃないわ。本当に寝てしまったわたくしが椅子から落ちないように隣にいてくださっただけなの。グレッグが信じてくれたら嬉しいわ」

 グレッグが眉間に力を入れて真剣に考えているのを見ていると、何故かとても大切な事が起きている気がしました。

 ここは間違えてはいけない⋯⋯そんな予感がして。

「⋯⋯おのなは、うちょつちの、しんちたらめの」


 (大人は嘘つき、信じたら駄目)


 グレッグがずっと溜め込んでいた心の声です。

「グレッグ、教えてくれてありがとう。確かに嘘をつく人はいっぱいいるわ。でも、ノア様やお父様やわたくしを信じてくれたらとても嬉しいと思う。
ターニャやハンナやメイサやセルゲイ爺ちゃんもグレッグに信じてもらいたいなって思ってるわ」

「リィ、うちょないね、ちゅちの」

「ありがとう、これからも嘘なしでいられるよう頑張るわ」

「⋯⋯のあたま、うちょつちない?」

「ああ、嘘はつかない。グレッグは仲間だもんな」

「⋯⋯⋯⋯のあたま、なまかの? うちょつちない?」

「ああ、ライバルで仲間だ」

「ちゅきちゅきなまか、ぶあんこのライバルもんね」

「そうだな、間違いない」

「おじたまなまか、かっくいい、うちょつちない」

「ああ、かっこいいとは嬉しい事をいうじゃないか。こりゃ、今夜はお祝いだな」

「うん⋯⋯⋯⋯いっぱい、うちょつたないいる、おうちちゅちの、たのちい、ちゅちのいっぱい⋯⋯。
チェチュ、ちゅちの、じいちゃ、ちゅちの、おぷろやの、めいた、ちゅちの⋯⋯ブルックリ、ちらいの⋯⋯ハンナ、ちゅちの⋯⋯ぴーまん、ちらいの⋯⋯」

 一言一言を確認するようにゆっくりと話すグレッグは思いつく限りの好きと嫌いを並べていきます。

 グレッグの顔には好きがたくさんあって嬉しい、嫌いだと言えて嬉しいと書いてあるように思えました。



「今日もありがとうございました。あの、馬車で肩をお貸しくださった事のお礼が遅くなって⋯⋯助かりました」

「私の方こそとても幸せで、まさかグレッグにあんな事を言われるとは思わず⋯⋯少し調子に乗っていたと自覚があったから動揺してしまったけど。
いや、その。なにも、不埒なことは何もしてないけどグレッグに下心を見透かされたようで慌ててしまったと言うか。
それにグレッグの気持ちを聞けて嬉しかった」

 馬車に乗る直前に、明日もグレッグとチェイスに会う時間を作るつもりだと言って帰っていかれました。

 二人でお茶ができたら嬉しいとも。




「そうか、グレッグはまたひとつかっこよくなったのう」

 ノア様をお見送りしていた頃グレッグはセルゲイ爺ちゃんの隣でお喋りを楽しんでいました。

「かっくいいの?」

「ほうじゃ、好きも嫌いも話すのは勇気がいるからなぁ。グレッグはカッコいいぞ」

「じいちゃ、ちゅちの!」

「おお、わしもグレッグとチェイスが大好きじゃよ」

「おくも、だいちゅちの!」

「なら、次は仲間探しじゃのう」

「なまかはがち?」

 キョトンと首を傾げたグレッグです。

「好きができたら今度はどこが好きか。それが分かったら『仲間』じゃろ?」

「うーん」

 腕を組んで首を傾げるのはお父様の仕草によく似ています。

「わしとは何をするのが楽しいかの?」

「おたべり! おたなちゅくる!」

「ほう、ならグレッグとわしはお喋り仲間と花づくりの仲間じゃな」

「わぁ、じいちゃ、なまか、ちゅごい!」




 その二日後ナーシャ様が見つかり事情聴取がはじまったそうです。

 穏やかな毎日が続き子供達を連れて王都の散策や孤児院訪問も可能になりました。チェイスは相変わらずスコップを片手にあちこちを掘り返し、グレッグは『なまかさがし』をはじめました。

 同年代の子供達と追いかけっこをするグレッグに安堵し、おもちゃの取り合いで大きな子供まで泣かしてしまうチェイスを叱るグレッグの成長に感動する日々でした。



 そんなある日、我が家に激震が走ったのです。

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