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73.必殺技のでるタイミングが違う!
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「まあ、コナー卿。フォレスト公爵閣下もお久しぶりですわ。とても素敵なダンスでしたからいても立ってもいられずラングローズ様にお声をおかけしましたの」
「それはどうも。ティア、大丈夫かな?」
ノア様が女性に対して無愛想なのは本当のようです。ろくに返事もせずわたくしの横に来られてブルーム様を無視しておられます。
「はい、ここで座っていたら随分と楽になったように思います」
「フォレスト公爵閣下? 次はわたくしと踊っていただけますかしら」
「申し訳ないが、私はティアとしか踊らないと決めているのでお断りさせていただきます」
ノア様の腕に手を伸ばしたブルーム様の手を避けたノア様がキッパリと断られました。
「まあ! お耳に入れたいお話がございましたのに⋯⋯ダンスの間なら誰にも聞かれずすみますわ」
ブルーム様の目付きはターニャがいたら『毒蜘蛛発見!』と叫んで新聞を丸めはじめそうな独特の光を放っている気がしました。
ダンスの前までは何度も接触を試みるチーム・ドミラスと上手く距離を置けていたので気を許していました。
不安だったダンスが終わり周りの反応は予想よりも上々、にこやかな笑みや拍手もいただき安心しきっておりました。ご令嬢の睨みつける視線は見ないふり・気付かないふりでカウントしておりませんけどね。
ここに座ってまだほんの少ししか経っておりませんのに、その隙をしっかりモノにされるとは社交界の強者の手腕に驚きが隠せません。
「残念ながら女性との内緒話は祖父の代から禁止されていてね、有益な話なら別室で聞くがコナーも同席する」
「本当に宜しいのかしら? フォレスト閣下が気になっておられるナーシャ様の事ですのに」
扇子で口元を隠し艶やかな目付きでノア様を見上げたブルーム様は大層色っぽく、同性のわたくしでさえその魅力的な仕草にドキドキしてしまいました。
(これが講師の方が言っておられた『社交界の猛者の磨き上げられた技』のひとつなのですね。ターニャへの土産話に良さそうですわ)
危機感をうっかり落っことしたわたくしが呑気に観察しておりますとノア様からとんでもないお話が飛び出しました。
「ナーシャ様の話ですか?⋯⋯また修道院を脱走した事とか、王都で見かけた人がいるとかかな?」
(ええ! マジですか!?)
思わず飛び上がりそうになったわたくしの手からグラスを取り、近くのウエイターに渡したノア様が肩に手を置いてこられました。
「ご存知でしたの? さすがフォレスト閣下ですわ。大切な部下の子供を引き取ろうとなさるほど広いお心をお持ちですもの。
やはり、その子供の身辺には注意を払っておられるのかしら?」
「ナーシャ様の話とその話がどう繋がるのか知らないが、プライベートな事柄を噂されるのは好きではないと覚えておいてもらいたい」
ノア様がコナー氏に目で合図を送ると小さく頷いたコナー氏がその場を離れました。
「では、最近社交界で有名になっているお話をご存知でいらして? 子供達を必要以上に世話して恩を売り一石二鳥を狙う女性のお話ですの」
「残念ながら興味はありませんね。社交界の噂など真実が含まれていることの方が少ないと言うのに、わざわざ時間を割くなど馬鹿らしすぎて話にならん」
「フォレスト卿が我が姪とそのように親密であられたとは存じませんでしたなあ」
「まあ、おじさまったら! そんな事をしたらわたくしは周りの方々の嫉妬で丸焼きになってしまいますわ」
広げた扇子で口元を隠したブルーム様のお顔は自信に満ち溢れ、ノア様をチラチラと見ていた令嬢達に目線でマウントをとっています。
わたくし? 完全に蚊帳の外ですね。話のとっかかりとして利用された後は花瓶に生けられた花よりも存在感が薄くなっています。
誰からもスルーされる存在感のなさ⋯⋯わたくし自慢の特技『秘技、壁の花』は発揮する時を間違ってしまったようです。できればブルーム様に目をつけられる前に効果を表して欲しかったと落胆してしまいました。
「楽しそうな話題をしていたようだからねえ。てっきりミランダとの良い話でも聞けるのかと期待したのだが違っていたのか。それは残念」
近くで話されているドミラス侯爵はかなりお酒の量を過ごされたようで、赤くなったお顔をハンカチで拭いては見事に育ったお腹周りをさすっておられます。
「私のパートナーはここにおられるティアです。誤解を招くような言動はお控えください。悪いがこのまま失礼する」
「おお! 高位貴族を前にして一人だけ腰掛けたままの無礼者がいるとは気付きませんでしたなあ。初めてお目にかかるような気もするが、高位貴族の中ではついぞ見かけんその髪色は噂にさえ聞いたこともない⋯⋯わしはチャールズ・ドミラスだが?」
「それはどうも。ティア、大丈夫かな?」
ノア様が女性に対して無愛想なのは本当のようです。ろくに返事もせずわたくしの横に来られてブルーム様を無視しておられます。
「はい、ここで座っていたら随分と楽になったように思います」
「フォレスト公爵閣下? 次はわたくしと踊っていただけますかしら」
「申し訳ないが、私はティアとしか踊らないと決めているのでお断りさせていただきます」
ノア様の腕に手を伸ばしたブルーム様の手を避けたノア様がキッパリと断られました。
「まあ! お耳に入れたいお話がございましたのに⋯⋯ダンスの間なら誰にも聞かれずすみますわ」
ブルーム様の目付きはターニャがいたら『毒蜘蛛発見!』と叫んで新聞を丸めはじめそうな独特の光を放っている気がしました。
ダンスの前までは何度も接触を試みるチーム・ドミラスと上手く距離を置けていたので気を許していました。
不安だったダンスが終わり周りの反応は予想よりも上々、にこやかな笑みや拍手もいただき安心しきっておりました。ご令嬢の睨みつける視線は見ないふり・気付かないふりでカウントしておりませんけどね。
ここに座ってまだほんの少ししか経っておりませんのに、その隙をしっかりモノにされるとは社交界の強者の手腕に驚きが隠せません。
「残念ながら女性との内緒話は祖父の代から禁止されていてね、有益な話なら別室で聞くがコナーも同席する」
「本当に宜しいのかしら? フォレスト閣下が気になっておられるナーシャ様の事ですのに」
扇子で口元を隠し艶やかな目付きでノア様を見上げたブルーム様は大層色っぽく、同性のわたくしでさえその魅力的な仕草にドキドキしてしまいました。
(これが講師の方が言っておられた『社交界の猛者の磨き上げられた技』のひとつなのですね。ターニャへの土産話に良さそうですわ)
危機感をうっかり落っことしたわたくしが呑気に観察しておりますとノア様からとんでもないお話が飛び出しました。
「ナーシャ様の話ですか?⋯⋯また修道院を脱走した事とか、王都で見かけた人がいるとかかな?」
(ええ! マジですか!?)
思わず飛び上がりそうになったわたくしの手からグラスを取り、近くのウエイターに渡したノア様が肩に手を置いてこられました。
「ご存知でしたの? さすがフォレスト閣下ですわ。大切な部下の子供を引き取ろうとなさるほど広いお心をお持ちですもの。
やはり、その子供の身辺には注意を払っておられるのかしら?」
「ナーシャ様の話とその話がどう繋がるのか知らないが、プライベートな事柄を噂されるのは好きではないと覚えておいてもらいたい」
ノア様がコナー氏に目で合図を送ると小さく頷いたコナー氏がその場を離れました。
「では、最近社交界で有名になっているお話をご存知でいらして? 子供達を必要以上に世話して恩を売り一石二鳥を狙う女性のお話ですの」
「残念ながら興味はありませんね。社交界の噂など真実が含まれていることの方が少ないと言うのに、わざわざ時間を割くなど馬鹿らしすぎて話にならん」
「フォレスト卿が我が姪とそのように親密であられたとは存じませんでしたなあ」
「まあ、おじさまったら! そんな事をしたらわたくしは周りの方々の嫉妬で丸焼きになってしまいますわ」
広げた扇子で口元を隠したブルーム様のお顔は自信に満ち溢れ、ノア様をチラチラと見ていた令嬢達に目線でマウントをとっています。
わたくし? 完全に蚊帳の外ですね。話のとっかかりとして利用された後は花瓶に生けられた花よりも存在感が薄くなっています。
誰からもスルーされる存在感のなさ⋯⋯わたくし自慢の特技『秘技、壁の花』は発揮する時を間違ってしまったようです。できればブルーム様に目をつけられる前に効果を表して欲しかったと落胆してしまいました。
「楽しそうな話題をしていたようだからねえ。てっきりミランダとの良い話でも聞けるのかと期待したのだが違っていたのか。それは残念」
近くで話されているドミラス侯爵はかなりお酒の量を過ごされたようで、赤くなったお顔をハンカチで拭いては見事に育ったお腹周りをさすっておられます。
「私のパートナーはここにおられるティアです。誤解を招くような言動はお控えください。悪いがこのまま失礼する」
「おお! 高位貴族を前にして一人だけ腰掛けたままの無礼者がいるとは気付きませんでしたなあ。初めてお目にかかるような気もするが、高位貴族の中ではついぞ見かけんその髪色は噂にさえ聞いたこともない⋯⋯わしはチャールズ・ドミラスだが?」
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