72 / 99
72.今最大級の緊張状態に拍車をかけるのは
しおりを挟む
「気をつけろよ。もしもの時はパーティーを潰してもかまわん」
小さく頷いたノア様がわたくしの腰に手を回してこられました。
「大丈夫、必ず守るから心配はいらない。揉め事が起きてダンスできなかったなんて事になったら、それだけで奴をボコボコにしてしまいそうだが」
最後の方は聞き取れませんでしたが、ノア様がわたくしから手を離して正面に立たれ、両足を揃えて軽くお辞儀をなさいました。
「今宵の全てのダンスをわたくしとお願いできますでしょうか」
近くで隙を狙っていたらしい女性から引き攣ったような悲鳴が聞こえました。
「フォレスト卿がダンスを!」
「全てのダンスって!」
ノア様が差し出した右腕に左腕を添えてダンスフロアへ向かうと、目の前にモーセの海割りのような道ができていきました。
そう、ほぼ強制的にフロアの真ん中に立たされた感じです。今まで踊っていた人も談笑していた人も遠巻きにしてわたくし達を注目しています。
(針の筵⋯⋯生贄⋯⋯道化者⋯⋯)
頭の中に浮かぶのは失敗して笑われるわたくしと一生懸命宥めたり謝ったりするノア様。
緊張しすぎて口元が震えるわたくしに向けてかがみ込んだノア様がとても幸せそうに微笑まれました。
「きゃあ」「うそ!」
ノア様が微笑まれただけで悲鳴が上がるとは、普段どのような態度でパーティーに参加しておられたのか想像できてしまいました。
「こうやって向かい合う時をずっと夢見ていた。心から愛しています⋯⋯永遠の愛と忠誠をティアに」
とんでもない場所での大胆な宣言にショックを受けて倒れかける女性や目を輝かせる人達。
(ここ、こんな緊張している時にそんな事を仰るなんて⋯⋯なんの作戦ですの!? ぎゃ、逆効果ですわ!
既に注目度マックスでしたのに、緊張の針が振り切れそ⋯⋯⋯⋯あ~もぉ~! こんな時こそ気合いですわね! ヤケクソかもですけど、わたくしにはグレッグのハンカチパワーがありますもの!
お父様からだって『お前はやればできる子』だとエールをいただきましたもの。
失敗してもノア様なら骨を拾ってくださるはず。ガラスに張り付いて応援していたグレッグとチェイスの為にも、一世一代の『恥』をかいてませますわ! その後は勿論『笑って誤魔化す』です!)
緊張しすぎると冷静になると言う状態を初めて実感しつつ、これ以上ないほど注目を集めたノア様とわたくしのダンスがはじまりました。
え、結果をお聞きになりたいですか?
わたくしの傷を抉るお話だと申し上げるしかありませんけれど、周りからは及第点をいただいたようです。優しい方ばかりで本当に助かりました。
ダンスは男性の技量がポイントだと言うのは本当だと実感いたしました。ノア様がしっかりと支えてくださったお陰で、何度も遅れ気味になるわたくしはなんとかついていけているように見えたのかもしれません。
時々ほぼ抱えられて動かされていた気がしましたし、わたくしが躓きかけるとノア様は必ず耳元に顔を寄せ話しかけてこられました。
周りを欺くテクニックに助けられたわたくしと騙された皆様という感じです。
今度新しい靴をプレゼントするのだけは忘れないようにしなくては、ノア様の靴は確実に廃棄処分になりますから。
因みに、一曲で終われると思っていたわたくしが浅はかでした。3曲目が終わった頃には意識が飛びかけていたわたくしとは違いノア様は元気いっぱいで、コナー氏が助け出してくださらなければグレッグの不安が的中していたかもしれません。
「無限の体力を持ってるのはお前くらいだ! 休憩なしの3曲で4曲目に突入など何を考えている!」
「本当に仲睦まじくていらっしゃいますのね」
果実水を持たされ椅子に腰掛けていると見知らぬ女性が話しかけてこられました。このドレスはドミラス侯爵の近くにおられた方に違いありません。赤いドレスの裾の刺繍に見覚えがありますもの。
ノア様は少し離れたところでコナー氏のお小言を聞いておられるので気付いていないようです。
「初めまして、リリスティア・ラングローズと申します」
「わたくしはミランダ・ブルーム。ドミラス侯爵の姪ですわ」
ブルームと言えば伯爵家です。紹介もなく向こうから話しかけてきてもギリギリ問題ないとも言えますね。
「フォレスト卿に上手く取り入った手腕、お見事ですわ。誰にも見向きもしないフォレスト卿をあのような手口で陥落させるなど、思いつきもしませんでしたもの」
「何のことを仰っておられるのか分かりかねますが、ノア様は取り入る者に陥落されるような方ではないと思っております」
社交界でそのような噂が出ているのか、チェイスの話を聞き出そうとしているのかはっきり致しませんが、それ以上にノア様への関心も見え隠れしているような気もいたします。
「離婚した女に社交界は相応しくない事をご存知ではないのかしら? 恥ずかしげ⋯⋯」
「ミランダ嬢、お久しぶりです」
小さく頷いたノア様がわたくしの腰に手を回してこられました。
「大丈夫、必ず守るから心配はいらない。揉め事が起きてダンスできなかったなんて事になったら、それだけで奴をボコボコにしてしまいそうだが」
最後の方は聞き取れませんでしたが、ノア様がわたくしから手を離して正面に立たれ、両足を揃えて軽くお辞儀をなさいました。
「今宵の全てのダンスをわたくしとお願いできますでしょうか」
近くで隙を狙っていたらしい女性から引き攣ったような悲鳴が聞こえました。
「フォレスト卿がダンスを!」
「全てのダンスって!」
ノア様が差し出した右腕に左腕を添えてダンスフロアへ向かうと、目の前にモーセの海割りのような道ができていきました。
そう、ほぼ強制的にフロアの真ん中に立たされた感じです。今まで踊っていた人も談笑していた人も遠巻きにしてわたくし達を注目しています。
(針の筵⋯⋯生贄⋯⋯道化者⋯⋯)
頭の中に浮かぶのは失敗して笑われるわたくしと一生懸命宥めたり謝ったりするノア様。
緊張しすぎて口元が震えるわたくしに向けてかがみ込んだノア様がとても幸せそうに微笑まれました。
「きゃあ」「うそ!」
ノア様が微笑まれただけで悲鳴が上がるとは、普段どのような態度でパーティーに参加しておられたのか想像できてしまいました。
「こうやって向かい合う時をずっと夢見ていた。心から愛しています⋯⋯永遠の愛と忠誠をティアに」
とんでもない場所での大胆な宣言にショックを受けて倒れかける女性や目を輝かせる人達。
(ここ、こんな緊張している時にそんな事を仰るなんて⋯⋯なんの作戦ですの!? ぎゃ、逆効果ですわ!
既に注目度マックスでしたのに、緊張の針が振り切れそ⋯⋯⋯⋯あ~もぉ~! こんな時こそ気合いですわね! ヤケクソかもですけど、わたくしにはグレッグのハンカチパワーがありますもの!
お父様からだって『お前はやればできる子』だとエールをいただきましたもの。
失敗してもノア様なら骨を拾ってくださるはず。ガラスに張り付いて応援していたグレッグとチェイスの為にも、一世一代の『恥』をかいてませますわ! その後は勿論『笑って誤魔化す』です!)
緊張しすぎると冷静になると言う状態を初めて実感しつつ、これ以上ないほど注目を集めたノア様とわたくしのダンスがはじまりました。
え、結果をお聞きになりたいですか?
わたくしの傷を抉るお話だと申し上げるしかありませんけれど、周りからは及第点をいただいたようです。優しい方ばかりで本当に助かりました。
ダンスは男性の技量がポイントだと言うのは本当だと実感いたしました。ノア様がしっかりと支えてくださったお陰で、何度も遅れ気味になるわたくしはなんとかついていけているように見えたのかもしれません。
時々ほぼ抱えられて動かされていた気がしましたし、わたくしが躓きかけるとノア様は必ず耳元に顔を寄せ話しかけてこられました。
周りを欺くテクニックに助けられたわたくしと騙された皆様という感じです。
今度新しい靴をプレゼントするのだけは忘れないようにしなくては、ノア様の靴は確実に廃棄処分になりますから。
因みに、一曲で終われると思っていたわたくしが浅はかでした。3曲目が終わった頃には意識が飛びかけていたわたくしとは違いノア様は元気いっぱいで、コナー氏が助け出してくださらなければグレッグの不安が的中していたかもしれません。
「無限の体力を持ってるのはお前くらいだ! 休憩なしの3曲で4曲目に突入など何を考えている!」
「本当に仲睦まじくていらっしゃいますのね」
果実水を持たされ椅子に腰掛けていると見知らぬ女性が話しかけてこられました。このドレスはドミラス侯爵の近くにおられた方に違いありません。赤いドレスの裾の刺繍に見覚えがありますもの。
ノア様は少し離れたところでコナー氏のお小言を聞いておられるので気付いていないようです。
「初めまして、リリスティア・ラングローズと申します」
「わたくしはミランダ・ブルーム。ドミラス侯爵の姪ですわ」
ブルームと言えば伯爵家です。紹介もなく向こうから話しかけてきてもギリギリ問題ないとも言えますね。
「フォレスト卿に上手く取り入った手腕、お見事ですわ。誰にも見向きもしないフォレスト卿をあのような手口で陥落させるなど、思いつきもしませんでしたもの」
「何のことを仰っておられるのか分かりかねますが、ノア様は取り入る者に陥落されるような方ではないと思っております」
社交界でそのような噂が出ているのか、チェイスの話を聞き出そうとしているのかはっきり致しませんが、それ以上にノア様への関心も見え隠れしているような気もいたします。
「離婚した女に社交界は相応しくない事をご存知ではないのかしら? 恥ずかしげ⋯⋯」
「ミランダ嬢、お久しぶりです」
19
お気に入りに追加
2,747
あなたにおすすめの小説
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・
月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。
けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。
謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、
「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」
謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。
それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね――――
昨日、式を挙げた。
なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。
初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、
「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」
という声が聞こえた。
やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・
「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。
なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。
愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。
シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。
設定はふわっと。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる