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68.お嬢様ならしれっと誤魔化せます
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マナーとダンスの強化訓練がはじまってから筋肉痛で動けないわたくしを気遣って、ノア様はマッサージオイルやハーブティーなどをプレゼントしてくれました。
それにしても、まさかこんな日が来るとは思いませんでした。学園生時代からダンスは苦手でしたが成績は割と良い方でしたし、マナーも問題ありませんでした。
マーベル伯爵家に嫁いでからは裏方が殆どで、ガーデンパーティーでも主催者の一人として挨拶回りをするより食事や飲み物の補給の方がメインでした。
最後にカーテシーしたがいつだったか忘れててしまったほどです。
先生がいらっしゃった時だけでは到底間に合わない落ちこぼれのわたくしは、朝から晩まで時間を見つけては自主練を続けました。
筋肉痛でマリオネットのような歩き方になっているわたくしですが、ノア様の真似をしたグレッグがエスコートしようとしてくれるようになったのはご褒美でしょうか。
いつだったかグレッグはチェイスを守る小さな騎士のようだと思ったことがありますが最近は小さな紳士になってきました。そのお陰なのでしょうか⋯⋯不安そうな仕草をすることが減り、やりたい事を自分から口にすることが増えてきた気がします。
ノア様とグレッグが初めてブランコで遊んだ日から一ヶ月以上経ち、グレッグにとってノア様は『ライバル』で『なまか』で『だいじなももだち』になったそうです。
お兄ちゃん子だったチェイスもノア様がいらっしゃると目を輝かせるようになりました。顔を合わせるたびにノア様によじ登り、肩車を強請っては屋敷中を練り歩かせようとしているのは良いのか悪いのか悩むところですけれど。
子供達を甘やかしすぎているように見える時もありましたが、子供達が叱られているのを見たことがあります。
座り込んだノア様が腕を組んでいる前に並んで立つ子供達が何をしでかしたのか、ノア様が何を仰っているのかは聞こえませんでしたが、最後に大きな声の⋯⋯。
『ごめんなさい』
『たぃ!』
が聞こえてきました。その直後に子供達が『はい!』と言いながら敬礼をしたのには笑ってしまいました。
ノア様、子供達を部下と間違えてます?
ナーシャ様とドラミス侯爵家の動向は気になりましたが、下手に動いてチェイスの秘密がバレても困りますし、ナーシャ様達を刺激したりノア様のご迷惑になってもいけないと沈黙を守りました。
わたくしに出来たのは子供達の不要な外出を控え、予定は早めに知らせる事くらいでした。
ナーシャ様は今も修道院におられますが何度も面会に来ている怪しい人物はドラミス侯爵家の当主様との連絡役だと判明していますから、間違いなく何か企んでいるのでしょう。
だって、溺愛している娘に会いに行かず間に他人を挟んで連絡をとりあうなんてろくな事を考えていないはずですもの。
できるならナーシャ様がこれ以上の罪を重ねないで欲しいと心から願います。チェイス可愛さというのもありますが、ナーシャ様の境遇には少し切なく思うところもありますから。
政略結婚なのか恋愛結婚なのかわかりませんけれど、そのどちらであっても長く連れ添えばそれなりに心を通わせておられたでしょう。
ナーシャ様は旦那様に対して好意や愛情があったから不貞されて怒りや嫉妬心が生まれたのではないでしょうか。
夫との間に思い出もなく、何の思い入れもないまま愛人や庶子の存在を知ったわたくしなどは『呆れた』だけでした。
愛している方に何度も裏切られるのはどれほど辛かったか⋯⋯。罪を償い心安らかになられる事を祈ります。
カーテシーは何とか及第点をもらいましたが、ダンスについては『あとはフォレスト閣下に望みを託しましょう』と言われる程度に進化?した頃、ノア様からドレスが届きました。
裾をひくアイボリーのガウンは淡い紫の花と緑の葉がメインの捺染布で、前身頃は紐締めのコンペール形式です。
レースを重ねたペチコートとフィシューには白糸と銀糸で細やかな刺繍が施されていました。
「えーっと⋯⋯ 刺繍、細か⋯⋯これっていつから準備しておられたんですかね~。ちょっと、うん」
トルソーに着せ掛けながらターニャが少し顔を引き攣らせています。
流行りのローブ・ア・ラングレースなのは予想通りですが、問題は裾をひいている事です。
「こ、これって⋯⋯ダンスの難易度が上がったような。えーっと、取り敢えずクローゼットに片付けておきましょう」
翌日のダンスレッスンで先生に相談したのですが、ポロリと扇子を落とし硬直されたのは見なかった事に致しました。
魑魅魍魎の跋扈する魔窟にはどんな魔物が棲息しているのか不安ばかりが膨らんでいきますが、応援してくれる子供達の為にも負けられません。
「きっとなんとかなる⋯⋯最後は気合いと根性で切り抜けるわ」
「お嬢様なら、派手に転んでもしれっと誤魔化せますから。大丈夫!」
ターニャの摩訶不思議な応援に首を傾げつつ『いざ出陣』です。
それにしても、まさかこんな日が来るとは思いませんでした。学園生時代からダンスは苦手でしたが成績は割と良い方でしたし、マナーも問題ありませんでした。
マーベル伯爵家に嫁いでからは裏方が殆どで、ガーデンパーティーでも主催者の一人として挨拶回りをするより食事や飲み物の補給の方がメインでした。
最後にカーテシーしたがいつだったか忘れててしまったほどです。
先生がいらっしゃった時だけでは到底間に合わない落ちこぼれのわたくしは、朝から晩まで時間を見つけては自主練を続けました。
筋肉痛でマリオネットのような歩き方になっているわたくしですが、ノア様の真似をしたグレッグがエスコートしようとしてくれるようになったのはご褒美でしょうか。
いつだったかグレッグはチェイスを守る小さな騎士のようだと思ったことがありますが最近は小さな紳士になってきました。そのお陰なのでしょうか⋯⋯不安そうな仕草をすることが減り、やりたい事を自分から口にすることが増えてきた気がします。
ノア様とグレッグが初めてブランコで遊んだ日から一ヶ月以上経ち、グレッグにとってノア様は『ライバル』で『なまか』で『だいじなももだち』になったそうです。
お兄ちゃん子だったチェイスもノア様がいらっしゃると目を輝かせるようになりました。顔を合わせるたびにノア様によじ登り、肩車を強請っては屋敷中を練り歩かせようとしているのは良いのか悪いのか悩むところですけれど。
子供達を甘やかしすぎているように見える時もありましたが、子供達が叱られているのを見たことがあります。
座り込んだノア様が腕を組んでいる前に並んで立つ子供達が何をしでかしたのか、ノア様が何を仰っているのかは聞こえませんでしたが、最後に大きな声の⋯⋯。
『ごめんなさい』
『たぃ!』
が聞こえてきました。その直後に子供達が『はい!』と言いながら敬礼をしたのには笑ってしまいました。
ノア様、子供達を部下と間違えてます?
ナーシャ様とドラミス侯爵家の動向は気になりましたが、下手に動いてチェイスの秘密がバレても困りますし、ナーシャ様達を刺激したりノア様のご迷惑になってもいけないと沈黙を守りました。
わたくしに出来たのは子供達の不要な外出を控え、予定は早めに知らせる事くらいでした。
ナーシャ様は今も修道院におられますが何度も面会に来ている怪しい人物はドラミス侯爵家の当主様との連絡役だと判明していますから、間違いなく何か企んでいるのでしょう。
だって、溺愛している娘に会いに行かず間に他人を挟んで連絡をとりあうなんてろくな事を考えていないはずですもの。
できるならナーシャ様がこれ以上の罪を重ねないで欲しいと心から願います。チェイス可愛さというのもありますが、ナーシャ様の境遇には少し切なく思うところもありますから。
政略結婚なのか恋愛結婚なのかわかりませんけれど、そのどちらであっても長く連れ添えばそれなりに心を通わせておられたでしょう。
ナーシャ様は旦那様に対して好意や愛情があったから不貞されて怒りや嫉妬心が生まれたのではないでしょうか。
夫との間に思い出もなく、何の思い入れもないまま愛人や庶子の存在を知ったわたくしなどは『呆れた』だけでした。
愛している方に何度も裏切られるのはどれほど辛かったか⋯⋯。罪を償い心安らかになられる事を祈ります。
カーテシーは何とか及第点をもらいましたが、ダンスについては『あとはフォレスト閣下に望みを託しましょう』と言われる程度に進化?した頃、ノア様からドレスが届きました。
裾をひくアイボリーのガウンは淡い紫の花と緑の葉がメインの捺染布で、前身頃は紐締めのコンペール形式です。
レースを重ねたペチコートとフィシューには白糸と銀糸で細やかな刺繍が施されていました。
「えーっと⋯⋯ 刺繍、細か⋯⋯これっていつから準備しておられたんですかね~。ちょっと、うん」
トルソーに着せ掛けながらターニャが少し顔を引き攣らせています。
流行りのローブ・ア・ラングレースなのは予想通りですが、問題は裾をひいている事です。
「こ、これって⋯⋯ダンスの難易度が上がったような。えーっと、取り敢えずクローゼットに片付けておきましょう」
翌日のダンスレッスンで先生に相談したのですが、ポロリと扇子を落とし硬直されたのは見なかった事に致しました。
魑魅魍魎の跋扈する魔窟にはどんな魔物が棲息しているのか不安ばかりが膨らんでいきますが、応援してくれる子供達の為にも負けられません。
「きっとなんとかなる⋯⋯最後は気合いと根性で切り抜けるわ」
「お嬢様なら、派手に転んでもしれっと誤魔化せますから。大丈夫!」
ターニャの摩訶不思議な応援に首を傾げつつ『いざ出陣』です。
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