【完結】子供を抱いて帰って来た夫が満面の笑みを浮かべてます

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66.新しいグレッグワード

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「閣下、そろそろお時間です」

 コナー氏が茂みから出てノア様に声をかけられました。

「ああ、そうだな。グレッグ、今日はとても楽しかった。また来ても良いかな?」

「うん、はい! ノアたま、なまかなからちゅきでちゅ。またあちょびまちゅ」

「⋯⋯なまかなから?⋯⋯仲間⋯⋯仲間だから好き?」

「ノアたま、おいこーなまかになったからねー。いっちょにリィちゅきちゅきと、おあなちちまつ」

「おいこう⋯⋯お利口か? そうか、お利口仲間、ありがとう。後は⋯⋯えーっと、ちゅきだったか? 一緒に好き好き⋯⋯おあなおあなおあな⋯⋯お話ししますだな。うん、リィの好きなところいっぱいお話ししよう」

 年齢より幼いグレッグの言葉を適当に誤魔化さず一生懸命理解しようとしてくださるノア様の誠実な態度に感動しました。

 グレッグの言葉は興奮すると益々分かりにくくなるのですが、ほんの数ヶ月前まで単語しか話せなかったことを思うと格段の進歩です。

 何も知らない人達の中には幼い話し方しか出来ないとグレッグに言う人もいるでしょうが、ノア様なら公爵家に行った後につく家庭教師や使用人の選別に配慮してくださるでしょう。

 知識欲もありますし頭も良い子です。周りの様子に過敏に反応してしまう事に気を配ってあげれば言葉もマナーも直ぐに追いつくはずです。

 チェイスの実父に関するお話には驚きましたが、ノア様と子供達の関係については安心できそうです。



 玄関先でグレッグと共にノア様とコナー氏をお見送りすると満足そうなグレッグがわたくしに抱きついてきました。

「じいちゃからおたな、もら⋯⋯いたたってくるね」

「セルゲイ爺ちゃんからいただいてくるの?」

「ちょう、ぼくからのぷねでんと。いただいてきまつ」

 張り切って庭に駆けて行くグレッグの後ろ姿を見ながら、『思ったより早く別れがきそう』だと寂しい気持ちになりました。



 その後、グレッグから黄色いナスタチウムをもらいました。

「こえ、たびりるってきいてきまちた。ほんとにたびりるの?」

「ええ、食べれるわ。ナスタチウムは色も綺麗だし美味しいのよ」

 ハスのような丸い葉と金色の花をつけるナスタチウムは葉・花・果実・種子が食用にできます。辛みと酸味がありサラダや彩りによく利用される上に、独特の香りでアブラムシを遠ざけるのでコンパニオンプランツにもなるのです。

「それにこのお花や葉っぱは虫が嫌がるのよ」

「こえ、かっくいいおたな? むちにまけないは『つおい』でつ!」

 ここ最近は『かっこいいと強い』がお気に入りのグレッグ⋯⋯小さくても男の子だなぁと微笑ましく思います。

「グレッグ様、葉っぱと泥まみれですよ~。さぁ、お着替えしましょうね~」

 メイサに声をかけられたグレッグは『まだ、じいちゃんとこ』と言いながら逃げかけましたが、あっさりと捕獲されて着替えに連れて行かれました。

「メ、メイチャ~! おぷ、おぷろはなちでぇー!」

「お風呂はありでーす」

「む~り~! メイチャ、てってんいたいのー」

「目に石鹸入らないように気をつけますから大丈夫でーす。最近は失敗してませんからね」

「リィ~、ヘルプミュ~」

 新しいグレッグワードが出ました。『ヘルプミー』より可愛いですね。

 遠くなる毎に小さくなっていくグレッグ達の声に思わず吹き出してしまいました。

 マーベル伯爵家に来るまでお風呂や石鹸を知っていたか怪しい子供達はお風呂で身体を洗われるのが今でも苦手です。

 ハンナは手慣れていたので割とスムーズに洗えたのですが、子供に慣れていなかったメイサの時は目に石鹸が入ってしまったり逃げようとして滑って転んだり⋯⋯と、色々やらかしたようです。

 暴力を受けていたせいで身体に触られるのを怖がっていましたから余計にお風呂は嫌だったのでしょう。



 病気にならずに済んで良かったと思っていましたが、亡くなるまで一度もお風呂に入らなかった他国の王や女王がいた事を思い出しました。

 彼等はお風呂よりも亜麻布が清潔を保つと考えていて貧しい人々はオイル引きの布やジュートやヘンプの織物を使っていたとか。

 今では想像も出来ませんけれど⋯⋯。

 子供達は王宮に着く前にお風呂に入れ髪を短く切って梳いたと聞いていますが、マーベル伯爵家に来た時の子供達の臭いは今でも忘れられません。

 子供達の怯え具合からお風呂に入ろうと言える状況ではなかったので食事を先にしましたが、ノミやシラミがいなくて本当にラッキーでした。



 その日から、短い時間ですがノア様は毎日グレッグとチェイスに会いに来られるようになられ、楽しそうにお話ししたり遊んだりしておられました。

 長閑な3人に比べてわたくしは⋯⋯。

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