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64.腹黒さんは意外にも⋯⋯
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仲間が出来て舞い上がったグレッグはノア様を庭に誘いました。
「チェス、ねんねの。おじたんブランコちたい? おたなもある」
「案内してくれるかな?」
「うん⋯⋯はい! おじたん、こっちいっちょいこうね」
ノア様の手を引いたグレッグは庭に案内する為に応接室を出て行きました。
「おじさんじゃなくてノア⋯⋯ノア様と呼んでくれるかな?」
「はい! ノアたま、おにわに、じいちゃんいる。じいちゃんすごいの、かっくいーよ」
「セルゲイ爺ちゃんかな?」
「はい、じいちゃんちゅきの。おたな、ちれいしね」
遠ざかって行くノア様とグレッグのお喋りが聞こえてきます。その少し後からメイサがついて行き、ハンナはチェイスを部屋に連れて行きました。
「初めはどうなることかと思ったが、あれは仲良くなって良かったと言うべきか? 少し時間がかかりそうだし、掛けてお待ちください」
苦笑いを浮かべたお父様がコナー氏にソファを勧め、ターニャがお茶を淹れ直しました。
「我が主人よりグレッグ様の方が恋愛の熟練者のようです」
コナー氏は生真面目な顔をしておられますが口元が引くついて笑いを堪えきれていません。
「ノアがブランコ⋯⋯壊さなければ良いが」
ニヤつきながらお茶を飲むコナー氏の所作は間違いなく高位貴族のものでした。
「そう言えばコナー氏はノア様の乳兄弟だとお聞きしました」
「はい、私はフォレスト公爵家の縁戚にあたるコナー伯爵家の次男です。主人は早くに母君を亡くされましたので、乳母となった母上と私は公爵家で暮らしておりました。
そのせいで父上や兄上よりも主人の方が家族らしく、ついタメ口を聞いてしまう事があります。
今後そのような口調をお聞かせしてしまう事も多いかもしれませんがご容赦していただければと思います」
「リリスや子供達の為の護衛は領地から私兵を呼び寄せますが、先ずは公爵家がこの屋敷周りに配置しておられる護衛に休憩所を提供しましょう」
「お気付きでしたか⋯⋯流石ラングローズ卿です」
小さく頷いたコナー氏がお父様を見る目には憧憬とでも言いしょうか⋯⋯少し熱を帯びた色が見えていました。
「しかし、フォレスト公爵家がこの屋敷周りに護衛を付けられた理由がチェイスとは思いませんでしたなあ」
マーベル伯爵家絡みで残党がいた時のために公爵家がこっそり護衛を配置しているのだろうとお父様は仰っておられました。とても優秀な方ばかりなのでわたくしは全く気付いていませんでしたが、買い物や教会などに出かけた時いつも複数の護衛が周りを警戒してくれていたそうです。
「これから色々と忙しくなりそうですな」
お父様はコナー氏が気に入っておられるようですしコナー氏も楽しそうで、議会に上がっている議題や政策などの話題で盛り上がっておられます。
白熱する議論にわたくしは途中からついていけなくなってしまいました。勉強不足⋯⋯反省です。
「我が主人はもう29歳ですから、公爵家としてこれ以上呑気にしていられません。リリスティア様にお会いする前は結婚相手を探すより養子をもらう方が良いなどと言っておられたくらいで⋯⋯温情をいただけると助かります」
コナー氏から積極的なお言葉が出るとは意外でした。
「ノア様ならいくらでもお相手がおられますのに」
自分を卑下する言葉を口にするのはお世辞を言わせようとしているように思えて⋯⋯わざわざ傷物を選ばなくても良い気がすると言う言葉は口にしませんでした。
「あの歳までよく言えば純情一途、正直に言えばドン引きする程のしつこさで。猪突猛進と言うか愚直と言うか、昔は今よりもっと真面目すぎて損をするタイプでした。今回のチェイス様の件にしても、自身の評判に悪影響があるかも知れないと言っても気にせず引き受けてしまいますし。
それを許容していただけると助かります」
コナー氏はチェイスの件で評判を落としかねないと心配なのは公爵家ではなく『ノア様ご自身』と仰いました。言葉の端々からノア様を大切に思っておられるのが伝わってきて心が温かくなるような気持ちになりました。
「フォレスト卿は良い友・良い秘書官に恵まれておられる」
「え? あ、良いのではなく『腹黒い』と常々言われておりますから。あーっと、そろそろ主人を回収して仕事をさせなくては」
褒められるのは苦手なようです。コナー氏は居心地悪そうに赤くなった耳をこすりながら立ち上がりお父様に簡易な礼をされました。
「ブランコか花壇の辺りでしょうからご案内いたしますね」
コナー氏を裏庭に案内するとグレッグの声がブランコの方から聞こえてきました。
「むう、むむーん!」
いったい何をしているのでしょう? コナー氏と2人で顔を見合わせてしまいました。
「チェス、ねんねの。おじたんブランコちたい? おたなもある」
「案内してくれるかな?」
「うん⋯⋯はい! おじたん、こっちいっちょいこうね」
ノア様の手を引いたグレッグは庭に案内する為に応接室を出て行きました。
「おじさんじゃなくてノア⋯⋯ノア様と呼んでくれるかな?」
「はい! ノアたま、おにわに、じいちゃんいる。じいちゃんすごいの、かっくいーよ」
「セルゲイ爺ちゃんかな?」
「はい、じいちゃんちゅきの。おたな、ちれいしね」
遠ざかって行くノア様とグレッグのお喋りが聞こえてきます。その少し後からメイサがついて行き、ハンナはチェイスを部屋に連れて行きました。
「初めはどうなることかと思ったが、あれは仲良くなって良かったと言うべきか? 少し時間がかかりそうだし、掛けてお待ちください」
苦笑いを浮かべたお父様がコナー氏にソファを勧め、ターニャがお茶を淹れ直しました。
「我が主人よりグレッグ様の方が恋愛の熟練者のようです」
コナー氏は生真面目な顔をしておられますが口元が引くついて笑いを堪えきれていません。
「ノアがブランコ⋯⋯壊さなければ良いが」
ニヤつきながらお茶を飲むコナー氏の所作は間違いなく高位貴族のものでした。
「そう言えばコナー氏はノア様の乳兄弟だとお聞きしました」
「はい、私はフォレスト公爵家の縁戚にあたるコナー伯爵家の次男です。主人は早くに母君を亡くされましたので、乳母となった母上と私は公爵家で暮らしておりました。
そのせいで父上や兄上よりも主人の方が家族らしく、ついタメ口を聞いてしまう事があります。
今後そのような口調をお聞かせしてしまう事も多いかもしれませんがご容赦していただければと思います」
「リリスや子供達の為の護衛は領地から私兵を呼び寄せますが、先ずは公爵家がこの屋敷周りに配置しておられる護衛に休憩所を提供しましょう」
「お気付きでしたか⋯⋯流石ラングローズ卿です」
小さく頷いたコナー氏がお父様を見る目には憧憬とでも言いしょうか⋯⋯少し熱を帯びた色が見えていました。
「しかし、フォレスト公爵家がこの屋敷周りに護衛を付けられた理由がチェイスとは思いませんでしたなあ」
マーベル伯爵家絡みで残党がいた時のために公爵家がこっそり護衛を配置しているのだろうとお父様は仰っておられました。とても優秀な方ばかりなのでわたくしは全く気付いていませんでしたが、買い物や教会などに出かけた時いつも複数の護衛が周りを警戒してくれていたそうです。
「これから色々と忙しくなりそうですな」
お父様はコナー氏が気に入っておられるようですしコナー氏も楽しそうで、議会に上がっている議題や政策などの話題で盛り上がっておられます。
白熱する議論にわたくしは途中からついていけなくなってしまいました。勉強不足⋯⋯反省です。
「我が主人はもう29歳ですから、公爵家としてこれ以上呑気にしていられません。リリスティア様にお会いする前は結婚相手を探すより養子をもらう方が良いなどと言っておられたくらいで⋯⋯温情をいただけると助かります」
コナー氏から積極的なお言葉が出るとは意外でした。
「ノア様ならいくらでもお相手がおられますのに」
自分を卑下する言葉を口にするのはお世辞を言わせようとしているように思えて⋯⋯わざわざ傷物を選ばなくても良い気がすると言う言葉は口にしませんでした。
「あの歳までよく言えば純情一途、正直に言えばドン引きする程のしつこさで。猪突猛進と言うか愚直と言うか、昔は今よりもっと真面目すぎて損をするタイプでした。今回のチェイス様の件にしても、自身の評判に悪影響があるかも知れないと言っても気にせず引き受けてしまいますし。
それを許容していただけると助かります」
コナー氏はチェイスの件で評判を落としかねないと心配なのは公爵家ではなく『ノア様ご自身』と仰いました。言葉の端々からノア様を大切に思っておられるのが伝わってきて心が温かくなるような気持ちになりました。
「フォレスト卿は良い友・良い秘書官に恵まれておられる」
「え? あ、良いのではなく『腹黒い』と常々言われておりますから。あーっと、そろそろ主人を回収して仕事をさせなくては」
褒められるのは苦手なようです。コナー氏は居心地悪そうに赤くなった耳をこすりながら立ち上がりお父様に簡易な礼をされました。
「ブランコか花壇の辺りでしょうからご案内いたしますね」
コナー氏を裏庭に案内するとグレッグの声がブランコの方から聞こえてきました。
「むう、むむーん!」
いったい何をしているのでしょう? コナー氏と2人で顔を見合わせてしまいました。
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